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111:村の教会へ

<村の教会>


「それにしても、皆さん勇者の部屋を選ばれるとは、お目が高いですね~」


 嬉しそうにティーカップを並べるシスターシーアの言葉に対し、俺たちが不思議そうな顔をしていると、彼女はヌフフフーと嬉しそうに笑った。


「なんたって、ウチのおじーちゃ……コホンっ、神父クーリエは幼い頃に神都ポートリアで勇者様に命を救ってもらったことがある生き字引なのです! 勇者の部屋に泊まった物好き……じゃなくて好奇心旺盛な方々には片っ端からその話をしたいらしく……」


『さあワラントに向かいましょ』


「おう」


 ロザリィとセフィルがそそくさと旅立ちの準備を始めた。


「待ってええええ! 老い先短いおじーちゃんの生き甲斐なのぉぉぉ!!」


「おじいさんの身体…どこか悪いの?」


「いえ、ピンピンしてます!」


「やっぱ行くぞ!!」


「待っでええええっ!!」


 うーん、シーアさんは一言多いタイプみたいだなぁ。


「私もちっちゃい頃から英雄譚えいゆうたんとかいっぱい聞いてて思い入れもあるんですーっ! 私のおにーちゃんなんて勇者様と同じ名前なんですよっ!!」


 なぬっ!?

 勇者カトリと同じ名前の兄ってまさか……


「お兄さん…神都ポートリアで商人してる…?」


 クレアの言葉に今度はシスターシーアが驚愕した。


「ええええっ! おにーちゃんの知り合いっ!? すごいねっ! 世の中狭いねっ!!」


 そういえば前にカトリのにーちゃんは「祖父がお世話になった人から名前をもらった」とは言ってたものの、まさか命の恩人だったとは。

 しかし、実家が教会なのにそれを継がずに商売人になっちゃうとは、カトリのにーちゃんも思い切ったことするなぁ。


「でも、シーアさんは勇者が最後どうなったのか知ってるの?」


 エマの質問に、シスターシーアはしょんぼりと寂しげな顔になった。


「先の戦いで亡くなったとだけ聞いています……。今や勇者や魔王の存在を知る者はほとんど居ませんし、まるでこの世界の国々がそれを意図して隠しているみたいで……」


 そういやプライア国も俺たちが観光地として誘致プロジェクトを立ち上げるまで存在が伏せられてたし、魔王について知る人も全然居なかったもんな。

 前の世界では大国の歴史ですら改竄かいざん出来たのだから、それよりも教育水準の低いこの世界ならもっと容易だろう。

 でも、世界征服を企む魔王を勇者が命がけで止めたのだから、本来ならば偉人として後々も語られていてもおかしくないわけで……何で勇者カトリは存在が抹消されてるんだ?


 俺が不安そうにしていると、カレンさんが俺の肩をポンポンと叩いてからシスターシーアの方へ向いた。


「勇者は、とても強い武人だった……と聞いているわ」


 カレンさんがぼそりと呟く。

 そうか、この人は勇者と一緒に魔王と戦ったのか!


「ただ、便宜上は勇者や魔王と呼んでいるけど、二人とも実際は人間同士の欲望に巻き込まれて戦わざるをえなかった被害者なのよ……。本当に恐ろしいのは人間の欲望と……悪意」


 その言葉にクレアとエマはビクッと震えて俯いてしまった。


「カレン、ちょいストップ」


 ノーブさんが耳打ちをすると、カレンさんはアワアワしながら手をバタバタと振った。

 

「まままま、まあ今の世はとても平和だから! 昔よりはナンボかマシよっ!!」


 つまりマシなだけで良いわけではないというのを隠しきれていないのがとてもカレンさんらしいけど、確かにリソースリークを起因とした病死を根絶しない限りは「マシ」の域を脱することは無いだろう。


「ちょっとおねーさん暗い話題振っちゃったね~、ごめんねっ」


 カレンさんがラフィート様そっくりなポーズでウインクしながら片手でゴメンのジェスチャーをすると、シスターシーアが首を傾げた。


「……誰がおねーさん?」


「おい小娘、ちょっと表に出てもらおうか」


 妙齢の女性に余計な一言を無意識に放ってしまった小娘さんの首根っこを掴み、カレンさんは邪悪な笑顔を浮かべた。


 あー、カレンさんの素はこんな感じなんだろうなぁ。

 獣人ってそういうイメージだもんなー。


「ノーブさん、がんば!」


「お前もな」


 お互い嫁が超強いと色々大変ですね……と、そんなコトを考えていると



コンコンコンッ



 部屋にノックの音が響いてからドアが開いた。


「お待たせして申し訳ありません。私が当教会で神父をしておりますクーリエと申します」


 魔王と勇者の戦いが70年以上前なのだから、この人はそれ以上の年齢ということになるが、見た目以上に若々しく見える。

 ……と、俺の表情から内心を察したのか、シスターシーアがおかしそうに笑った。


「んふふふー、おじーちゃんはハーフエルフだからなかなか年をとらないみたいなのっ。もしかしたら私より長生きするかもしれないねっ」


 相変わらず一言多いシスターシーアの頭を、クーリエ神父がポカリと叩いて溜め息を吐いた。


「孫より長生きなんて勘弁してほしいですのぅ……」


 うーん、異種族ならではの悩みだなぁ。

 ノーブさんとカレンさんも今後色々と大変そうだけど頑張って頂きたいところだ。


「さて、話は本題に入りますが皆様方は何故に勇者の間をお選びに?」


 クーリエさんの質問に一瞬悩みつつも、下手に嘘を吐く意味も無いので正直に答えることにする。


「最近、神都ポートリアで渡航が可能になったプライアという国で勇者と魔王について話を伺い、それで気になって……。あと、貴方のお孫さんと同じ名前で面白いなと思って」


 俺がそう答えるとクーリエさんは驚愕した。

 というか、シスターシーアとそっくりな驚き方で、思わず笑ってしまった。


「なるほど、カトリの知り合いでしたか。それで、ヤツは今どうしておりますかな?」


 んー、リカナ商会でやらかしたドジっ子エピソードを披露しても良いのだけど、少し株を上げといてやるか。


「にーちゃんは僕の働いていた店によく仕事で来てましたけど元気してますよ。最近は超美人な彼女と仲良さそうにしている姿もよく見ます」


 現時点では交際に至っていない(はず)なのだけど、フィーネのパワーをもってして他の女に負けることはまず無いだろう。

 だが、俺の言葉にシスターシーアは呆然としたまま固まってしまった。

 しばらくして「あ……あ……」と壊れかけた人形のように声を絞り出すと……


「あの、元クソニートに、彼女……?」


 なんかサラッと酷いコト言われてるよ!!


「教会の家に生まれながら、神なんてなーいさっ、寝ぼけた人が見間違えたのさっ、とか言ってたおにーちゃんが……!」


 その歌いろいろ危ない!!


「か、かのじょ……」


 ガクリとうなだれるシスターシーア。

 これはまさか「大好きなお兄ちゃんを取られた! 他の女に取られるくらいなら……」的なヤンデレ展開ですか!?

 でも相手は世界最強の女だぞ!

 というかシスターとして立場的にケンカ売ったらダメなやつ!!


「私の方が絶対先に彼氏できると思ってたのに先越されたアアアアァァァ!!!」


 あー、そっちですか。

 まあ普通そうだよね。


「うぅ……こうなったら小姑こじゅうととしておにーちゃんの嫁をいびってやる」


 うわっ、コイツひでえ!

 だが、クレアが溜め息を吐きながら首を左右に振り、シスターシーアをじっと見つめた。


「貴方では彼女に…勝てない。睨まれるだけで…失禁する恐れすらある」


「失禁で済むならマシじゃない?」


 クレアと俺の会話にシスターシーアは震え上がる。


「ひ、ひぃぃっ!! おにーちゃんと一緒に居るひと、いったい何者なんですかぁっ!!?」


「霊長類最強の女かな……」


「レイチョウルイの意味が分かりませんけど、最強と言う時点でお察ししましたぁっ!!」


 それにしても、クレアがおしっこネタをジョークで言えるようになるとは、成長したなぁ。

 セフィルのうっかりで閉じこめられてお小水をオーバーフローしたトラウマはすっかりと……


「お前、おしっこ漏らした時のコトを冗談で言えるようになるなんて成長したなハハハっ!」


 シスターシーアの失言に感化されたのか、セフィルが恐ろしい一言を暴発。

 その直後、無言のままノーモーションで放たれたクレアのタックルでセフィルは昏倒し、しばらく会話は中断となった。



◇◇



「「コワイヨー!コワイヨー!」」


 震えるセフィルとシスターシーアのふたりを見て、クレアは鼻で笑った……いや、この悪女っぽい感じはロザリィだ。


『私なんてレイチョウルイ最強の女に比べれば、足下にも及ばないわよ』


 お前、意味分からないで言ってるだろう。


「なっ、なんと……」


 絶望の表情のままガクリとうなだれるシスターシーアに、クーリエ神父は苦笑する。


「ま、まあヤツが元気なら何よりです。それにカレン様はとても勇者様の事にお詳しいようで、私から改めて話す必要も無さそうですな」


「ん~~、そうね。……それじゃ息抜きにもなったし、そろそろ行きましょうか。ちゃっちゃとワラントに行かないといけないからね」


 カレンさんの言葉にクーリエ神父は一瞬驚き、それから優しい顔になった。


「皆様方に神の御加護があらんことを」



◇◇



 馬車に揺られてガタゴト。

 俺たちは再び旅を再開した。


「それにしても、老人の長話を聞かされるかと思って心配してたけど、あっさり過ぎて拍子抜けだったぜ」


『アンタこの子に突き飛ばされて気絶してたじゃないの……』


「それを言わないでくれ……」


 セフィルとロザリィの会話に和んでいると、カレンさんが「あーあ……」とか言って寝転がった。


「やっぱ、バレちゃってたなぁ」


「バレたって何が?」


 俺の言葉にカレンさんは苦笑する。


「クーリエ神父、いきなり私の事をカレンさんって呼んだでしょ? 私、自己紹介してないよ」


「っ!!!?」


「それにしても、あのチビッ子が孫ねぇ……私も歳を取るわけだわね」


 困惑する俺たちを後目しりめに、カレンさんは寝転がったまま目を細めた。

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