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109:カレンの告白

「さて、今日はこの村でストップかな」


 ノーブさんが宿の隣に馬車を停め、そのまま宿泊申込のために受付へ向かっていった。


『あの男、最初はポンコツだと思ってたけど、雑用係としてはかなり高性能ね』


「その言い方はさすがにどうかと思うんだ」


 相変わらずなロザリィに苦言を吐きつつ、俺たちは馬車から降りて辺りを見ると、一際大きな建物が目についた。


「おー、この村は立派な教会があるんだなぁ」


 俺が宿屋の向かいにある大きな教会を見ながら感嘆の声を上げると、セフィルが隣にやって来た。


「ウチの国は基本的に国教としてラフィート様の教えを説いてるからな。まあ異教を禁止してるわけではないんだが、必然的に教会といえば女神信仰になる」


 そう言いながらセフィルが指差した先には、お馴染みの女神像が……って、あれ? なんだが服装がおかしいような???


「何であの女神像、シスターの格好?」


 俺の隣にいたクレアがぼそりと呟くと、教会の中から待ってましたとばかりに女性がドドドド!と飛び出してきた。


「よくぞ聞いてくれました!!」


「き、聞いてない…よ?」


 女性のハイテンションっぷりに驚いたクレアが、コソコソと俺の後ろに隠れてしまった。


「アンタ、よくさっきのが聞こえたな……。どんな地獄耳してんだよ」


 呆れた表情のセフィルに対し、女性は腰に手を当てながらヘヘンッと自信ありげな顔をする。


「ここで女神像を見ながら呟く言葉は皆決まってるのです! どうして女神様がシスターのコスプレをしているのか! ココの神父は頭イカレてんじゃないのかとっ!!!」


 そこまでは言ってません。


「まあ神父の頭がイカレてるのは事実ですが、ココは数十年前に創造神ラフィート様が身分を隠して人々を見守る目的でお住まいになられていた、とても由緒正しい教会なのでぃす!」


「へぇ~」


 俺の反応を見た女性が「あれ? 思ったより反応薄い?」と不思議そうな顔をしているが、あの方なら普通にそういうコトやってそうだもん。


「いやはや、懐かしいわね」


 可憐庭かれんていの店長さんが目をつむりながらウンウンと頷いた。


「……懐かしい?」


「んー、以前この村に来たことあるのよ」


「あ、そういえばカレンさんはワラント国から商品の買い付けをしているとか言ってましたね」


 エマの言葉にニコニコ笑顔で応える店長さんに少し違和感を覚えながらも、宿の方から「あれー? 皆どこいったんだー?」と俺たちを探す声が聞こえたので、俺たちは宿に向かうことにした。


◇◇


「じゃじゃーん! というわけで由緒ある部屋を選んだぜっ!」


 そう言いながらノーブさんが独特な擬音を混ぜながら入った部屋のドアに貼られた札には……


【勇者の間】


「世界を救った勇者が泊まった部屋らしい!」


「「ウソくせえええええっ!!!」」


 俺とセフィルの言葉がハモる。

 確かに勇者一行が北西のプライア国で魔王と一戦交えた歴史はあったものの、こんな南の果てに何の用事で来たというのやら。


「何か、先の村長さんがポートリアで暮らしてた頃に魔物に襲われたことがあって、その時に助けてくれた勇者が泊まった部屋がココなんだとさ」


 ノーブさんはそう言いながら、壁に貼られた古ぼけた板を指差した。

 どうやら伝記……というか観光案内ボードみたいなものらしい。

 この部屋に泊まった人向けのサービスなのかもしれないけど、普通こういうブツって部屋の壁に貼るようなモノじゃないよなぁ。


「えーっと……人間の姿に扮して孤児達を見守っていた創造神ラフィート様が、勇者カトリの前に現れ……って、うおおっ!!!」


 読み上げながらセフィルが大声を上げた。


「……気持ちは分かるけど、うるさい」


 クレアに睨まれたセフィルがシュンとしつつも、すぐに立ち直って続きを読み上げる。


「教会で暮らす孤児達と共に楽しいひとときを過ごしたと書いてある。勇者は何でこんな南の村に立ち寄ったのだろうなー……って、あれ?」


「どうしたんだ?」


 一文を読み上げた後に不思議そうな顔をしているセフィルが、その横に描かれていた挿し絵を指差している。


「この絵、左から順に女神様、子供達、勇者って並んでるみたいなんだが、勇者の頭の左上に何か居るぞ」


 セフィルの指先、勇者の顔のすぐ左には4枚の羽をもつ生き物の姿が。

 そこに描かれているのは……


『妖精ね』


 ロザリィが即答した。


『この絵を描いたヤツはなかなか良い観察力よ。羽の枚数も合ってるし、やたらヒラヒラした感じの服もそれっぽいわ』


「ロザリィはもともとその格好だっただろ……」


『私はこんな古臭い服装じゃなかったわよ』


 覚えてねえええええ!

 ……とまあ、そんなやり取りをしている俺たちだったが、何か忘れてる気が。

 はてさて???


 俺が不思議そうに首を傾げていると、俺の肩を

ポンポンと叩かれた。


「お前ら、気持ちは分からんでもないけど、油断し過ぎじゃね?」


 ノーブさんが呆れ顔で、隣でニコニコしていたカレンさんに目を向ける。

 ……って、あああああああっ!!!


「店長さん部外者!!!」


「その言い方傷つくわ……。クリスくんはもうちょっと言葉遣いを選ぶべきね。あと、外でその呼び方はどうかと思うので、普通にカレンって呼んで頂戴」


「す、すみませんカレンさん……」


 イカンイカン、慌てすぎて言葉選びがおかしくなるのは昔からの癖なんだよなぁ。

 ってそんな場合じゃなくて!


「い、今の話は……」


「クレアちゃんの中にロザリィって妖精の子が入ってて、クリスくんは二人の女の子と同時に擬似的に交際できるミラクル環境なのよねっ。がんばっ!」


「『言い方ァ!!!』」


 俺とロザリィのツッコミがハモった。



◇◇



「というかカレンさん、何でそんなに冷静なんですか……」


 俺が不思議そうに訊ねると、ノーブさんの方をちらりと向いて頷いたカレンさんが、大きな帽子とファーの付いたフワフワなコートを脱いだ。

 その下から現れたのは、ピョンと尖った猫耳&大きな2本の尻尾。


「……コスプレをカミングアウトですかね?」


「このタイミングでボケるのは関心しないわね」


 ジト目で俺を睨むカレンさんに「す、すみませんっ」と慌てて謝りつつ、再び気を取り直して訊ねる。


「獣人……ですか?」


「さすが渡り人だけあって、その辺の知識も抜かりないわね」


 わー、もうこの人ったら全部お見通しな感じが凄いよぅ!!

 あまりに急すぎる展開に、俺がオロオロしているのを見てカレンさんとクレアが微笑んだ。


「クレアちゃんの旦那はパニックになるとあまり頼りにならなそうだけど、大丈夫?」


「そこが可愛い。もしもの時は私が護るから問題ない」


 何だか俺の株が爆下がりする会話をする二人に不安になってきた。


「結局、アンタはどこまで知ってんだ?」


 痺れを切らして割り込んだセフィルに対してカレンさんがニヤリと笑う。


「君達が自分達しか知らないと思って秘密にしていることは、概ね私も把握していると考えてくれて良いわね」


 さらっと凄いコトを言ってのけてしまうカレンさんに俺達は絶句。

 マジでこの人どこまで知ってんの……。


「ノーブさんが裏で糸を引いてたとか……じゃないよねぇ?」


「いんや、どちらかというと俺もカレンから聞いたパターンだぞ。そもそも、俺が説明しなくてもお前の経緯いきさつを知ってたし」


 えーーー……。

 俺が困り顔になるのを見て、カレンさんは「にゅふふふー」とか変な笑い方でニヤニヤし始めた。


「そもそも私の店にナイスタイミングで、月の石を使った髪飾りが在庫になってた時点で怪しくない?」


 い、言われてみれば確かにっ!


「ラフィート様からいきなり採掘に付いてこいとか言われた時はマジびっくりだったからねぇ」


「ええええっ!? 何それっ!? と言うか、なんでラフィート様と面識あんのっ!??」


 さらに困惑する俺たちに対し、カレンさんはトドメの一撃を放ってきた。


「それじゃそろそろ改めましてご挨拶を。……私のもうひとつの名前はティーダ。この世界で、獣神ティーダと呼ばれている、神様ですよ」

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