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107:レンの就職先、見つかりました!

 というわけで、続いて俺たちがやってきたのは商才ゼロのリベカおねいさんの経営するブティック「セイントブラッド」。


 既に凄腕デザイナーと世界最強の女性を雇用しているものの、ふたりとも週末だけの臨時バイトなので雇用コストはほぼ無いに等しい。

 俺が散々営業ノウハウを叩き込んでやったのに、これでまた人を雇う余裕が無いとか言いやがったら、リベカさんには新人研修からやり直して頂くこととしよう。


 さあ、いざ行かん!!


「こんにちはーっ! ……うっ!?」


 俺は元気よくドアを開いたものの、店の雰囲気は険悪ムード一色。


「それは認められません!!」


『絶対に駄目です!!』


「で、でもよぉ……」


 怒りの表情のリベカさんとフィーネさん、そしてふたりを見てオロオロするばかりのカトリのにーちゃんがそこに居た。


「にーちゃんどしたの? 二股かけようとして修羅場っちゃったの?」


「ちっ、違うよっ! それに、二股どころか一つも……って、そうじゃなくて!!」


「???」


 にーちゃんとのやり取りを見ていたフィーネさんが、大きく溜め息を吐いた。


『最近、この小娘リベカを目当てでやってくる客が後を絶たないのですよ』


 そう言いながらリベカさんの方をジト目で睨むフィーネさん。

 店長を小娘呼ばわりというのは、従業員として……と思ったけど、そういえばフィーネさんはカトリのにーちゃんのオマケでくっついてきているだけのボランティアだったね。


 まあ、この方ならリベカさんを小娘呼ばわりでも仕方ないくらいの年齢……すみませんすみませんすみません! 心の中を読んで睨まないでっ!


「目当てって、ナンパとかそういう感じ?」


 俺の質問にフィーネさんは首を左右に振る。


『別に直接誘ってきたりはしないのですが、男2~3人だけで入ってきたかと思いきや、何か買うわけでも無くチラチラとリベカさんを眺めて去って行くようなことが続いてまして。しかも、私とカトリさんが居る週末には現れないらしいので、一人で店をやっているタイミングを狙っているようなのです』


「単に気があるだけとか……?」


『いえ、私の凄く当たる勘によると、お付き合いしたいとか、そんな事は考えてなさそうな雰囲気でした。まあ、中には下心がある人も居そうでしたけど』


 凄く当たる勘……物は言い様だなぁ。


「じゃあフィーネさんの勘曰く、その男達の目的は?」


 俺の問いかけに、微妙にキレ気味の顔になるフィーネさん。

 ごっごめっ……よく分からないけど、申し訳ありません!!!


 ビクビクと怯える俺を見てフィーネさんは溜め息ひとつ。


『リベカさんのスタイルに興味があるようで』


 そう言うフィーネさんの目線の先には……ああ、そういうことですか。


「リベカおねーさんはボインだからね。私も…アレは憧れる」


 突然クレアが話に入って来ちゃった!?

 しかも表現が相変わらずド直球すぎるよっ!!


『デカけりゃ良いってもんじゃないってのに……』


「だけど、大きいは…正義。勝てない…」


 自分のそれのサイズに対してコンプレックスのあるふたりの不毛な会話に、どうにも困ってしまう。

 でも大丈夫だクレア、お前はまだ年齢的にちょっと育ち具合が平均以下くらいなだけで、既にどうしようもないフィ……


『クリスくん、それ以上はこの世界の行く末を保証しかねますよ?』


「ヒィィッ!!?」



「というわけで、リベカさん目当ての連中が店に来ると、ただでさえ良くない売り上げがさらに悪化しそう、だから助けてほしい、とそんな感じの認識で良いの?」


 俺の言葉にコクコクとリベカさんとカトリのにーちゃんが肯いた。


「あと、可憐庭かれんていの店長さん曰く、フィーネさんにも問題があるとかどうとか……」


『ほほぅ、あのクソ猫はそんな事を……』


 言葉遣いに気をつけてくださいぃぃっ!!


『こほんっ。私に問題とは、なかなか心外ですね』


 微妙にキレ気味な表情で不満そうに言葉を吐き出すフィーネさん。

 だが、リベカさんは何かを察したらしい。


「……たぶん、領主の息子が来た時にコテンパンにやっつけちゃった件じゃないですか?」


「あんたマジ何やっちゃってくれてんのっ!!?」


 領主の息子をコテンパンとか、下手すりゃこの店潰れちゃうよ!


『だって、領主の息子=権力を振りかざすエロガッパ野郎というテンプレそのものだったのですよ? そりゃ正義の女神……こほん、正義の名のもとに鉄槌を下しますよ』


「んで、具体的には何をやったんです?」


 呆れ顔のまま訊ねる俺に対し、フィーネさんが自分のおでこに指を当てて数刻考えてから、突然身振り手振りを始めた。


『あらあらこれは、リチャードジュニア様。このような庶民の使うような低俗な店に何用で御座いましょう? ってな言い方で近づいて、後は少しずつ言葉責めで締め上げていたところ、途中で逃げ出しちゃったのですよ』


 この御方が何を仰っているのか理解出来ない。


『それ以来、そこの小娘の胸を眺めにくるチキン野郎と、私に罵られに来るドM野郎ばかりが店に集まるようになってしまって……。領主の息子も懲りずによく来ますし』


「余計トラブル増えとるやんけーっ!!!」


 叫ぶ俺の隣にいたクレアが「おおう、クリスくんのツッコミ……レア」とか言ってるけど、それはおいといて。


「んで、俺たちが店にやってきたときに、にーちゃんが却下されてたのは?」


「フィーネやリベカにはしばらくバックヤードで商品整理をやってもらって、臨時の店番が見つかるまでは俺が少し本業を休んで店番をしようかと……」


『「駄目です!!」』


 再び女性二人に怒られて、にーちゃんはしょんぼりしている。

 なるほど、これで冒頭の言い争いの原因か。


「まあ女性服専門店でカトリのにーちゃんが応対するのはそもそも論外だし、この店の為に本業を休むなんてのは本末転倒だよ」


 俺の言葉に、にーちゃんのしょんぼり顔がレベルアップして、こんな顔(´・ω・`)のショボーンになってしまった。


「要は、店に用事のない野郎連中が近づけないような女性店員が見つかれば良いんでしょ?」


 俺の言葉に、リベカさんが溜め息を吐きながら頭を抱えた。


「私もそう思って求人はしているのですが、思ったように人が集まらなくて……。この街は港町ですから、そもそも女性労働者は家業の手伝いが主ですし」


「……だそうだ。どうする?」


 俺の呼びかけにレンはハッとした表情に変わる。


「ここに人手不足に困っている店がある。女性従業員を募集しており、不埒ふらちな野郎連中をあしらう力量も求められる。さて、これを満たせる人材は……?」


「私、やりますっ!!!」


 俺の御膳立てに対し、嬉しそうにレンが挙手!


「きっと私を目当てに来るような物好きは居ないでしょうし、仕事も一生懸命覚えます! 私を雇って頂けませんかっ!!」


 真剣な目で直訴するレンに、リベカさんはしばらく呆然としていたが、少しして首を縦にブンブンと振ってから両手でレンの手をギュッと握り嬉しそうに笑った。


「私の方こそ宜しくお願いしますっ!」





 かくしてレンはセイントブラッドの従業員として働くことになった。

 勤勉さもさることながら、人間離れした怪力と持ち前の機動力で、文字通り百人力の働きによってめきめきと……


「ワタシ、ケイエイシャ……ワタシ、ヒツヨウ?」


『レン……恐ろしい子っ!!』


 ポンコツ店主と無賃金ボランティアさんの存在意義を完全に消し飛ばしてしまっていた。

 それに、懲りずにリベカさんやフィーネさん目当てで来た連中が来た時も、レンが一睨みするだけで震え上がりながら飛んで帰ってしまったし、さすが元々魔王の家臣なだけはある。


 そんなスーパールーキーは……


「いえ、リベカさんとフィーネさんから適切に御指導頂けたからですよっ」


『うおっ、まぶしっ!』


「ああっ、汚れ無き笑顔に私は灰になって飛んでいきそうだわっ!」


 レンの優等生100点満点の回答に、女性ふたりは悶えながらカウンターに突っ伏してしまった。


「でも、これは本当に大丈夫なのかな?」


 エマが苦笑しながら指差したセイントブラッドの店内には、おっぱいを眺めに来る不埒ふらちな野郎も、罵られたいと願う変態ドM男も居ない。


 だがしかし……


「レンちゃん、大根の煮物作ったからお食べなさいな」


「あ、これはこれはベネットさん、ありがとうございますっ」


「なんとまあモダンなお店だぁねぇ。孫娘に何か買いたいけど何が良いかねぇ」


「あっ、デニルさん。小さい女の子には手袋や付け飾りなどが良いですよっ」


 客層が凄く高齢化していた。


 というのも、どうやらレンがお使いで街に出る都度に通りすがりで人助けをしまくったらしく、しかも「名乗るほどの者ではありませんっ!」とか言いながらセイントブラッドに入っていく姿が何度も目撃されたそうで。

 名乗らなくてもそれ以上に証拠を残しまくってしまった結果、当然ながら助けられた方々が皆レンの所にやって来るのは言うまでもなく。


 しかもひたすら謙遜しまくる姿と、子供ながら健気に店でせっせと働く姿に、御高齢の皆様は一撃でノックアウトされちゃったわけである。

 売り上げは良好ではあるものの、若者向けブティックを願っていたリベカさんにとっては、とても複雑な心境であろう。


『あのもマダムキラーだったのね。アンタとキャラ被ってるけど、大丈夫?』


「キャラ被りとか言うんじゃねえ」


 俺はロザリィのニヤニヤ笑いにジト目で突っ込みつつ、ますます店の方向性が分からなくなってきたセイントブラッドの将来を心配するのであった……。

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