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106:おめでとうございますノーブさん

「なんでまだノーブさんが可憐庭かれんていに居るんですかっ! 俺たちが出発してもう2週間以上ですよっ!?」


 驚く俺に対し、ノーブさんはあっけらかんと……


「あー、カレンと婚約しちまったからな」


「アンタすげえな……」


 思わず同世代相手に話す時の素で感嘆の言葉を吐いてしまったが、いくらなんでも早すぎる。

 俺の表情から内心を察したのか、ノーブさんは鼻を掻きながらボソリと……


「男たるもの、責任を取らねばならん事もあるんだ」


「状況お察ししましたァ!!!」


『つーか、アンタたち入り口に突っ立ってないでちゃっちゃと中に入りなさいよ』


 中年男性ふたりの会話に痺れを切らしたロザリィが不機嫌そうな顔でぼやくので、言われるがままにちゃっちゃとカウンターに向かって進む。

 さて、俺がこの店にやってきた目的は……

 

「店長さーんっ!」


「はいはい~」


 俺の呼びかけにルンルン♪(死語)な足取りでやってきた店長さんの雰囲気は、完全に若奥様。

 というか、なんで勤務中なのにエプロン着て、右手に「お玉」持ってんだよアンタ。


「……もう突っ込むの疲れたんで、このまま本題に入って良いですか?」


「はいはい、クリスくんは何の用事なのかな?」


 俺がツッコミを入れる意思が無いと察するや否や、エプロンとお玉をポイと店の奥に投げ捨てていつもの接客スタイルになった。


「今日は買い物じゃなくてさ。この子が入院費を返すために働ける場所を探しているのだけど……」


 俺の目線の先に居るレンの斜め上やら斜め下を見た店長さんは「ふむふむ」と呟いた。


「貴女……どこから来たか教えてくれる?」



「っ!!?」


 店長さんに真っ直ぐ見つめられたレンは一瞬ビクッと震えて、無言のまま身構えた。


「別に取って食おうってわけじゃないから安心してね~。ただ、ちょっと気になってね。貴女、この街の子じゃないでしょう?」


「はい……」


 そう答えたきり、レンはうつむいたまま動けない。

 まるで猛獣に睨まれた小動物のようだ。


「あのっ、その子は両親が居なくて、それでっ!」


 辛そうな顔で黙ってしまったレンの代わりに、ついついエマが応えてしまった。


「……それは本当?」


「はっ、はいっ!」


 レンの瞳をじっと見た店長さんは、それから優しそうな顔で笑ってレンの頭をぽんぽんと撫でた。


「怖がらせてゴメンね。実は私は自警団に所属しててね、街の皆を護る義務があるんだよ」


「そっ、そうなのですねっ。……立派なお仕事だと思いますっ」


「あはは、ありがとう。……それでは改めてクリスくんへ、残念ながらウチの店の経済状況では人を雇う余裕はありませんが、北教区のセイントブラッドが今ちょうど困り事があるようなので、行ってみると良いですよ」


「セイントブラッドが???」


 思わずオウム返しをしてしまった俺に、店長さんがにこやかに肯く。


「でも、あそこってカトリのにーちゃんとフィーネさんが働いてますよ? 困る要素が思いつかないんですけど」


 にーちゃんはともかくとして、フィーネさんが居るのに解決出来ないトラブルって、それは人類にどうこう出来る問題じゃないのではなかろうか。


「そのフィーネさんがトラブルの原因なのですよ……はぁ」


 何故か困り顔で溜め息を吐く店長さん。

 って、フィーネさんが原因? あの方は一体何をやらかしたんだ???


「まあ、セイントブラッドに行ってみるしかないんじゃねー? その剣も見せに行くんだろ?」


 ノーブさんとずっと駄弁っていたセフィルがこちらの会話に応えてきた。


「剣……ああ、クリスくんの背負ってるソレですか」


 店長さんの目線は俺の背中にある一本の剣に向いている。


「ああ、これは旅先の古道具屋で買った中古の護身刀だよ」


 俺は背負っていた刀をカウンターに置いて、さやから刀身を出してみた。


「…っ!?」


「なかなかの業物わざものだよ~……って、店長さんどしたの???」


 刀を見る目は文字通り真剣。

 …というか、何だか目が血走っているようにも見えてちょっとコワい。

 実はコレの正体が妖刀で、それに操られた店長さんが大暴れ~……みたいな展開は勘弁してくれよ……。

 

「…………」


 店長さんがいぶかしげに刀をさやから抜くと、そこには見事な刃紋が浮かぶ刀身……そう、この剣はプライア国から持ち帰った「勇者カトリの剣」だ。

 女神ラフィート様がわざわざ俺を指名して持ち帰ることを要求してきたはずなのに、手に入れた時も神都ここに帰ってきた後も、結局ラフィート様は無反応ときたもんだ。

 困りゴトが無くたって、セイントブラッドにはそろそろ行こうかと思っていたところだ。


「あの、店長さん……?」


「……はぁ。カ………こほんっ、クリスくんはこの剣をどうするつもりですか?」


 どうするつもりと言われてもなぁ。


「まあ、護身用に備えておこうかなぁと。多分、しばらくしたらこの街を離れて南西にも向かうだろうし、別の大陸には凶暴なモンスターが居るとか言われたから……」


「別の大陸……南方のエレク大陸の事ですね。さすがに距離も遠いですし、私も名前しか聞いたことないのですが、砂漠や広大な森、そして豪雪地帯など地方によってかなり気候が異なると聞いたことがあります」


 俺達の住む海沿いは雨が少ないとか、セフィルの実家というか王都レヴィートの周辺は温暖だったりしたけど、さすがに砂漠は見たことが無いし、雪に至っては……


「ごうせつって何???」


 エマがキョトンとした顔で質問してくる始末。


『この辺は雪が降らないから知らなくても仕方ないわね。地域によってはあまりの寒さで雨が凍ったまま降ってくる場所があんのよ。水属性魔法のアイスニードルのもっとふんわりしたヤツがわんさか降ってくると思いなさい』


「「ヒェー!」」


 二人揃って素っ頓狂な声を上げて驚くエマとセフィルを見てニコニコ笑顔の店長さんだったが、それから続いてクレアの方を向いた。


「クレアちゃん、物知りなのですねー」


「あ、はい。本で…読みました」


 微妙に目を逸らしたり伏せたりしながら誤魔化すクレアに「その挙動不審さは逆に怪しすぎるわ!」と心の中でツッコミつつ、俺はポーカーフェイスでその場を乗り切ることにした。

 そして店長さんの目線が再び俺……ではなく、俺の刀に向いた。


「クリスくんの剣は、きっと凄い力を秘めています。そしてその力は正義と悪どちらにでも使えるはずです。使い方を誤らないようにね?」


「使おうにも、まともに振るうことも出来ないんですけどね」


 少し心配そうに俺を見つめる店長さんに、俺は苦笑しながら応えた。


「さて、これからセイントブラッドに向かうとして……その前にもう1点確認を!」


 俺はノーブさんの前までテコテコと歩いて行くと……


「式のご予定は?」


「まだ婚約だからなっ!!?」


 分かってて聞いたんだよ、ケケケケ。

 俺の表情を見て、からかわれたと察したノーブさんと店長さんの顔が紅く染まったのを確認してから、俺たち5人はダッシュで可憐庭かれんていから逃げ出した!

 きっと中では若いカップルが困った顔をしているだろう。


「うっし、そんじゃ次の目的地に行ってみますか!」


「「「「おーっ!」」」」


 次の目的地はセイントブラッドだ!

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