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105:ハロー!ワーク

「ははは……マジかよ」


 セフィルは床にへたり込んで斜め上を見上げながら唖然としている。

 そんなセフィルの横で突っ立ったままの俺は、手のひらの中にある「今年発行されたばかりの新1ボニー硬貨」を眺めながらボソリと呟いた。


「このコイン、俺のじゃねーか……」


 ふたりの目の前には万屋よろずやで不良在庫扱いされていたデカい絵画こと『妖精リリーの肖像画』が……。

 そう、コインを拾おうとして泉に落ちた俺たちは、何故かプライア王城にやって来ていた。


「俺がこの絵に向かって投げ込んだコインが洞窟に落ちていたと言うことは、妖精リリーの絵と洞窟の泉はワープゲート……もとい、空間を超えて繋がっているのか」


「言葉の意味は分からんが、何を言わんとしているかは分かった」


 そう言うとセフィルは妖精リリーの絵画に手を突っ込んだ。


「ふむ、このまま絵に飛び込めば元の場所に帰れそうだな。あいつらも心配してるだろうし、さっさと戻ろうぜ?」


「そんじゃ、念のため帰る前に……」


 俺は鞄から羊皮紙と携帯用のペンとインク壷を取り出し、サラサラっと一筆書いて絵の近くに張り付けた。



【※この美術品に手を触れないでください】

【※妖精リリーの絵に触れると呪いで七代祟られます】



「これで安心! 触った本人以外も巻き込まれるというのがミソだね」


「なんで七代なのかよくわかんねーけど、何だか本当に呪われそうで嫌だなぁ……。ロザリィも曰く付きだとか言ってたし、妖精リリーという名前だけでホラー文学を書けそうだ」


「お前、商才だけでなく文才まで目覚めるとか、どんだけスーパー王子なんだよ」


 不安そうな顔のセフィルと共に絵画の額縁に手をかけ、俺たちは絵に向かって飛び込んだ。





<とある洞窟>



「へっくちっ!」


「お嬢様、大丈夫ですかっ!?」


「問題ありません。きっと誰かが私の噂話をしてるのかもしれません」


「くしゃみをしたら誰かが噂をしている……最近、街で流行っている小話ですか」


 どうやら北の海よりずっと向こうの異国の言い伝えらしいが、目の前の堅物な女騎士の耳にも届いているとは、やはり人の噂は広まるものだなと感心する。


「……まあ、私の噂なんて、あまり嬉しいものでは無いでしょうけどね」


 誰にも気づかれぬよう小声で自虐的な言葉を吐くと、前方でモンスターを蹴散らしながら突き進む兄妹の方を向き、私は呆れ顔で話しかけた。


「今、タケルさんが倒したそれ、短剣くらいは弾き返しちゃうくらい皮膚が硬いんですよ! どうして、でこぴん一発で倒せちゃうんですかっ!?」





<海底洞窟>



「クリスくん! クリスくん!!」


「落ち着いてくださいクレアさんっ! 二人を信じて待ちましょう!」


「お願いセフィルくん、早く戻ってきて……って、あれれ?」


 ゴボゴボゴボ…………


……




バシャーーーーーンッ!!!



「うっおおおおぉぉぉっ! 行きは落下だったのに、帰りは水平に泳がないとダメとか、何この不親切設計!! これ設置したバカ野郎は誰だっ!! 設計者は出てこいやあああああっ!!!」


「この泉、泳げない奴が落ちたら帰れなくなるな……」


 泳ぎ疲れて満身創痍の俺とセフィルの目の前には、目が点になっている女の子3人。


「お、お待たせっ」「待たせたなっ」


 俺とセフィルが微妙に違う言い回しで帰還を告げると、クレアとエマの目元に涙が溜まり……


「「うわーーーーーんっ!!」」


 二人とも同じような泣き顔で飛びついてきた!


「あわわわ、ごめんっ!」


「うーん、すまん……」


 そして泣き崩れるふたりをなだめつつ、きっと二人を引き留め続けていてくれたであろうレンに感謝の言葉を伝えた。


「ふふふ、どう致しまして。お二方とも、ご無事で何よりです」



◇◇



『あの絵と地下洞窟が繋がっていた?』


 俺とセフィルが肯くのを見て、ロザリィは腕を組んだまましばらく考えた後、一つの結論を導き出した。


『レンが封印されたのが200年前となると、この洞窟が出来たのはもっと昔のはず。恐らく当時は長距離移動が可能な帆船が発明されてないでしょうし、モンスターが海を渡るために魔王が用意したルートなのかもね』


「しかし魔王が居なくなったなのに、ずっとワープゲートだけ生きてるんだな……」


 俺の言葉にロザリィはレンの方を向いた。


『この子を200年封印していたくらいだし、魔王にとって空間移動の魔法をそれ以上の期間で固定することは大した負担では無かったのかもね。全く、規格外にも程があるわ』


 呆れ顔でぼやくロザリィに同意しつつ、俺達は再び洞窟の出口を目指した。





 翌日。

 そんなこんなで神都ポートリアに戻った俺たちは、リカナ商会に集まっていた。

 改めてレンの入院費返済のための働き口を探しているわけだが……。


「すまねえが、今のとこ臨時雇用は必要ねえなぁ」


 リカナさんは残念そうに言うと、深々とレンに頭を下げた。


「そそそそ、そんなっ! 頭を上げてくださいっ。い、いきなりやってきた私が仕事を求める事の方が烏滸おこがましいのですから!」


 親と娘くらいの差があるふたりが、互いにペコペコと頭を下げている姿は何だか不思議な感じだ。


「はてさて、どうしたもんかなぁ」


 俺とセフィルがバイトする余裕があったはずのリカナ商会に何故レンを雇う余裕が無いのか?

 その理由の居る方を横目で見ていたセフィルがニヤリと笑った。


「このバカ2匹を解雇すれば解決だろう? 俺の命令で一発だな」


「ひでえっ! 王子だからってそんな横暴が許されるのかよっ!」


「無職はイヤだあああぁっ!」


 セフィルの脅迫に怯えて叫んでいるのは、元クラスメイトの悪友二人。

 本邦初公開! 彼らの名前はクロードとジャンと言います。


「さすがに斡旋あっせんしておいて、いきなり二人を辞めさせろってのは無理があるよ。せめて不祥事を起こしてからじゃないと……」


「クリスよぅ、俺らをクビにする前提で話を進めるのやめてくれねえ?」


 本気で泣きそうになるジャンに片手でゴメンのポーズをしつつ、再び俺はリカナさんの方へ向いた。


「知り合いのお店でどこか人手が必要なとこ無いかな?」


「ふーむ、今のところ聞かねえな。それに最近はアレに観光客を持って行かれちまったしな」


 そう言ってリカナさんが店の壁に貼られた広告を指差す。

 そこに描かれていたのは……



【幻の島 プライアへ冒険に出よう!】

 神都ポートリアから北東へ100海里の場所にその島は実在した!

 そこに待ち受けるは未だ誰も見たことの無いファンタジーの世界!?

 今すぐ君も冒険に出かけよう!

 問い合わせ先は○△×□~……



「ったく、冒険だか何だか知らねーが、観光客を根こそぎ持って行きやがって。どうせ城の偉い連中がやったんだろうけど、全く庶民の事を考えやがらねえ」


 すみません……立案者は私です……。


「それに未だ誰も見たこと無いって、てめえが見てんじゃねーか! って話だよなっ!」


 すみません……キャッチコピーも俺なんです……。


極付きわめつきは絵が駄目だ! 何だこのデッケェ目は! 気色悪いったらありゃしねえ!」


 そ、その萌えイラストは、お、俺の自信作でして……


『やめて! もうクリスのHPはゼロよ!』


「お嬢ちゃん、いきなりどうしたっ!?」


 ロザリィがどこかで聞いたことあるセリフでリカナさんに泣きすがるのを横目に見ながら、俺のアイデンティティは砕けていった。



◇◇



「まさか、俺のプライア観光プロジェクトが原因で街の景気が悪化してるとは……」


「とりあえず国王オヤジに改善を求める書簡を送るよ」


 そんな会話をしながら、俺たちは次の目的地にやってきた。



<ファンシーショップ可憐庭かれんてい



「さあ魔境についてしまったよ」


「魔境とか、店長さんに聞かれたら凄く怒られそうだよっ」


 俺の諦めの言葉にエマがオロオロと反応しているものの、何とも店に入りづらいのは皆同じ。

 俺達が最後に見たのはプライア国に行く前……そう、店長さんがノーブさんの貞操を狙って一服盛って撃沈させて以来なわけで。

 

多分ノーブさんも回復して王都に帰ってしまっただろうし、となると店長さんもハートブレイクかつダークネスに仕上がっている可能性もあったりして、やっぱりそんな状況に訪問するのは気が重いわけです、はい。

 こんな気分は、アポ取った客のところに行き忘れた時以来だよ……。


「悩んでも仕方ない。行こう、クリスくんっ」


「……うっしゃ、行くぞっ!!」


 クレアの言葉に決心し、可憐庭に入った俺たちが見たモノとは……!!!



「おう、いらっしゃい! 遅かったじゃないか」



 普通に店員として働いているノーブさんの姿でした。

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