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104:ケイブストーリー

 というわけで、俺たちはホース・タンプ社でチャーターした馬車に乗り、レンの案内でその洞窟にやってきた。


「本当に森の中に洞窟があるのな。明らかに人工的な入り口だし、何の目的でこんなものを……?」


 俺の独り言に対する明確な答えを誰も出せないまま、再びセフィルとエマが難しそうな顔をしていた。


「また……レンの入院してた病院に行った時と同じ気分だ」


「うん、私も……」


 おや?


「この洞窟にも来たことある気がするって?」


 俺の言葉に二人は揃ってブンブンと頭を縦に振った。

 ふーむ、立て続けにデジャヴとか珍しいなぁ。

 しかも病院と洞窟とか関連性が全くわかんないし。


 洞窟の前でそんな会話をしている俺たちだったが、一足先に洞窟に踏み入れたクレアが両手で洞窟の天井を仰ぎながら呪文を唱えた。


「bright!」


 灯りの魔法で洞窟内を照らすと「私についてきて」とボソリと呟いた。

 ……え、えーっと。


「こういうのって、普通は俺とセフィルが前じゃね?」


「大丈夫、ふたりは私が護るから」


 たくましすぎるクレアを見て苦笑する俺に、横にいたレンは楽しそうに笑った。





 洞窟は単純な一本道で、ひたすら細い通路をまっすぐ歩いている。

 少し傾斜があるし、方角的には海の方へ向かっているようだ。


「これ、海の下を歩いてるよな……?」


「だよなぁ。俺もそう思ってたんだけど……って、おや?」


 セフィルとそんな当たり障りの無い会話をしながら歩いていると、少し広い空間に出た。

 クレアが灯りの魔法の輝度を高めて全体を照らしたところ、空間の中央に泉が見えた。


「洞窟の奥に不自然に作られた泉か……」


 そう言いながらふと泉の向こう側にある壁を見ると、発破で吹き飛ばしたように雑に崩れた大穴が開いていた。


「今までずっと洞窟の壁面は綺麗だったのに、なんであの穴だけボロボロなんだろ?」


「あ、そこは私が殴って崩したからですね。とても人が通れる幅では無かったので……」


 この子、何だかさらっと凄いコトを言った気がする。


「……殴って崩した?」


「あ、はい。正拳突きで」


 キョトンとした顔で答えるレンに、ロザリィは溜め息を吐いた。


『パワーキャラの座はその子に献上するわ』


 う、うーむ……。





 レンがメガトンパンチで開けた穴に入って数分ほど歩くと、再び広い空間に出た。


「私が目覚めたのはこの場所です」


 レンの言葉に頷きながらクレアが壁面を照らすと、そこに書かれていたのはアルファベットと数字の羅列。


『何かの呪文みたいだけど、この子を封印していた術式かしら?』


 ロザリィが目を細めて壁に書かれた羅列を凝視している。


「ぷろてくとろっく、あんだー、ふりーず……何コレ?」


 壁に書かれた文字を俺が読み上げると、ロザリィがギョッとした顔で俺の方を向いた。


「なんだよ?」


『何でアンタそれ読めるのっ!?』


「???」


 コイツは一体、何を言っているんだ?

 こんな中学生レベルの英語くらい、さすがに高卒の俺でも……って、アアアァッ!?


「なんで異世界の洞窟の壁に英文が書かれてんのっ!?」


 この世界で用いられている言語はどこも共通らしく、そのおかげでセフィルやモンスターだらけのプライア国民とスムーズに意志疎通が出来るのだけど、用いられている文字は直線を組み合わせたようなトゲトゲした感じのヤツ(クリス君の記憶によると「共通語」という直球過ぎる名称)だ。


 つまり、この壁に書かれている英数列は、俺以外にとって「未知の言語」なわけで、俺はそれをサクッと読んでしまったことになる。


『まあ、アンタが読めるということは、渡り人だけが読める独自言語なのでしょうね……』


 ロザリィの言葉に、エマがハッとした表情になる。


「じゃあ、200年前の魔王は……クリスくんと同じ世界から来たの?」


 この子、ホントに頭の回転早いなー。


「まあ、そういうコトだろうね。俺は英語がてんでダメだから意味までは全く理解出来ないんだけども」


「へぇ、この模様の事をエーゴって言うんだな。火属性魔法が使える奴にこれを模写してもらえば、俺達も魔王と同じ魔法が使えたりして……!」


 セフィルが久々に好奇心全開でキラキラと目を輝かせている。

 だが、セフィルの方を向いたクレアが首を左右に振った。


「今、見よう見まねで書いてみたけど何も起こらない。多分、適合する属性でなければ無理」


 クレアの言葉にセフィルはガクリと肩を落とした。


「渡り人が使えるなら、クリスくんなら使えるのかな?」


 エマの言葉に俺もちょっと興味が出てきたので、壁に書かれた英文を地面に模写してみたが……


「ダメっぽい」


 異世界ファンタジーと言えばここでドカンと未知の魔法が発動して、主人公の力が目覚めて俺Tueeeeってのが定石だと思うんだけどなぁ。

 まあ、人間は1つの属性しか魔法を扱えないルールだし、仕方ないか。


「結局、魔王が渡り人かもしれない……という謎が増えただけか……」


 セフィルは残念そうに溜め息を吐いた。



◇◇



 レンが封印されていたエリアを脱出した俺たちは、再び怪しい泉の前まで戻ってきた。


「なんか、収穫の無い帰り道は妙に足が重いぜ……。悪の秘密結社とやらのアジトを突き止めて飛び込んだのにもぬけからだった時の事を思い出すよ……」


『まあ、200年前に倒された魔王が渡り人だっただけでも収穫でしょ。ぼやいてないでさっさと行くわよ』


 相変わらず先頭を歩くクレア&ロザリィにグイグイと引かれて俺たちは出口を目指す。

 そしてクレアが灯りの魔法を前に向けて角度を変えた瞬間、泉の近くで何かがキラリと光ったのが見えた。


「ん? なんだろ……コイン?」


 気になった俺はそれを拾おうと屈む。

 ……だが、この軽率な行動が失敗だった。


 そもそも、ここは真っ暗な洞窟である。

 クレアの魔法のおかげで前方は見えるものの、後ろの俺たちはお互いの姿すらもまともに見えないわけで、例えるなら無灯火の自転車みたいなものだ。


 つまり俺の後ろを歩いていたセフィルにとって、自分の膝丈より少し高い障害物がいきなり目の前に現れたに等しいわけで。


「うおわあぁっ!!?」


 俺の背中に膝蹴りを入れる形になってしまったセフィルはバランスを崩して前のめりに。

 体勢を立て直そうと、つまずいた原因……つまり、俺の襟元を右手で掴みながら左前に倒れた。


 俺とセフィルの倒れた先にあるもの、それは……



バシャーーーーンッ!!!



 こうして二人は怪しい泉に落ちた。


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