103:魔王の話と魔王の話
「「「「なっ!!?」」」」
魔王四天王で人類の敵っ!?
いきなり話が飛躍し過ぎて思考がついて行けないぞ!
驚いた俺たちの顔を見てレンは少し笑い、それから憂いを帯びた顔で口を開いた。
「良かった……。私の言葉を信じて頂けるのですね」
「いや、信じるというか……なぁ?」
セフィルが俺に目配せをしてきたが、俺は腕を組んだままウーン……と唸っている。
そんな俺たちを後目に、クレアがレンに話しかける。
「魔王が倒されたのは何十年も昔のこと…。でも、あなたの姿は…私たちと同じくらいの歳に見える。あなたは…人間ではないの?」
「私は人間です! ……って、何十年っ!? う、うーん……どういうことなのでしょう??? あっ、でも良かったです! 魔王は討伐され、この世界は無事だったのですねっ!?」
若干テンパりつつも、自らを魔王の四天王だと名乗ったはずのレンが、何故か魔王が倒された事を安堵している。
「えーっと、レンは魔王の手先だったのよな? なんで喜んでんの???」
俺の言葉にレンはキョトンと不思議そうな顔をした。
「だって、人類があちらこちらで戦争ばかりするから、それを止めるための力が必要だ~! とか言っていたのに、真の狙いは世界のリソースを独り占めして別の世界に持ち逃げするのが目的だったんですよっ!! そんなの絶対、駄目に決まってるでしょう」
「……俺らが聞いた話とは随分と違うなぁ」
再びレンが首を傾げてしまった。
「皆さんの知っている魔王とは???」
レンの質問に、俺たちがプライア国で聞いた歴史そのままを答えることにした。
「実際に見たわけではないのだけどね。ここから北東に行った場所にあるプライアという国は元々人間の国だったのが、女の魔王がその国を滅ぼして……」
「ええええええっ!!!」
レンの放った唐突なシャウトにビクッとなったクレアが、露骨に嫌そうな顔でレンを睨んだ。
「いきなり何なの…?」
クレアのジト目に焦りながらも、レンは手をバタバタさせて俺に訴えかけてくる。
「だだだだだだ、だって……私の知っている魔王は"男"でしたよっ!?」
「…………はい?」
「いつも神出鬼没で、四天王に適当な事ばかり指示して、全くモンスター達の統率も出来てなくて……。モンスターを引き連れる姿なんて一度も見たことありません!」
うーん、やっぱり話が噛み合わない。
もしかすると、プライア国の連中が歴史を美化しまくってるのだろうか……?
確かに、俺がこの姿になる前に居た世界でも、歴史上の人物や無機物すらも片っ端から女体化したり美化したりと色々激しかったし、閉鎖されたプライア国のモンスターたちは自らその文化を編み出したのかもしれない。
小さな島国ではそういうアブノーマルな思想が生まれやすいのかなぁ。
「んで、フォスタ、チア、ティーダ、カトリという4人の勇者が魔王討伐に……」
「勇者達四人の名前はクトリ、イシス、トリル、ストラでした」
……もはや名前すら一致していない。
カトリとクトリだけ似てる気がするけど、たぶん偶然だろう。
「あの店主のおっさん、そもそも最初から胡散臭かったもんなぁ。俺たちをガキだとナメて嘘八百並べやがったか?」
と、俺が怪訝な顔をしながらぼやいていると、何かに気づいたエマが「あっ!」と声を上げた。
「レンちゃん、今年は神暦何年かなっ?」
エマの質問に、腕を組んで考え込むレン。
「確か、神暦……百八十五年だったと思います」
レンの回答に、現場が一瞬静まりかえる。
「今年は387年だぞ……?」
セフィルの言葉に今度はレンは再びキョトンとした後、それからその言葉の意味に気づいて目を見開いた。
「……にっににっ二百二年も経ったのですかっ!? わ、私は一体……なんで二百年!???」
突然告げられた事実にレンはオロオロと困惑するばかりだし、俺も正直まだ驚いたまま冷静に思考が出来ていない。
唯一、この場に居るヤツで冷静なのは……
「どう思う…?」
『よっぽど強いプリズン系の魔法なら可能かな。200年以上も老化を止めたまま肉体を固定するには尋常じゃ無い量の魔力が必要だけどね』
端からは独り言にしか見えないクレアとロザリィのふたり。
どうやら妖精スキルで思い当たるものがあるらしい。
そんなクレアとロザリィの会話を聞いたエマは「うんっ」と何か納得が出来た様子で、今度は自信満々な笑顔でレンの方へ振り向いた。
「私たちの知っている魔王は数十年前に居た女の魔王で、レンちゃんの知っている魔王は200年前に居た男の魔王! つまり、この世界には魔王が二人居たんだよっ!!」
な、なんだってー!? ……って、某MMRみたいな反応はしないけどさ。
さすが元・委員長なだけあって、あっさりと答えに辿り着いてくれた。
それなら辻褄が合うし、その結論で間違いないだろう。
一連の流れが掴めたところで、クレアが最後の確認に入った。
「レンさんは…この街に来る前はどこに居たの? 200年前に…何があったの?」
淡々と聞くクレアに少し困惑した表情のまま、レンは語り始めた。
「魔王の企みを知った私は他の四天王を裏切って4人の勇者と合流して魔王に戦いを挑んだのですが、あえなく敗れてしまったのです。次に気づいた時は、この街からずっと北に行った場所にある森の洞窟の中に居て……。それから三日三晩歩き通しで、街の近くで倒れたところを、通りがかりの馬車に助けて頂いたのです」
レンの言葉にクレアは頷く。
「クリスくん」
クレアは俺の方を向いて名前を呼んだ。
それ以上は言わずともがな。
「まあ、ここまで来てスルーする理由は無いわな。ひとまずレンの仕事探しの前に、洞窟探検に行くっきゃ無いだろう」
俺の言葉にレン以外の全員が「おーっ!」と腕を振り上げた。




