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101:魔王の愛した女性

『なっ……!?』


 巨大な布の下から現れたのは一枚の絵画だった。

 そこに女の子が描かれているのだけど、その背中には羽らしきモノが描かれている。

 その絵画を見たロザリィの驚愕した表情から察するに、この絵のモデルが妖精であることは間違いなさそうだ。


『この絵画は、かつて魔王様が愛された有翼種の娘を模写したものだと言われていて、由緒ある大変貴重なものさっ!』


 有翼種……なるほど、モンスター達には『妖精』という概念が無く、単に背中に羽の生えた種族としての分類しているのだろう。

 だがそんなことより、俺は店主さんの言葉に突っ込まざるをえない。


「だからそういう貴重な品を通りすがりの客に売るのはどうかと思うよ! それが事実なら文化財でしょ!?」


 俺の言葉に『ブンカザイ???』と不思議がる店主さん。

 あー、そういう概念も無いのか…。


「そもそも、そんなでけー絵をどうやって船に積めと? そんな真贋の分かんないブツをクソ高い輸送費払って持って帰るのは無理だって!」


 俺のツッコミにさすがの店主さんもションボリだ。


『ちょ、ま、待てっ! ウチの店にとってもデカくて邪魔……もとい、適切な行き先を探して欲しいんだよっ!』


 今一瞬、本音が出やがったぞ……。

 でもまあ、目測で幅2メートル以上ありそうなデカい絵を保管するスペースコストもバカにならないだろうし、その気持ちは分からなくもない。

 サブロクのロッカーを在庫しちゃうと、結構置き場所に困るんだよね。

 幸い優しい社長さんが買ってくれたけどさ。


「ロザリィ、とりあえず絵の持ち主の名前を鑑定してくれ」


『……ええ』


 俺が伝えると、ロザリィが絵の中の妖精を睨みながら絵画に手をかざした。


『絵の持ち主はラムダ……さっきそのおじさんが言ってた魔王の名前と同じね』


 ロザリィが溜め息を吐きながら呟くと、店主さんの目が輝いた。


『ほらっ!!』


「ほら、じゃないよ!!」


 それならますます貴重な歴史的芸術品じゃないか!

 この店に置いてても勿体ないし、ちゃんとした行き先に飾るべきだろう。


「この国って美術館無いの?」


『ビジュツカンって何だ?』


 あー! もーーっ!!

 思わず頭を抱えた俺だったが、すぐに気を取り直して後ろを振り返った。


「……セフィル、プライア城に戻るぞ」


「ああ、お前のやりたい事は察したよ……。あと、この国に美術品の輸出をしても商売にならないという事も分かったから、親父と側近達には念入りに伝えることにするよ」


 うん、よろしく頼むよ……。


◇◇


『なんと!! 魔王様の遺品が見つかっただとっ!?』


 セフィルの言葉に、プライア国王は思わず玉座から立ち上がりこちらに駆け寄ってきた。


「はい、とある古道具屋で買い物をしていたところ、魔王ラムダの愛した女性の絵画とされる品が見つかりまして。私の仲間が魔法で調べたところ、確かに所有者の名前はラムダ……つまり、その絵画が貴国の先代国王の所有物であると確定しました」


『そんな貴重な絵画が何故に古道具屋に……』


「店主の祖父が賜った物だそうですが、詳細は分かりかねます」


 しばらくプライア国王は腕を組んだまま無言で俯き、再び口を開いた。


『その絵画、君達はどうするつもりかな?』


 プライア国王の問いに、今度は俺が応える。


「もしもこのような貴重な品が海を渡れば、恐らくこの国に再び戻ることは無いでしょう」


 俺の言葉にプライア国王は不安そうな顔になる。


「だからこそ国家としてそういった歴史的に貴重な芸術品を保護し、護るための仕組みが必要かと。芸術品は命ある者よりも長く歴史を見守り、そして事実を後世に伝える役割も持つのです」


『なるほど……。我々がそれをせねば、国民が自らそのような酔狂はせぬだろうからな。今すぐその店へ使いの者を送るぞ! セフィル王子よ、感謝いたすぞっ!!』


 国王の言葉を聞いて、俺たちは安堵のため息をついた。


◇◇


 というわけで……。


「お店のスペースを占有していた巨大な絵画が無くなり、王城には貴重な絵画も返還。国には文化財を護る思想も生まれて、めでたしめでたしっと」


 プライア城の広間に飾られた絵画を見ながら、俺はウンウンと頷いた。


『私個人としてはすぐに焼き払いたい気分だわ』


 ずっと不機嫌そうなロザリィがやたら物騒なコトをぼやいた。


「何だかさっきから無茶苦茶不満そうだけど、この絵に描かれた妖精って誰なんだ? 焼き払うとか何でそんなに毛嫌いしてんだよ」


 俺の質問に、ロザリィは苦虫を噛んだような顔で溜め息を吐いた。


『……この羽は間違いなく妖精独自のものなのだけど、端っこに"リリー"って書いてあるでしょ? このリリーって、大妖精ティンク様が絶対に妖精に付けてはならない禁忌と定めたもの名前のひとつなのよ。私たち妖精が記憶と能力を継承して、ずっと意志を継ぐようになったのも、このリリーが何かをやらかしたのが原因だと聞いているわ。噂によるとティンク様のフィアンセの命を奪ったとか……』


 ふーむ、妖精にも色々あるんだなぁ。


「店主も、魔王の愛された~…とか言ってたしな。魔王に肩入れしてる時点で妖精たちにとっては裏切り者だっただろうし、妖精のお偉いさんが禁忌扱いするのも仕方ないか」


 俺が呟くと、ロザリィに続いて今度はクレアも不満そうな顔をしていた。


「なんだなんだ、今度はクレアも何かあったのか?」


「よくわからない、けど…ティンク様のフィアンセという言い回しで何か気分が凄く悪くなって…。なんでかな?」


 うーん、二人で一つの身体と記憶を共有すると色々あるんだなぁ。

 ……と、さっきと似たようなコトを考えていると、ふと大事なコトを思い出した。


「そういや俺のこの刀には呪いがかかってたとか言ってたけど、この絵はどうなんだ? 夜な夜な絵から化け物が現れるみたいな王道展開はNGだぞ」


 俺の言葉にクレアは首を傾げながら絵に手をかざした。


「…あれ? 前にロザリィさんが鑑定した時は、何とも無かったのに、不思議な感じがするよ?」


 そう言いながら絵に触れようとクレアが手を伸ばすと……そのまま手が絵の中にスポッと入った。


「くぁwせwdrftgyふじこlp;@:!!!?」


「クレア!?」


 慌ててクレアの手を引くと、さっきまで手が刺さっていた場所に波紋のようなものが一瞬現れ、再び元の絵画に戻った。

 一緒にそれを見ていたセフィルとエマも目を白黒させているが、俺は気を取り直してポケットの中から1枚の硬貨を取り出し……


「……そぉいっ!」


 それを絵に投げてみたところ、そのままチャポンという音と共に吸い込まれて消えた。


「……これ、どこに繋がってるんだろう?」


 俺の呟きに、他の3人は不安そうな顔になる。

 よし、こういう時は最年長者の俺が何とかしてやりますかね!

 思い立った俺は鞄の中からロープを取り出し、自分の腰に括り付けた。


「クリスくんっ!?」


「ちょっとどこに繋がってるか見てみる」


 俺がそうクレアに伝えたものの、思いっきり腰のロープを引っ張られた。


「絶対にダメ!」


「えーっと、ちょっと頭を入れて向こう側を見……」「駄目」


 クレアに凄く怖い顔で睨まれて何も言い出せなくなった俺はそのまま目を逸らし、そそくさと腰のロープをほどいた。


「すげーなアレ。年の差3倍あっても尻に敷かれるもんなんだなー」


「クレアちゃんって、一度決めたら絶対折れないもんね……」


 うーん……。

 気になるけど、仕方ないかぁ。

 俺は後ろ髪を引かれながらも探索は諦めることにした。


「まあ、せめてコレくらいは……」


 そう言いながらペンとインクを取り出して、手持ちの木板に字を書いて、それを絵画の下に貼っておいた。


【※この美術品に手を触れないでください】

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