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100:勇者の剣

「やべえ、にーちゃんと同じ名前だよ……」


「こんな珍しい名前のヒト、他にも居たんだね…」


「確かカトリに初めて会った時に、じーちゃんの命の恩人の名前を付けられたとか何とか言ってた気がする……」


「つまり、カトリさんのお祖父様は勇者に助けられたんだっ! スゴイねっ!」


 俺たちが騒ぐ中、クレア……ではなく、刀に手をかざしていたロザリィの顔が急に真剣なそれに変わった。

 どうやら鑑定スキルを使って真贋が判明したらしい。


『この剣の所有者名は……カトリ。その店主が言ってる勇者の名前が本当に正しければ、紛れもなく勇者の剣だわ』


『「マジかっ!?」』


 ロザリィの言葉に、俺と店主さんの驚きがハモった。


「なんでアンタが驚いてるんだよっ!!」


『いや、オヤジの代から全く売れなかった不良在庫がまさか本当に勇者の剣だったとは……』


「オヤジもそれ売り飛ばそうとしてたのかよっ!! というか、不良在庫を通りすがりの旅人に売りつけようとすんなやぁっ! そういう悪質なコトを繰り返してると、観光客の悪評が広まって客足が遠のくからな! 代々続く店を潰したくなかったら真面目にしやがれ!」


 俺の怒りに店主さんはアワアワしている。

 子供に凄まれてビビるモンスターって……まあいいや。


「まあ本物みたいだし、せっかくだからソレも買っていくよ」


『おっ! マジかっ! 毎度ありだぜっ!!』


「でも値段は値札のままな!」


『わーったわーった! その値段のままで持ってけドロボー!』


 ドロボーってアンタ……客にそういうコト言っちゃいけません。

 次にこの国に戻ってきた時は、営業コンサルとしてビジネスマナーにテコ入れしてやるかなぁ。


 ……あれ? そういえば、女神ラフィート様はわざわざ俺を真っ暗な空間に呼び出して『勇者の剣を手に入れなさい』とか言ってたけど、こんなアッサリと手に入れてしまって良いのか?


 RPGならボス戦で手に入ったり、隠しダンジョンで見つかったりするものだと思うのだけど、古道具屋で二束三文の捨て値で売られている勇者の剣を購入……って、こんなのアリなの???


 ……とか思いつつも、刀の代金を支払った俺はせっかくなので刀を手に取ってみた。


「ひでえ埃だらけだな……ん、何か箱の近くに輪っかがあるな」


 そう言って俺が手に取ったそれは……つばだった。


「なんだその輪っかは?」


 セフィルがいぶかしげにつばを眺めている。


「ん? たぶん形からして刀のつばだろうな~」


「へぇ、そんな小さい輪っかのつばは珍しい。ウチの国の文化では無さそうだし、勇者カトリとやらは異国の生まれのようだな」


 確かに言われてみれば……。

 そもそもこんな細い刀身なのに湾曲剣というのも珍しい。

 まるでこの刀は……と、そこまで考えて、俺は一つの可能性に行き着いた。


「まさか……」


 恐る恐る刀を掴んだ俺は、それをゆっくりと鞘から抜いた。

 そこに現れた刀身を見て、皆がおぉ……と声を上げたが、俺だけは無言……いや、絶句していた。


「マジかよ……」


 残念ながら家紋を見てもどこの物かは分からなかったが、少なくともコレが『前の世界のブツ』であることはすぐ分かった。


「日本刀……」


 刀を見てボソっと呟いた俺を見て、店主さんが『おおっ』と声を上げた。


『その剣の名前はニホントウって言うのかー! おっちゃん達は剣なんて握ったこと無いから分かんないけど、まあ大事にしてやってくれよな』


 そう言って笑う店主の顔を見て、俺は頷いた。


「でも、こんなに埃だらけなのに錆ひとつ無いのはおかしいな……。日本刀はちゃんと手入れしないとすぐダメになるとか聞いたんだけど……」


 俺が首を傾げていると、隣に居たクレアがそっと刀に手を近づけた。


『これ、凍結封印の魔法…というか、呪いが掛かってる、気がする』


「うえぇっ! 呪いっ!?」


 俺は慌てて刀を箱に戻した。


「多分、私の力で解けると思う」


 そう言いながらクレアが詠唱を始めた。

 すっかり忘れてたけど、この子は聖属性スキル持ちの聖職者だったんだよなぁ。


「ブレッシング!!!」【Unl*ck. sw*rd sk.ll..】


 クレアのスキルが発動した瞬間、一瞬ボソッと不思議な声が聞こえた。


「なあクレア。今の声は何だ?」


「声……?」


 俺の真横に居て、一緒に声を聞いたはずのクレアがキョトンとしている。

 他の皆の方を見ても同じ反応だ。

 もしかして俺にしか聞こえなかった……?

 そんなコトを思いながら再び刀の入った箱を見ると……うおっ!


「ちゃんとつばが付いて刀の形になってるっ!? どんな原理だっ!?」


 思わず突っ込んだものの、某デルフさんのように刀が喋り出したり、勝手に動くことは無かったので一安心だ。

 それにしても、この刀の持ち主の「カトリ」のコトが気になるところではある。


 日本刀を装備しているうえ、その名前からしてどう考えても日本人だろう。

 となると、この世界にやってきたうえ、仲間を集めて魔王に挑んだことになるのだけど、どうしてわざわざそんなコトを?

 そして、転生したこの世界で死んだ彼は……どうなったんだ?


 それ以上考えると何だか不安に押しつぶされそうになり、俺は頭の中からその考えを振り払った。

 でも、何だかこの刀を箱に入れたままにしておいてはいけない気がして、そっと俺は箱の中の刀を手に取り、腰に刀を……。


「……長くて体格的に無理だ」


 何だか格好悪いけど、俺は背中に刀を括り付けた。

 腕の長さが足りなくてこのままじゃ抜刀も出来ないだろうけど、まあ背筋がピンと張るし、これはコレでアリかなぁ。


「でも、これじゃ忍者だよ……」


 何だか微妙な顔をしながら、頭の右後ろに飛び出た刀のつばをチラチラ見ている俺と目があったクレアが口を開いた。


「クリスくん、カッコいい。惚れ直した」


「あ、うん、ありがとう……」


 いきなりのクレアの不意打ちに俺は照れてしまう。

 それを見た店主さんにニヤニヤ笑われるのが何だかイヤな感じだが、苦い顔をする俺を見てコホンとわざとらしい咳払いをした店主さんは、続いて「デカい布の被さった板」を目の前に持ってきた。


『それでは本日のメイン商品はコレだああぁぁっ!!!』


 そう言いながら巨大な布をバサッと外し、そこで俺たちの目の前に現れたのは……?

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