表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/146

010:ああっ女神さまっ

「俺、死んだ?」


 キラキラ光る女神様の前で呆然と立ち尽くす俺。


「あんだけ格好付けて宣言しておいて、スタート5日目で死亡エンドって何これ!? 何このクソシナリオ!!」


『えーっと、一応わたし神様なので…。クソとか言わないでもらいたいんですけど…』


「だってよぉぉぉ!! ……うぅ、ぐすっ」


 さすがに涙目になる俺。

 俺が死んだということはクレアも助からないだろうし、ロザリィまで巻き添え食らって消滅しているだろう。

 こんなの納得いくものか!


『うんうん、自分の命の大切さがようやく理解できたようですね。あの方の言うとおりに、お呼びして正解でした』


「……どゆこと?」



「はぁ!? 神の権限で俺をココに召喚した!?」


 俺の反応に微笑む女神様。


『はい、驚かせてしまい大変申し訳ありません。ですが、あのまま働き続けると確実に貴方はまた壊れてしまいます。大切なお客様の魂を救えないまま帰すのは、私としても不本意ですので…』


 つまり、この女神様は渡り人の過労死を防止するため、わざわざ個別ケアをしたということになる。

 創造神とか呼ばれてるくらいだし、この世界で一番偉い存在のはずなのに、なんでそんな雑用係みたいなことを…。


『まあ名だたる神々に比べて、私なんて雑用係みたいなものですから…』


 ああ、そういやこの方々は考えていることが分かるんだったな…。


「神なんだから、そういう雑用は天使にやらせたほうが良いんじゃ?」


『天使を生み出すには膨大な量のリソースを必要とするので、この世界の現状では無理ですね…。先日も炭鉱の崩落事故でとても多くの方が亡くなりましたが、その命を全て使ったとしても足りないのです…』


 天使の燃費悪っ!



商魂しょうこんの悪化……?」


 まさか異世界に来てからも、その単語を耳にすることになるとは……。

 例のウンコ色と言われたアレである。


『はい。貴方は前回亡くなった時点で魂のけがれが酷いコトになってまして。それをケアするためにこの世界へお呼びしたのに、いきなり商売を始めたものですから、こちらもビックリしてまして……一人だけ爆笑してましたけど』


 あの恵比寿やろうだな……。


『誰かを助けるのはとても素晴らしいことです。でも、そのために自らを犠牲にするなんて考えは傲慢ごうまんです!』


 うぅ、ぐうの音もでない。


『だから、命は大事にしましょうね』


 そして優しく微笑む女神様……って、ちょっと待て!!


「そうだ、アンタ!!」


『ひぃっ! なななな、なんでしょうかっ!?』


 つい感情的にアンタ呼ばわりしてしまったが、これだけは言っておかないと。


「生きる気力を失うだけで死ぬとか、何もしてないのに勝手にリソースが流出して死ぬ病気とか、何だよアレは!! 散々、俺に命は大事にとか言っておきながら、この世界の住民はどうなんだよ? 神だからって、そんな暴挙が許されるのかよ!!」


 バレル炭坑の崩落事故は無謀な採掘が原因だから仕方ないとしても、クレアを苦しめている一連のリソース回収システムだけは納得いかない。


『ごめんなさいごめんなさいごめんないぃ! ホントはどうにかしたいんですけど、まだ原因が分かってないんです! 誰かが後から意図的に仕組んだことは分かっているのですが…』


 なぬっ!!?


『この世界を創造した直後は豊富にリソースがあり、貴方が元々暮らしていた世界と同じように、生物の寿命がリソース量に依存することは無かったのですが、いつの間にかこんなことに…』


「つまり、この世界のどこかに悪意をもってリソースを減らしているヤツがいる…と?」


『もしくはこことは別の世界に居るのかもしれません…』


 何だかとんでもない話を聞いてしまった気がする。


『だから、私を一発ぶん殴ってやりたいとか言われると、とても困ってしまいます…。どどどど、どうしてもと言うなら受け入れる覚悟はありますが…』


 ビクビク怯える小動物のように上目遣いで俺を見上げる女神様。

 もっとしっかりしろと一喝したいところではあるが、さすがに殴れませんよ。


「まあ、事情が分かってスッキリしたよ。ありがとう」


『ほっ…』



『それでは下界にお送りしますね』


「ああ、よろしく」


 女神様が両手をこちらに向けると、俺の足下からカラフルな光球がフワフワ出てきた。


「前回は小太りの中年デブがいきなり空に放り投げてくれやがったので、もう少し丁寧にお願いできますか?」


『大丈夫ですよ…。ただ、あの方を中年デブ呼ばわりしないでください。とっても偉い方なんですからねっ』


 ぷんぷんっとか言いながら少し怒り顔の女神様。

 ……まさかデブ専なのか?


『ちがっ!…うぅ、もういいです…グスン』


「わー! 冗談だから!!」


 気を取り直して再び転送を待つ。


「ところで女神様」


『はい、何でしょう?』


「ピンチになったときに助けに来てくれる出張サービスとか、ありますかね?」


 目が点になる女神様。


『なるほど。ふふ、前向きに検討しますね』


 よし、女神様を地上に降臨させるフラグ立ったどー!

 まあ営業マンとしては「検討します」って断り文句のイメージが強いんだけどね。


『そんな断り方しませんよ、もう…。はい、準備できましたっ』


 カラフルな光球が膨らみ、視界全てが光で満たされる。




『それでは、御多幸を……』




「……朝か」


 気づくとベッドの上で寝ていた。

 夢オチ…?


『あーっ! アンタ今までどこ行ってたのよ! めっちゃ心配したわよ!!』


「ははは…」


 ロザリィがプンプン!と古典的な怒り方で俺の頭をバシバシ叩いてくる。

 どうやら夢では無かったみたいだ。



『はぁぁぁ!? 創造神ラフィート様に会った!!?』


 女神の容姿や、かつてこの世界にリソース減少の仕組みは無かったこと、そしてリソース流出が第三者の悪意によるものであることを伝えると、ロザリィは腕を組みながら宙をクルクル回る。


『さすがに創造神ラフィート様にお会いしたことは無いし、少なくとも私に与えられた知識の中に今聞いた話はひとつも無いわね。悪霊が生者をあの世に引きずり込むために人に化けることはあるけど、いくらなんでも創造神をかたるのは絶対ありえないわ。となると、アンタが会ったのはほぼ間違いなく…』


 ロザリィは拳をグググと握ると…


『ズルいわァァ!! 私も一目で、一目で良いからァァァ!!!』

 コイツ、マジ泣きで襲いかかってきやがった!?


「知るか! 女神様は俺に用事があっただけだし、人形用のベッドに入って寝てるお前が見えなかっただけだろ!」


『ウワァァァァン!! 次からはアンタのパジャマのポケットで寝るゥゥゥ!!!』


「ええい、鬱陶しいからやめれ!!」


 朝からドッタンバッタン大騒ぎ。

 こんな品のない妖精を女神様の前に連れて行こうものなら、妖精の国がお取り潰しにならないか心配だ……。



 さて、労働基準監督官……じゃなくて女神様にも警告されたことだし、改めて働き方を考え直さねばなるまい。


 元の世界であれば「訪問前にテレアポ」「オンサイトではなくリモート操作でサポートを行う」「非効率的な電話ではなくメールで情報を伝える」など、ITの力を借りて効率を高める手段が山ほどあったのだが、この世界の科学技術では、それを実現する前に俺の寿命が尽きてしまうだろう。


 残念ながら俺は科学者ではないので、1885年の西部開拓時代に機関車を時速88マイルで走らせたり、タイムマシンを作ることは出来ないのだ。


『効率よく……国営カジノに500万全部レート10倍で!』


「それは効率よくとは言わないからな…」


 それに、いくら効率を求めても自分一人で動ける時間には限界があるし、俺の目的のために誰かサポート係を雇用するのも不可能。

 となると、リカナ商会への集客を増やしつつ、お店に来店したお客さんに「俺のお客さん」として買い物をしてもらう必要がある。

 さてさて、どうしたものか……。



「お、今日は留守番かい?」


 リカナ商会のカウンターでまったりしていると、雨傘90本のにーちゃんが話しかけてきた。


「いんにゃ、もうちょい働き方を考えないと体が持たないわー」


 そう言ってけのびをする俺を見て苦笑い。


「おいおい、おっさんみたいなこと言ってんなよ。よし、勤労学生に良いモノをあげよう!」


「傘かな?」


「その話はもうよしてくれよ~。えーっと…、お、あったあったっ」


 にーちゃんが袋から取り出したのは、……観光馬車の利用チケット?


「ペアチケットなんだけど、一緒に行く相手が居なくてさー」


「女の子を誘ったりしないの?」



クリスのこうげき かいしんのいちげき!

にーちゃん に65535のダメージをあたえた

にーちゃん をたおした。



「ぐふっ…」


「にーちゃーーんっ!!!」


 …分かっててわざと言ったんだけどね。

 まあ、市場調査も兼ねて自分の目で街を見ておくのも良さそうだし、気分転換にもなるかもしれないな。



「あのさー…」

「なーにー?」


「なんで俺は男二人で観光馬車に乗ってるんだろうなー…?」

「にーちゃんはその場の思いつきで行動しすぎだと思うんだ…」


 ショタ少年(中身おっさん)+どこにでも居そうな青年(中身残念)が馬車に揺られて街を巡る謎のイベント発生中。

 これは一体、誰得なのだろうか……?


「俺さー…」

「うん」


「この辺、配達エリアだから毎日見慣れてるんだよねー…」

「本当にどうしようもないなアンタ!」



「え? ホントにこれで終わり!?」


 観光馬車が街の東西南北の教区をぐるっと回っただけ。

 確かに子供の俺の足ではとても回りきれない移動距離だし、乗車時間もそこそこ長かったのだけど、これは無いだろ…。


「なあ、にーちゃん」

「なんだ弟よー」


 ツッコまないぞ。


「この観光馬車の運営会社がどこにあるか教えてくれる?」


『アンタまた変なコトに首突っ込む気ね。それで思いもよらないスーパーアイデアで商談を成功させてポンと1000万くらい稼いじゃうのね』


「ネタバレすんなや!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ