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001:サイカイ

初めまして「はむ」と申します。

この作品は「営業マンがどんな手口で商品を販売するのか」を描いています。

営業職の方は今後の参考に、そうでない方はウザい押し売りを撃退するための知識を身につけるための参考になれば幸いです。

(世界観は「角川系ファンタジー小説」が好きな人向けです)。


それではごゆっくりと……



 気づいたら俺は、真っ暗な場所に独り立っていた。

 さっきまで電車で移動していたはずなのだが、これはどういうことだ?


「今日は絶対に遅刻したらマズイんだけどなぁ…」


 そんな独り言を言いながら呆然と立ち尽くしていると、後ろの方から…


『こっち見てみ』


 今時にしてはかなり珍しいコテコテの関西弁が聞こえてきた。

 いぶかしげに振り返ると、そこには釣り竿を持って小脇に鯛を抱えた和服姿の中年デブ…もとい、お太り様が鎮座しており、こっちを見上げていた。


『まあまあ、立ち話も何や。座っときいな』


 内心まだ混乱しているのだが…お言葉に甘えて正座させて頂くとしよう。


『薄々気づいとると思うけど、あんさん死んだで?』


「言い方が軽すぎる!」


『んで、今回の案件はワシが担当っちゅうわけやな。お、そういや名乗らんとイカンな。ワシ"恵比寿"言うねん』


 言われなくても…と思う程に、目の前のお太り様は七福神の絵柄通りの姿。

 いわゆる、初詣で売店に山ほど積まれている置物のアレだ。


『あー、これな。前に一張羅のスーツ姿で出たらめっちゃガッカリされて、コスプレでやっとるんよ。今時、平安時代の服なんか着ぃひんよ?』


「心を読むなっ! …ってコスプレ!!?」


『この鯛も作りモンでな。前に本物をピチピチさせながら会合に集まったら、他のヤツらにめっちゃ怒られて…。特にサラスヴァティーちゃん、めっちゃキレてたわ…』


 小脇で鯛をビチビチさせながら他の七福神に叱られる恵比寿とか、どんな絵面だ…。

 ちなみに恵比寿さんの言うサラスヴァティーとは、弁財天の本名だ。

 何でそんなコトを知っているのかと言われると、若かりし頃に熱中した名作ゲームのヒロインが同じ名前だったから…。


『毘沙門天なんて、普段着はジーンズやで!!!』


「マジかっ!?」


 何それ超見てみたい。


『でな、でな!! ジーンズ言うたら児島こじまが聖地…』


「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってくれ! このままじゃ話が進まねえ! とりあえず何がどうなって俺がココにいるのかを教えてくれ!!」


『おお、スマンな! すっかり忘れとったわ』


 おい。



『まず改めて言うけど、あんさんは死んだ』


「…」


『本来はそこから魂を綺麗サッパリさせて、人の世に戻してまた赤子としてやり直すんやけど、コレ見てみ?』


 恵比寿さんが親指と人差し指で何かを摘んで左右にブラブラと揺らしている。


『これな、あんさんの魂』


「扱い方が雑過ぎだろ!!」


 しかし魂と言う割には妙に水っぽいし、色も赤…いや、茶色っぽい感じだ。


「こういうのは普通、青だの赤だの炎っぽい色じゃないのか? これは…金?」


『アホか。頭んナカで赤とか茶ァとか考えとんのに口からは金色とか、どんだけ商人あきんどやねん。これは金でも赤でも茶ァでもあらへん。ババ色や』


「ババ???」


『あー、わからんか。要するにウンコ色やね』


 ウンコ色って…。


『普通に生きててもこうはならん。相手を騙したり苦して生きてきたような輩はそもそも地獄やからココには来ん。ひとつ分かっとるんは、商いのために自分を犠牲にしながら一生を過ごし、若くして亡くなったヤツらがこうなっとる。こないなった魂のことをワシらは商魂しょうこん呼ぶんやけど、コレが厄介でな。こっちで洗っても洗っても穢れが酷ぅて、ちぃーーっとも綺麗にできん。それどころか穢れた水を再び浄化するのも一苦労なんや…』


「まるで放射性廃棄物のようだな…。どこかに保管すれば自然と浄化出来たりはしないのか?」


『ワシらの技術革新が起こるまで、死人のまま何千・何万年もこんな真っ暗闇でボケーッとしたいんか?』


「それは勘弁してほしいなぁ…」


 正直、恵比寿さんが目の前に居るから今の状況に我慢できているだけで、自分が死んだ事実に加えて、真っ暗闇の中でじっと何万年も耐えろと言われたら発狂してしまうかもしれない。


『やろ? ぎょうさん試してきて、着実に結果を残せる方法も分かってきてな。今回あんさんにはその方法でやって貰おう思ぅて』


 ぎょうさん…確か、たくさんという意味だったか…。


『最初は全然わからんでそのまま元の世界に叩き返したらソイツ肉体が無くてな。ごっつぅ大変だったで!ハハハハー!』


「いや、それ笑い事じゃないし! 一体何があったのかは……あまり聞きたくないな」


『まあ話戻したろ。んで、あんさんが今回やらなイカンのは……』



 恵比寿さんの説明を要約すると、まず俺が死んだ理由は過労死らしい。確かに、ここしばらく忙しくてまともに寝た記憶が無かったが、若い頃は水の代わりに栄養ドリンクを飲んでどうにかなっていたのだけどな…。

 と、そんなコトを恵比寿さんに伝えたら『アホか』の一言だった。

 そして俺に求められているコトはただ一つ…


『記憶を残したまま異世界転生してエンジョイする』


 だそうな。


「その理屈なら、俺の記憶を消してから異世界に送り込む方がリスクが少ないんじゃないか? また同じように無理して、過労死するかもしれないだろう?」


『実はそれももうやっとる。アホは死んでも治らんのか、記憶消して送り込んだ連中全員ババ色のまま帰ってきよってな…。』


 あー、何だかその理由は分かる気がする…。


『ワシは海の神から商人あきんどの神になった変わりモンやけど、ホンマは商人全員が幸せになってほしい思うとる。若いモンが商売のせいで犠牲になるんだけはツライ! だから、次は幸せになりぃな!』


「ああ、分かった。善処するよ」


 恵比寿さんが出してきた右手としっかり握手を交わした瞬間、真っ暗闇が晴れて俺は空に放り出された。


「う、おおぉおぉわあああああ!!!」


 どうにかバランスを整えて両手を広げてみたが、パラシュートなどを一切装備しないまま自由落下で滑空するのは超コワイ!


『驚かせてスマンなー! ホンマは事前に説明せえ言われてるんやけど、この方がビックリして面白いやろ!?』


「アホかああああああぁぁ!!!」


 恵比寿さんもあぐらをかいたまま同じ速さで併走…というか落下しているのだけど、まさかこのまま付いてきたりしないよな…?


『スマンなー。付いて行けたらオモロイんやけど、仕事が山積みでなぁ。まあ、このまま落ちたトコが次の人生スタート地点や』


「一体どんな形でスタートするんだ? 容姿は? まさか記憶持ったまま乳幼児から再開なのか? それはキツイぞ!?」


 とにかくコイツ、説明不足過ぎる!

 もし生前と同じ姿のまま転生だとしたら<異世界に中年男性が身体一つで降臨>という凄まじい転生モノになってしまうし、もし荒野に一人放り出されようものなら、開始数日で餓死してリタイアもありえる。


 そもそも異世界の人々と意思疎通はどうするんだ!?


『なーんも心配あらへん! まあ行ってのお楽しみや~~~~』


 そう言って恵比寿の野郎だけ落下速度が緩やかになって俺から離れていく。

 くそぅ! まだ言い足りないぞ!


「最後にひとつ!」


『なんや~?』


「転生モノは女神様とかキレイなねーちゃんが応対するのが定石だと思う!!!」


『それ、前のヤツにも言われたわ!!! やっぱサラ…!』


 そのままおっさんの姿が見えなくなった。

 結局説明は得られないまま…か…。


 しばらく滑空を続けていると、広大な大地と海が眼下に広がった。

 このまま海にドボーンっ! お魚さんとして転生しました~…みたいな展開はマジでやめてくれよ!


 そんなコトを考えながら、俺は海沿いの港町に墜落した。

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