表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小さな国の大事件

作者: 柚木アキラ
掲載日:2016/12/02

「絶対に交替なんてしてやるものですか!皆んなが私の事、

嫌っている事くらい、ちゃんと知ってるんだから……」

冬の女王が、吐き捨てる様に そう言った。


春・夏・秋・冬・それぞれの季節を司る女王達。


彼女達が、決められた一定期間、塔に住むことによって

その国の四季は廻っている。


ところが、今年は冬が終わる気配が全く無い。

原因は、冬の女王のストライキだ。


『冬なんて、寒くて、生き物も、植物も、皆んな息を

潜めて暮らさなきゃならない季節、誰にも愛されていない』

冬の女王は そう思っていた。


考えれば考えるほど、次にやって来る、春の女王の存在が

疎ましく思えた。


春が来れば、人々は、外へ出て来て行動を始め、他の動物も

活動を始める。

植物も、次々に芽吹き始める。


冬の女王には、どうしても それが許せなかった。


誰もが待ち焦がれている、誰もに愛されている、

春の女王の存在が……


実は、春の女王は、とっくに塔に到着していたのだ。

だが、冬の女王が、彼女を縛って、ご丁寧に

猿ぐつわまでして、地下牢に閉じ込めてしまっていたのだ。


春の女王は、文字通り『手も足も出ない』状態だった。


周りの季節だけでなく、冬の女王の心まで凍ってしまった今、

彼女の心を、どうすれば溶かすことができるのか……


とうとう、困り果てた、その国の王様から お触れが出た。


『冬の女王を、春の女王と交替させた者には、好きな

褒美を取らせよう。但し、冬の女王が、次に廻って

来られなくなる方法は認めない。

季節を廻らせる事を妨げてはならない』


国の人々は、褒美目当てに 様々な事を考えた。


ある者は、女王の気に入りそうな宝石や、ドレスを

贈り物として携えて出掛けたが、門前払いを喰らった。


歌の得意な若者が、塔の外で、美しい歌声を聞かせたが、

梨のつぶてだった。


国民は悩んだ。

このままでは作物も育たず、体調を崩す者も出始めるだろう。

今まで起きた事のない大事件だ。


小さいけれど、平和な国だった。

今その国は、深刻な死活問題に陥っていた。


そんな中、ニルスという少年が言った。

「僕たちに任せておいて!」


ニルスは、ハンス、ピーター、エリックの幼馴染

4人で一緒に、塔の前まで出かけて行き、雪で

沢山の動物を作り始めた。


うさぎ、ライオン、ゾウ、犬、猫 など……


ピーターが早口で言った。

「早くしないと、春が来たら、この子達は溶けちゃうから

とにかく、急いで作らなきゃ!」


のんびり屋のエリックは、ホッペと鼻を真っ赤にしながら、

「分かってるよ。ちゃんと急いでやってるよ……」と返事をした。


二ルスと、ハンスは黙々と動物をこさえていた。


少年達の必死な様子に、冬の女王は塔の中から、

毎日こっそり様子を伺っていた。

『春が来たら、困る人間がいるの……?』

冬の女王にとっては予想もしない事だった。


やがて、少年達の作った雪の動物達は、魂が宿ったかのように、

飛んだり、跳ねたり、歩いたりし始めた。


4人の少年達は、寒さなんか そっちのけで、毎日毎日

その動物達と遊んでいた。


彼等の、あまりにも楽しげな声に引き寄せられ、

冬の女王は、思わず、塔の外まで様子を見に出て来た。


少年達は、冬の女王の姿に気が付いた。

「わあ……きれい!あなたが冬の女王様?やっぱり

思った通りきれいなひとだ」

ハンスの言葉に、女王は、恥ずかしそうに俯いた。


「僕たちは、ずっと寒い日が続いたって平気だよ。

だって、こんなに楽しいんだもの。ただね、

最近、食べる物が少なくて、いつも お腹が空いているんだ」


ニルスが そう話すと、冬の女王が言った。

「どうして、そんなに お腹が空いてるの?」


「作物を育てるための土が、全部雪の下だからだよ。

でもね、僕の父さんが言ってた。冬の冷たい空気や雪が、

良い土を作ってくれるんだって。雪の下で、

いっぱい栄養を蓄えてから、芽を出す植物が、僕たちの

栄養になるんだって。

だから、冬は寒くなきゃいけないし、大切な季節だって」


冬の女王はポロポロ涙を流し始めた。

流した涙は氷の欠片になって、美しく煌めいた。


ニルスは聞いた

「どうして女王様は泣くの?」


「私…… 皆んなに嫌われてると思ってたから……

冬が来ないと、皆んなが困るなんて、思ってもみなかったから……」

しゃくり上げながら、女王は そう答えた。


ハンスが言った。

「僕は、冬 好きだよ。近くの湖が凍って、スケートができるんだよ。

冬しかできないスケート場! 女王様、知ってた?」


冬の女王は、首を横に振った。


ピーターが言った。

「オレの父さんは、冬の間、氷で彫刻を作る仕事

をしてるんだ。だから、冬は、うんと寒くないと困るし、

あんまり早く春が来ちまうと、商売上がったりだって、言ってるぜ」


エリックが、少し離れた丘を指差しながら

「あそこから、ソリで滑るの、僕、大好きだよ」

と、真っ赤なホッペで言った。


冬の女王は言った。

「私…… ちゃんと、役に立ってるの?嫌われてないの?」


少年達は口を揃えて言った。

「だから、冬は来ないとダメなんだってば‼︎」

その顔は、どの顔も満面の笑顔だった。


冬の女王は、少し考えた後こう言った。

「そろそろ、湖のスケート場、今年はおしまいにしてもいいかしら?」


ハンスは考えていたが、

「ま、今年は いつもより多く遊べたから、いいよ!」と答えた。


冬の女王は微笑んだ。


「お父様のお仕事、今年はもう そろそろ おしまいでも

大丈夫かしら?」


「そうだね。いつもの冬よりは働けたし、少しは父さんも

休まないとね」ピーターが笑った。


応えるように冬の女王も笑った。


「ソリ遊びも、来年までの お楽しみでいいかしら?」

女王の問いに、エリックは、にっこり頷いた。


「あなた達が、せっかく作ってくれた可愛い雪の動物達……

あの子達、溶けてしまっても平気?」


女王が そう聞くと、少年達は顔を見合わせた。

ニルスが言った。

「また、次の冬が来た時、ここで同じ様にこさえるから

大丈夫だよ!」


ハンス、ピーター、エリックも、コクンと頷いた。


冬の女王は「少し待ってて」と言い残し、地下へ急いだ。


「乱暴な事をしてごめんなさい‼︎ 私、あなたに嫉妬してたの……」

冬の女王は、春の女王を縛っていた縄をほどき、猿ぐつわを外した。


「誰も、あなたを邪魔になんかしてないわ。だって、

私はあなた無くして輝くことなんかできないもの!」


春の女王がそう言うと、二人は抱き合った。


冬の女王は、他の女王達が住む世界へ帰って行った。


替わりに、春の女王が 塔の窓から顔を出した。

「お待たせ‼︎」


みるみる一面の雪が解け、凍てついた空気が緩んだ。


国の人々の顔にも笑顔が戻った。


ニルス、ハンス、ピーター、エリックの4人は、

王様に呼ばれ、お城へ向かった。


王様が言った。

「今回はお手柄だったのう。なんでも好きな物を

与えてやる。何がいい?」


少年達は、話し合って決めていた。

「何もいりません」


王様は驚いた。

「何も⁉︎ 何でも好きな物を言ってみなさい。何かあるじゃろう?」


ニルスが答えた。

「いいえ、何も。だって、僕達は楽しく雪遊びをしていただけですもの。

それに、ご褒美なら、もう貰ってるから……

春・夏・秋・冬・それぞれの女王様が四季を与えてくれてるから……

春には一面の花畑、夏には川で水遊び、秋には美味しい作物を、

冬には湖のスケート場……

色々な贈り物を、もう沢山貰っているから、だから、

ご褒美はいりません」


少年達は、皆、ニコニコと誇らしげに、微笑んでいる。


王様は、「ホーー……」と溜息を漏らした。


ニルスが言った。

「代わりにお願いがあります」


「うん。言ってみなさい」

王様は即座に答えた。


「一年に一度、春、夏、秋、冬の女王様4人を

このお城に呼んで、パーティを開いてもらえませんか?

女王様達のおかげで僕達はみんな生命(いのち)を繋いでいるんだもの。

それくらいしたっていいと思いませんか?


それに、女王様達だって寂しいだろうし、退屈だと思うんです。

女王様達に、これからも仲良くしてもらうために、ここでパーティ

を開いてください。お願いします!」


王様は悩んだ。

「うーーん……そうすると季節はどうなってしまうのか……」


ピーターが言った。

「いいじゃん!一年に一回くらい、ものすごーく暑い日に、

じゃんじゃん雪が降ったり、春の花が咲いたり、葉っぱが

紅くなったってさ」


王様は、お腹を抱えてゲラゲラ笑い出した。


早速、パーティは開催された。

王様は、女王、一人一人を労い、丁寧にもてなした。


その日は、泳ぎたくなるくらい暑いのに、

凄い大雪で、バラやダリヤが咲きほこり、

森は紅葉していた。


それでも、4人の女王達は、心底楽しそうだった。

だって、女王様達は、もう長いこと、誰かと ゆっくり

おしゃべりする機会なんてなかったんですもの。


それからというもの、この国の季節が滞る事は

二度となくなった。


小さな国に平和が戻った。


ただ一つ、一年に一度、とんでもない異常気象が

訪れる事を除けば、であるが……















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 春の女王が監禁されて……までは私が書いた話と同じです。 しかし、冬の大好きな子供たちが冬を楽しみ、問題を解決する、というアイデアは思いもつきませんでした。 無邪気な子供たちの様子がよく…
2016/12/16 17:01 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ