#8
外はひんやりとしていて誰もいない。
まるで別世界にいるような感じ。
ふと振り返れば先ほどまで自分がいた喫茶店は灯りが消えていて『準備中』の文字が浮かんでいた。
「そういえばさ、一つ聞きたいことがあるんだけどいい?」
足早に先を歩くふぅちゃんが突然立ち止まり私をじっと見つめる。
まっすぐに私を見る目は鋭く少しだけ怖い印象だった。
「どうして、なにも言ってくれなかったの?」
相変わらずその瞳は私を逃すまいと鋭くまっすぐに私を見つめていて、しかしその声は震えていた。
彼女の問いかけに一体私はなんて答えればいいのだろう。
どれだけ考えても結局彼女を傷つける答えしか思いつかなくて私はため息交じりに「ごめん」と短く返すことしかできなかった。
「まぁ、結果的に教えてもらったわけだし、私もそんなねちっこい女にはなりたくないし。……改めておめでとう、信子!」
ふぅちゃんはそういって私を抱きしめてくれた。
髪を撫でる手も『おめでとう』と言ってくれる声も、どれも優しくて彼女は心の底から私を祝ってくれていた。
そう思いたかった。
でもどうしてだろう。
私を抱きしめる手は震えていて、一瞬彼女はとても悲しそうな顔をしていた気がした。
「そろそろ帰らなくて大丈夫?」
次に顔を上げたとき、ふぅちゃんはいつもの優しい表情に戻っていて、私は気のせいだったに違いない、と自分に言い聞かせながら離れる彼女に笑顔を向けた。
「うん。そろそろ帰ろうかな」
「それじゃぁ、気を付けてね。また明日」 手を振る彼女に「また明日」と手を振り返して私は彼女に背を向け、少し先にあるゲートに向かって歩いた。
それにしてもこの世界も変わったな、と私をため息をつきながらあたりを見回す。 確かに深夜の方が賑わっていたのは確かだが、この時間帯でも人が行き交っていて歌声や笑い声があちこちで聞こえていた。 こう、もっと……
そう。毎日がお祭りみたいな賑やかさだったはずだ。
それがどうだろう。
まるでお祭りが終わった後のような静けさ。
ふと振り返った先ではいまだにふぅちゃんが笑顔を崩さずに手を振っていた。
それはまるで人形のようで不気味ささえ感じてしまう。
とりあえず、いまはここから出よう。
私は少しだけ足早にゲートへと向かった。




