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両手いっぱいに花束を  作者: 優悠
はじまりのお話。
7/35

#7

「そういえば、なんでまた急にここに来たの?もう来ないものだと思ってた」

 唐突すぎる質問に一瞬なんて答えようか、と迷いながら、そういえばふぅちゃんにはまだ結婚のことも妊娠したことも何も報告していないことに気付いてまずそこから話さなくては、と頭の中で話を組み立てる。

 正直な話、ふぅちゃんには一番に報告したかった。

 けれど、勝手に憧れて勝手にいなくなって、今更どうして連絡ができるのだろうか、と連絡先を開いてはずっとためらっていたのだ。

 私の話を待ち構えているふぅちゃんにまず、私事になるんだけど、前置きをして結婚したことと子供ができたことを説明した。

 真っ先に祝ってくれたのは、それまで私たちに背を向けてグラスを磨いていたマスターで彼女はまるで自分のことのように嬉しそうに、先ほどと同じようにいまにも飛び跳ねそうな勢いで「おめでとうございます」と笑顔を浮かべていた。

 そしてマスターに続いてふぅちゃんが「信子がお母さんかぁ」と目をぱちくりさせながらも「おめでとう」と彼女もまた笑顔で祝ってくれた。

「ありがとう」

 なにかくすぐったさを感じながら私は二人に頭を下げる。

「それで、最後の思い出作りにまたこちらへ?」

 マスターの問いかけに私は「人を、探しているんです」と、ここでようやく当初の目的を話すことができた。

 あんなにも一緒にいて、それなりに彼のことを理解していたつもりでも、私は『プルメリア』というこの世界での仮の名前と、黒髪の短髪で黒縁の眼鏡をかけている、というこちらの世界の仮の姿しか知らないことに今になって気づいた。

「それだけの情報だとなぁ」

 眉を八の字にして困った表情のふぅちゃんに「気ままに探すから気にしないで」と笑って見せる。

 連絡先は知っているのだ。

 はぐらかされるかもしれないし、もうやっていないというかもしれない。

 それでもいるかどうかも分からない人をふらふらと探すよりは、ダメ元で連絡するのが手っ取り早い気がした。

 しかし、困った表情のふぅちゃんとは逆に何かを思いついたような少し得意げな表情を浮かべたマスターの一言で私はこの世界の住人にまた戻ることになるのだ。

「お客様の中に数人『プルメリア』という名の友人について話をしているのを何度か聞いたことがあるような気がします。それに、この店はこう見えても繁盛しているんですよ。むやみに探すよりも、ここは私に任せてはくれませんか?」

 目を輝かせ張り切っている少女を前に「別に大丈夫です」なんて言えるわけもなく、「私も当たってみるよ」と真剣な表情をした友人を見てしまうと「一応連絡先は知ってるので」なんて今更言い出しづらくて結局私は「ありがとう。じゃぁ、お願いしてもいいかな」と言うほかない。

「それじゃぁ、情報を掴んだらマスターに報告しておくから信子は定期的にここに顔出してね」

「え?あ、うん。ありがとう」

 いつの間にか話はまとまり、ふぅちゃんが「じゃぁまた明日くるね」と席を立ったので私もあわてて彼女に軽く頭を下げて先を行くふぅちゃんの背中を追いかける。

「また会えるといいですね。……大好きなお兄ちゃんに」

振り返るとマスターが優しく微笑んでいて、私はそんな彼女にもう一度深く頭を下げて今度こそ店を出た。



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