表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
両手いっぱいに花束を  作者: 優悠
はじまりのお話。
6/35

#6


「じゃぁ、ちょっと付き合って」

 そう言われて手を引かれながら向かった先は喫茶店だった。

 路地裏にひっそりと建つその店からは香ばしいコーヒーの香りやバターの匂いが漂い、店先には色とりどりの花が風に揺れている。

 まるでどこかのお話に出てきそうな温かい雰囲気の喫茶店だった。

 やっほー、とふぅちゃんが明るい声でドアを開けるとカランカランと店内にベルの音が鳴り響いた。

 騒がしくなく落ち着いた雰囲気の店内にはクラシックが流れていて時折カウンターの向こうにいるこの店の主であろう少女が口ずさんでいた。

「あたしウインナーコーヒー。生クリーム多めで、あんまり熱くない程度に熱いやつね」

 常連なのだろうか、メニューを開くこともなくカウンターの席に腰を下ろしながらさらりと注文する彼女をチラリと見てから慌ててメニューを開いた。

 種類も豊富でどれも美味しそうに見えるが優柔不断な私は見れば見るほどに迷ってしまうのは目に見えている。

「じゃぁ、私はホットミルクで」

 はいっ!と元気に返事をする彼女は小さな体でカウンターの向こうをパタパタと走っていて、その姿は可愛らしく微笑ましくてくすりと笑った。

「ここ、私のお気に入りの場所なの。落ち着いた雰囲気だし、マスターは可愛くて見てて飽きないしね。ランチとかも美味しいんだよ」

 楽しそうに話すふぅちゃんの表情を見て、私は「へぇ、私も今度食べてみたいな」と背を向けながら一生懸命コーヒーを淹れる少女を見る。

 逃げ出した空白の日々の中にどれだけの出会いがあったのだろう。

そんなことを考えた。

 お待たせしました、と出されたカップの隣にはカップケーキが小皿に乗っていた。 

「手作りなんでお口に合うかわかりませんが、よかったらどうぞ」

 きっと不思議な顔をしていたのであろう私にマスターが可愛らしい笑顔で言う。

 そして視線をふぅちゃんの方にやり、美味しそうにカップケーキを頬張る彼女を心配そうに見つめていた。

「うんっ!すっごい美味しい! 」

 ふぅちゃんの言葉にマスターはホッとした表情を浮かべている。

「風歌さんよく来てくれるから何か風歌さんにあうものをと思って考えたんです。ウインナーコーヒーをいつも飲まれるから、カップケーキは少し甘さ控えめにしてキャラメルソースを練りこんだほんのり苦みのあるものにしたんです」

 マスターは今にも飛び跳ねそうなほど嬉しそうにしていて、興奮しているのか少し早口になりながらカップケーキについて説明しているその姿が本当に可愛らしくてふぅちゃんと顔を見合わせてくすりと笑った。

 そして私もそのカップケーキを口にして、あ、と言葉を漏らした。

 そのカップケーキはお世辞とかではなく美味しかった。

 ただそれだけではない、私はこの味を知っているような……。少しだけ懐かしいような味だったんだ。

 ほんのり苦くて、でもやさしい味。

「うん。すごくおいしいです」

 私もまたマスターに笑顔で言う。

 それは嘘でも何でもない素直な気持ちだった。

 マスターはにっこりと微笑みながら「ありがとうございます」と軽く頭を下げ、棚いっぱいにあるグラスを磨き始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ