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両手いっぱいに花束を  作者: 優悠
はじまりのお話。
4/35

#4

 懐かしい電子音と『しばらくお待ちください』の文字。

 それが消えたら一瞬眩しい光に包まれて目を閉じた。

 そうして次に目を開けた時には懐かしい街並みがそこにはあったんだ。

 変わらない景色の中にそれでも多少変わった光景。

 よく行っていたライブハウスがなくなっていて代わりに新しいスタジオができていたりするのを見ると自分が放り投げた空白の時間を叩きつけられているような気がした。

 当たり前のように毎日通っていた道も一つ建物が増えるだけで全く違った場所のように見えて戸惑ってしまう。

 私はもともと方向音痴なんだ。 

 っていうか……

 私は深くため息をついて誰に言うわけでもなく呟く。

「無計画にもほどがあるでしょう」

 知り合いに声をかけたわけではないから、必ず知り合いに会えるわけではなかった。

 そもそも「兄ちゃん」がいまだにこの街を出入りしているのかどうかすらわからないし、そもそものところ「兄ちゃん」に会いたいのならまずは彼に一本連絡をして、都合のいい日と時間を聞いて約束を取り付ける。それが一般的なはず。

 そんな小学生でもわかるようなことができなかったのかよ…… 

 私は深いため息をついて、とりあえず歩き始めた。

 現実の時間に合わせてこの世界も動いていて、だいぶあたりも真っ暗なはずなのに街全体が明るく感じるのはそれだけ栄えているからなのだろう。

 曖昧の記憶を辿りながら、ずっと夢見ていたあの大きなステージの前へ行ってみたが、ステージはもちろんのことその周辺にも人の気配がなかった。

 今日たまたまなのか、空白の時間にそうなったのかはわからないけどなんだかここだけ時間の中に置き去られてしまったかのようで少し寂しい。

 本来は事務局に「いつ」「何時から何時の間」「どんなイベントをしたいか」という旨の連絡を伝えて、許可が下りて始めてできるものだ。

 しかしまぁ、名の知れた大手、もしくは中堅の人が最優先になるためただ歌が好きで歌っているだけの私みたいなタイプはその申請書に目を通してもらえるのかもわからないような、そんな大きなステージ。

 私が追いかけていた場所。

 私がずっと憧れていた場所。

 もういつからか過去形になってしまった夢も、ステージを前にするとあの時の興奮と未来への期待、傷つきながらもがむしゃらにやってきた日々は昨日のことのようによみがえってきた。

 滅多に行くことのできなかった最前列へ行ってみれば、その近さと広さに言葉を失った。 

 私自身ライブハウスでのライブを重ねてきた。

 お客さんの距離の近さやステージから見た景色を知っている。

 それでも一度憧れたそのステージはやはりまた別格で、広さにも近さにも圧倒された。

 こんな場所であの友人は小さな体をめいっぱい使って駆け回り歌い笑いお客さんを楽しませていたんだ、と思うと薄れかけていた憧れが再び大きなものへと変わった。

「やっぱ、すごいわ」

 呟くと背後からくすりと笑う声が聞こえて、勢いよく振り返るとそこには久しぶりに見る姿があった。

 腰まで伸ばした桃色の髪の毛。まるでガラスのようにきれいな水色の瞳に白い肌。

 お互いに忙しくなりメールのやり取りをする機会も少なくなってしまった友人の姿だった。


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