#2
相変わらず寂し気なこの世界ももう何度か足を運べば私の中ではもうひとつの日常になっていた。
ゲートを抜けてすぐにあるしゅうちゃんのお店はもちろん準備中の文字が……
「あれ? 」
浮かんでいなかった。
つまり営業されていたのだ。
専門学生だって言ってたはずなのにな。今日はお休みなのかな?
そう思いながら店の中へと足を運ぶ。
「おはようございまーす……」
自分でも不思議と発せられた声はとても遠慮がちに自然とボリュームが下がる。
カウンターには誰もいなかった。
私が店を経営したことがないので分からないがもしかしたら何か設定をし忘れたのかな、と思いながら店の中をぐるっと見回すと、奥から一人の青年が姿を現した。
「ま、まつくん!? 」
「あ、やっぱりリーだ。久しぶりだね」
「あれ、ここって……」
言いかけたところでまつくんこと茉莉くんに、とりあえず座りなよ、と促されカウンターの席に腰を下ろした。
まつくんは私が歌うようになって間もないころに仲良くなった子で、同じステージに立つという夢を抱えて一緒にいろんなライブハウスを見に行ったり、二人で共演することも多かった。
いわば同士というやつだ。
ふぅちゃんとも面識があり、気付いたときには三人で動くことが多くなった。
いまも二人の間に交流があるかどうかは分からない。
「バイトを探しててさ。で、たまたま仲良くなったしゅうが拾ってくれたの。自分は午前中は学校があって店を開けないから、午前中は好きにしていいよ、って」
いっぱいお金を貯めて、自分のライブハウスを持つんだ。
まつくんは寂し気にそう呟いた。
そんなまつくんを前に私はなんて声をかければいいのだろう。
「自分の、ライブハウスか」
ここの世界のライブハウスは大体の人が申し込み制でライブハウスを借りている。
たいていの人はゲーム内の趣味でやっていることだから大金を出して自分のライブハウスを建てようとはなかなか思わない。それよりかは服を買ったりほかの趣味に回す方がいいに決まっている。
私もその中の一人だったし、現に私はこの世界から数年足を運ばなかったわけだ。
しかしまつくんのように自分のライブハウスを建てたい、と思い資金をためている人も多くいる。
この差はなんだ、と問われたら「価値観の違いですかね」と答えるほかない。
結局はだれもみな『歌が好き』なのだ。
そんな居場所を自分の力で手にしたいと思うか、歌えればそれで十分満足なんだ、と思うかの違い。
私はステージに立つことが一番の目的だったからあまり自分のライブハウスがほしい、と思ったことはなかった。
しかしちょっとバイトした程度で手が届くようなものではなくて、ライブハウスを建てる、というのはとてもすごいことだ。
そんな大きな夢をもった彼はそれでも浮かない顔をして理由は聞かずとも分かってしまう。
聞くべきか、聞かぬべきか……。
しばらく悩んだ結果、私は思い切って彼に聞いてみた。
「最近は、その……歌ってるの? 」
彼は弱々しく首を横に振った。
「歌うことは好きなんだ。でもさ……」
でも、自分の命には代えられないでしょう?
言わなくても寂し気に私を見つめるその瞳が私に訴えかけていた。
私はどう返していいのかもわからずに「そっかぁ」とだけ呟いた。




