#1
朝、目が覚めると私はベッドではなくソファーの上で横になっていた。
千草もまたこたつで大の字になって寝ていて、つけっぱなしのテレビはにっこりと笑う明るい女性がその放送局のマスコットキャラクターとともに天気予報を伝えていた。
そしてテレビの端に記されている時刻を目にして私は一気に目が覚めた。
「ちょっと千草! お風呂入ってないでしょう。はやくシャワー浴びてこないと、時間なくなるよ」
慌てる私とは逆に彼は大きなあくびを一つしてテレビをじっと見つめている……ようで再び目を閉じて首を揺らしていた。
そんな千草を髪を乱暴に掻き回して「悪いけど、今日はお弁当作る時間ないや」とキッチンへ向かい朝ごはんの用意を始める。
そこでようやく「いいよ、いつもありがとうな」と笑って千草も立ち上がり風呂場へと消えていった。
朝ごはん、といっても作っている時間はないし、千草も風呂から出たらすぐに身支度をして出ていくことになる。
トーストと作ってもサラダくらいか……。
コーヒー用のお湯を沸かしながらそんなことを考える。
「のぶこー。シャンプーなくなっちゃったぁ」
眠たげな声が浴室から響いてくる。
「じゃぁ、今日買ってくるよ」
そう伝えたが、私の声はきっとシャワーの音に掻き消されてしまったと思う。
返事はなかった。
きゅっとシャワーが止まる音がしたと同時にパンを焼き、コーヒーをいれる。
パンは焼きたての方が美味しいに決まっているし、コーヒーは千草が猫舌だから少し冷ます必要がある。これは暮らし始めて気付いたことだった。
「いつの間に寝てたんだろうね」
脱衣所から出てきた彼はすでに着替え終わっていて、わしゃわしゃと乱暴に髪を拭うとそのタオルを首にぶら下げ席に着きながらそんなことを言う。
お笑い番組を見ていたのは覚えてるんだけどね。と返しながらバターをたっぷり塗ったトーストとサラダを並べ、いただきますと声を合わせた。
時間に追われているはずなのに、当の本人はのんきに昨夜に見た番組の感想を楽し気に話していた。
私も時間を気にしながら話を合わせる。
ほとんど一方的に話して満足したのか大きく伸びをしながら立ち上がる。
「さて、と。……そろそろ行ってくるかな」
「うん、気をつけてね」
軽くキスを交わして玄関まで見送ってから私はひとつ欠伸をした。
まず最初にテーブルの上を片付け、洗い物を始めた。
そして次に部屋を掃除する。
相変わらず食べかけの菓子袋や脱ぎっぱなしの靴下が散乱していて、私は思わず笑ってしまった。
たった数日なのに数年の付き合いの中で知らなかったこと、気付かなかったことがたくさんある。
それは、この先が少しだけ不安で、でもそれ以上にワクワクすることだった。
掃除機も洗濯も朝早くからやるのにはすこし気が引けて、私はコーヒーを入れるとソファーに腰を下ろした。
今日は何をしようか。
シャンプーが切れた、と言っていたし、食器用洗剤ももうすぐなくなる。それになんだか甘いお菓子が食べたい気分なので、開店時間になったら出かけよう。
それから茜ちゃんに昨日のことをきちんとお礼を言っておかないと。
ある程度今日の予定が決まるも、開店時間までのに二時間ほど時間がある。
この時間はニュースばかりでテレビを見る気にはなれない。
気持ちのいいニュースなんてほとんどなくて、コメンテーターや芸能人、評論家なんかが討論している様子は面白くもなんともなかった。互いに怒りをぶつけあっているだけの悪口大会のようにしか思えないのだ。
人それぞれ考え方は生き方や経験から違って当たり前で、なのに自分の意見を貫こうと言い合いをする姿はなんだか幼稚に見えてくるのだ。
テレビの番組欄を開いて確認するもやはりどこもニュースばかりだった。
「まぁ、買い物も洗濯も掃除も昼からにするかなー……」
呟きながら私は装置を頭に着ける。
いるかどうかも分からないけど、つまらないニュースを見ているよりは時間つぶしになるだろう。そう思って私はスイッチをつけた。




