#3
初めて新居へ訪れたのは契約前の下見の時だった。
何もない、電気もなにも通っていない薄暗い部屋は少しだけ不気味で、でも想像でしかなかった新しい生活が形になっていくことに喜びを感じていた。
それから数週間後には鍵を受け取り、入居が可能になる一週間後のためにある程度の家具を揃えて電気に水道、そしてガスを通してもらった。
何もない広々とした部屋にベッドが、ソファーが、一つずつ自分たちの居場所が出来上がっていくことに感動すら覚えた。
そして、今日からそこで一緒に暮らすわけだ。
「はぁー……。本当に一緒に暮らすんだぁ」
彼はきょろきょろと部屋中を見回してぽかんとした表情でしみじみと言う。
声にはしなかったけど、私も同じことを思っていた。
形になっても実感がわかないのは、母がよく言う『そんなもん』なのか、それとものんびり屋な私たちだからなのか。
積み上げられたままの段ボールを一つずつ片していき、空っぽだった食器棚には色とりどりな食器が並べられ、厳選された小説やCDがしまわれていった。
昼過ぎから初めて終わった頃には陽が沈んでいた。
慣れないことをしたからか、終わったと同時に千草はソファーに寝そべりそのままいびきをかき始めてしまった。
私はそんな彼にお疲れさま、と一言言葉にして近くにあった毛布をそっとかけてあげた。
そしてそんな彼の髪の毛をそっと撫でながらもう一つ、伝えた。
「じゃぁ、ちょっと『ありがとう』を伝えてくるね」
まるで「おう。行って来いよ」とでもいうようにわずかに口元が笑っていた気がしたのは私の気のせいだろうか。
そんなことを考えながら私は数年ぶりにほこりのかぶったそのゲーム機を起動させて、機械を頭からすっぽりと被った。




