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両手いっぱいに花束を  作者: 優悠
水曜日~弱さと強さ
27/35

#4


 外に出るとひんやりと冷たい風が頬を撫でる。

 それは幼い頃、風邪を引いた時に一晩中ずっと看病してくれていた母のひんやりとした手のようで、大丈夫よ、と慰められている気がした。

 なんて都合のいい解釈 …… 。

 私は苦笑いを浮かべて、プラネットへと向かった。

「あ、リーネさん。おかえりなさい」

「た、だいまです。 …… あー、茜ちゃんなんですけど、見回りがあるってそのまま飛び出ていきました」

 私の報告に碧ちゃんは「また怒って飛び出しちゃいました?」とクスリと笑っている。<

 常に明るく無邪気な桃華さん、喜怒哀楽がそのまま表に出る茜ちゃんとちがって碧ちゃんは常に落ち着いていて、そして一つ一つの仕草が上品に見える。

 こうして改めて見ていると確かに彼女の方が茜ちゃんよりも年上だな、と感じた。

「あーちゃん、あぁ見えて本当はいい子なんですよ?」

 そこだけはどうか信じてあげてください。と碧ちゃんはニッコリと微笑んだ。

 もちろんそんなことは言われなくても分かっているつもりだ。

「茜ちゃんは、とても純粋でかっこいい人ですよ」

 思ったままを口にすると碧ちゃんの笑顔が微妙に曇った気がした。

 しかし彼女は「もう少し大人になってもらわないと困るんですけどね」とすぐにいつもの笑顔を浮かべて、私の目の前にティーカップを静かに置いた。

 サービスです、と出されたホットミルクを啜ると不思議とそれまで落ち着きのなかった気持ちがすっと消えていくのを感じる。

「あーちゃんは確かに純粋です。はっきりしない事や人を見るとすぐに態度に出す。でもそれは…… 自分と重ねているから」

「自分と、重ねてるって …… あの茜ちゃんが、ですか? 」

 あとは直接本人に聞いてください。

 笑顔を張り付けたまま何も言わないが確かに彼女はそう言っている気がした。

 しかし、あの茜ちゃんにそんな話題なんて切り出せばいいのだろうか。

 自分のことを話すようなタイプには見えない。

 機嫌悪くさせるのがオチだろうな …… 。

 その光景は安易に想像がついて苦笑いしてしまう。

「いまのあーちゃんを変えれるのはリーネさんだけだと思うんです。あーちゃんのこと、お願いします」

 そう言って碧さんは深々と頭を下げた。

突然のことに私は頭が真っ白になった。

 なんと返せばいいのだろう?

 誰も傷つかない無難な答えはなかなか見つからなくて私は気付かれないように小さくため息をついた。

 私は茜ちゃんのことを知らない。

 いや、茜ちゃんだけでなくこの世界の人のことはなにひとつ分かっていないと思っている。

 自分が描いたままのキャラクターになりきれてしまうこの世界に嘘も本当もない。

「彼女が私と自分を重ねていたとしても、話すようになったのも最近の私よりはずっと一緒にいる碧さんや桃華さんの方がいいと思います」

 私の言葉に碧さんの笑顔は曇った。

 何か言いたげな表情を浮かべながらしばらく私を見つめるとため息交じりに呟く。

「一緒にいることが必ずしもその人にとってプラスになるとは限らないんです」

 その表情は笑っているはずなのに、私には辛そうに見えて、それ以上なにも言葉にはできなかった。

 否定も肯定も出来ずに、ただ辛そうに顔を歪める彼女を見つめることしかできなくて、その決断力の中途半端さに、声をかけることもできない無力さに、腹が立ってくる。

 そんな自分を見つめるのはあまり気持ちよくなくて私は「少しだけ、時間をください」とだけ告げて逃げるようにその場を後にした。

 結局、私はどこへ行っても大事なところで逃げ道を探すんだ。

 弱い自分を認めたくはない。

 そんな自分を正面から見つめたくもない。

 それでも自分がどれほど弱い人間なのかは誰よりも自分が一番よく分かっていて、誰かが「あなたはちゃんと頑張ってる。強い子だよ」と慰めてくれたとしても、私はその言葉を素直に受け止めることをできはしない。

 じゃぁ、どうしたらいい?

 一歩、また一歩と歩みを進めていくうちにずっと堪えていた感情がふつふつとこみあげてきて、気付いたときには涙が頬を伝っていた。

 わからない。

 自分がどうしたいのかが分からない。

 いまこみあげてくるこの感情がなんなのかが分からない。

 どうしてこんなにも涙が止まらないのかがわからない。

 ただ漠然と孤独にはなりたくないと震える自分自身が分からなかった。

 いっそもう声を上げて泣きじゃくれたら気持ちがいいだろうな。

 そんなことを思いながらも、そうなったらなったできっと行き交う人々は誰も手を差し伸べてはくれないことを私は知っている。

 得体の知れないものを見るような視線をこちらに投げかけるか、退屈しのぎの見世物になるだけ。

 私が何を叫んだところで誰も共感してくれないだろうし、そもそも誰も私の言葉に耳を傾けてくれるわけがないんだ。

 それは良くも悪くもこの世界でもう一人の自分を生きてきて学んだことだった。


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