#5
「この組織のリーダーはルコではなく、あなたですね?このカフェを作ったことにも意味が? 」
「リーダーなんてかっこいいものじゃないよぉ。ただこの組織を作ろうってみんなを誘った言い出しっぺなだけ。実際私は犯人に顔を見られてる可能性が高いから動き回らない方がいいと思って、このカフェでマスターをしながら情報収集をしてるの。でも、それが理由で作ったカフェじゃないわ。 …… この世界には人のぬくもりに触れていたい人がたくさんいる。特別なことをする必要なんてないの。ただ、毎日帰る場所があって毎日『おかえりなさい』って言ってもらえる場所がある。それだけいいの。 …… 私もヤヨもそんな時間を探し求めて出会った。 …… そんな空間をずっと守り続けていればあの子もつられて帰ってきてくれるかもしれないって思ったの」
あの時自然と口から零れた言葉。
一緒に笑える日をずっと待ってるから。
きっとマスターもあの病室へ行き、彼女を抱きしめて何度もそう声をかけていたのだろう。
一番辛かったのはもちろん被害者だろう。
でも、残された方の傷も癒えることはないのだ。
帰ってこないかもしれない、と疑う気持ちを振り切って、帰りを待ち続けることはきっとすごく苦しいに違いない。
私にその経験がないからわからないけど、弥生さんに会ったときのあの胸の痛み。他人の私ですらあんなにも胸が痛かったのだからずっとそばにいた人たちはもっと苦しい思いをしているのだろうということくらいはわかる。
きっと帰ってきますよ。
そう言いたかった。
でもその言葉はあまりにも無責任な気がして結局アイスミルクと一緒に飲み込んでしまった。
「早く犯人を捕まえましょう。私も出来る限りの力にはなるので」
「うん、ありがとう」
窓の向こうは薄暗くなり始めていた。
そろそろ戻った方がいいかもしれないな、と私は残りのアイスミルクを飲みほすと、マスターに「また夜に来ます」と伝えて席を立った。
「あ、私は桃華って言うの。みんなにはモモって呼ばれてるけどねー。よろしくね、リーちゃん」
「よろしく、桃華さん」
私は彼女に小さく頭を下げるとゲートへと急いだ。




