#2
ゲームをやらなくなってからも本当に親しかった人とはいまだに連絡を取っていて、その大半の人にはもう自分が結婚することと子供ができたことを報告してあって、もちろん「兄ちゃん」にも連絡はした。
しかしそれきり連絡が取れなくなってしまったんだ。
そんな彼から連絡があったのは実家を出る翌日のことだった。
《君の想い出にいさせてくれてありがとう。君の幸せを祈っているよ》
絵文字も何もないその文章をみて私はやっぱり「兄ちゃん」だな、とため息と同時に笑いがこみあげてきた。
「ねぇ、少しだけ昔話をしてもいいかな?」
新居へ向かう車の中、なぜいま「兄ちゃん」の話をしようと思ったのか、自分でもわからなかった。
私がそのゲームにハマっていたことは付き合う前から話していた。
それでも話の大半は友人のことで、どれだけ憧れているのか、どうしたら自分もあんなふうになれるのか、そんな話を一方的に熱く語っていたような気がする。
そこに一度だって「兄ちゃん」の名前を出さなかったのは、千草のことを異性として見ていたから、としか言いようがないだろう。
そのことを最初に伝えて私は「兄ちゃん」との出会いとこれまでの「兄ちゃん」の存在を彼に打ち明けた。
言葉を選びながら話し終えるとまず彼は笑顔で「話してくれてありがとう」と笑顔を浮かべた。
そして次に私の頭を撫でながら言うんだ。
「ちゃんと顔見て直接ありがとうって言わないと、ずっと後悔するんじゃないの?」
お互いに無口で感情を表に出すこともしなかった千草と私。
お互いに歩み寄ることを知らなくて『何考えてるのかわからない』とすれ違ってばかりだった数年前に比べたら、もう隠し事も簡単にはできないくらいお互いの性格や癖を知ってきた。
だからこそ、あの頃と違って『兄ちゃん』のことを話せたんだろうな、と彼の笑顔を見て思う。
「ありがとう」
「一つだけ約束ね」
「ん?」
「ちゃんと俺のところに帰ってくること」
「当たり前でしょ」
笑いあいながら私たちは新居へと向かった。




