#4
「おかえりなさーい」
元気のいい声が私を迎えてくれる。
その声の主・マスターは少し驚いた表情を浮かべてからすぐにぱぁっと花が咲いたように再び笑顔を浮かべて「リーちゃんだ」と嬉しそうに、叫ぶように言った。
まともに自己紹介もしていないのに既にリーちゃんと呼ばれていることにたいして特に嫌悪感はなかった。
いや、むしろマスターのこういう人懐っこさというか子供っぽさというか、無邪気さはこのカフェの魅力の一つなのだろうとすら思う。
と、思ったものの、実際店内を見回しても特にお客さんは入っていなくて、静かだ。
そのうえあの二人の店員の姿もなくて急に不安が募った。
この人ひとりで回していけるのか?と
「あぁ、お客さんね、夕方からくることがほとんどなの。やっぱりみんなお仕事や学校があるでしょう?私はいまはわけあって無職だからこうしてお店を開くんだけどね」
ひとりって寂しいものだよねぇ、と笑うマスターに微笑みで返した。
「そういえばご注文は?」
「それじゃぁ、アイスミルクで」
こちらの思惑はバレバレだったようで「心配しなくても飲み物ぐらいちゃんと出せるよぉ」と拗ねたように頬を膨らます彼女に、ごめんなさい、と言いかけてその言葉を飲み込み「ただアイスミルクな気分だっただけですよ」と笑ってごまかす。
出されたアイスミルクを飲みながら私は病院へ行ったことを彼女に話した。
その話題になったとたんに彼女の笑顔が曇っていくのが目に見えて分かる。
そして今日どうしても聞きたかったことを彼女にぶつけた。
「水無月弥生さんでしたっけ?彼女とはどんな関係でだったんですか? 」
「んー、私の半身、みたいな?性格真逆でよくケンカばっかりしてたの。でも、いっつも一緒にいた。何をするにもいつも傍にはヤヨがいたの。 …… 今回の一連の事件の最初の犠牲者だったの」
詳しく話を聞いていると、どうやらその最初の事件にマスターも関係していたらしいことが分かった。
話を聞く限りだとこういうことだ。
事件が起きた日の夜、星が綺麗に見えていたらしく弥生さんとマスターはキラキラ星を口ずさんでいたらしい。
すると突然犯人が何かを叫びながら走ってきて、ナイフを振り回したのだという。
もちろん弥生さんとマスターは必死に逃げたのだが、マスターが足をひねらせてしまったらしくマスターを庇った弥生さんが心臓を一突き。こちらの世界では即死だったらしい。
「そのあとも次々と。 …… きっと、ううん。絶対に被害者はみんな怖い思いをしてきたはずなの。ただ歌を歌ってただけなのにって、どうしてって。怖くて怖くて仕方がなかったはず。 …… だから、私はもうそんな人を出したくはないって思ったの」
そう語る彼女は落ち着いていて、少し前まで持っていた『可愛らしい人』からがらりと一転とても大人びて見えるのはそれだけの意志と覚悟があるからなのだろう。




