#1
ゲートを抜けた後、自分がどうしたのかは全然覚えていない。
気付くと聞き慣れないアラームの音に叩き起こされ、まだ見慣れない天井が視界に入った。
「おはよ」
隣から聞こえてくるまだ眠たそうな声に「おはよう」と返して、私はとりあえず朝食の準備をした。
と言っても、味噌汁をあっためて魚を焼くだけだ。
その間に弁当箱に昨日弁当用にとよけておいたおかずを温め直して、彩りを考えて卵焼きとウインナーを、そしてあまり好きではないようだけどプチトマトをいれればそれなりにいい感じの弁当が出来上がった。
決して豪華ではないし、形も歪だがまぁ …… 大事なのは愛情でしょ。と自分に言い聞かせると、焼きあがった魚をお皿に乗せて、その隣にキャベツの千切りと目玉焼きを添えた。
そしてご飯とお味噌汁をそれぞれよそって納豆を出したら、完璧な朝ごはんの出来上がりだ。
いまいち節約というものができなくて、大丈夫かな、と不安にはなるが何事も勉強だろう。
私がご飯の準備をしている間に身支度を整えた千草が席に座り、私もまた席に着く。
「そういえば昨日遅くまで起きてたみたいだけど大丈夫?」
相変わらずかきこむようにご飯を食べる彼が私をじっと見ながらそんなことを言った。
表情を見れば怒ってるわけでもなく苛立ってるわけでもなさそうだが、話すべきことがあるなら話せ、と言っているような気がした。
実際、隠し事をしない、というのは私たちが一緒になるうえでの数少ない約束なのだ。
あの世界に行くことに特別やましい気持ちなんてないし、彼が寝てから行く理由は彼が起きているうちは彼と同じ時間を過ごしたいから。
それは夫婦だからとか、旦那だから、とかではなく、私の意志だった。
隠す必要性もないから私は昨日の出来事を簡潔に千草に話した。
千草は少しだけ難しそうな表情をして何かを考え込んでから「変な事件に巻き込まれないようにね?」と心配そうな表情を浮かべて席を立った。
「ごめん、そろそろ仕事に行かないと。何かあったらちゃんと俺にも話すこと。あまり深く首を突っ込んだらだめだからね」
彼の表情から私のことを本気で心配してくれていることはなんとなくわかる。
しかしそんな彼の反応に少し違和感を感じた。
なんというか、あまりにも心配しすぎな気がするんだ。
まるで一連の出来事に心当たりがあるような、何かを知っているような ……
「千草。 …… もしかして何か知って …… 」
もしかして何か知ってるの?
尋ねようとしたその言葉は彼の唇によって遮られてしまう。
「じゃぁ、行ってくるね」
否定も肯定もしないで逃げるように家を出る彼の背中を見て、あぁ、何かを知ってるんだな、と確信をした。
同時に寂しくもなる。
だって、私たちの間に隠し事はなしのはずでしょう?
そう言い続けてきたのは千草の方だったはずなのに。




