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両手いっぱいに花束を  作者: 優悠
月曜日~変わる世界
14/35

#5

 この世界の現状はこういうものだった。

 ある日突然、この世界は歌を奪われた。

 奪われた、という言い方が適しているのかわからないが、もっと簡潔に言えばこの世界である日突然『歌を歌うものは殺される』という事件が相次いでいるのだという。

 その事件をきっかけに、歌を徹底して歌わない者、そんなことには屈しないと歌い続ける者、そしてこの世界にこれ以上犠牲者を出したくないとこの世界の人々を守る者の三通りに分かれた。

 そしてその『この世界の人々を守る者』というのがいま目の前にいる人たちなのだそう。

 理解できたような、できないような……

 とりあえず啜ってみたホットミルクは冷めていて長い時間話を聞いていたのだと今更ながらに思う。

「そういえば、この世界で殺されるとどうなるの?」

 混乱していた頭の中もだいぶ整理されてきて浮かんだ疑問。

 その問いかけに彼女たちは一斉にうつむいてしまった。

「魂を、抜かれる」

 マスターは苦し気に呟くと、紙ナプキンにさらさらと何かを書きそれを私にくれた。

 そこには住所と部屋の番号が書いてあり、家からそこまでは電車で一時間もすれば行ける場所だった。

 何か重要な手掛かりになるかもしれない。

 私は礼を言いながらそれをポケットにいれた。

 まだわからないことはたくさんあった。

 聞きたいことも山ほどあるが、数年の間に何が起きていたのかをいちから聞こうとなるとあまりにも時間が足りない。

 それに一応今日も例の喫茶店へ行く約束はしているのだ。

 先ほどは開いていなかったが、恐らくもう普通に営業しているだろう。

 時間があるときでいい、と言っていたが、あまり待たせすぎるのもよくないと気になっていた。

「その話、今度改めて詳しく聞きたいんだけど、時間作れる?私、このあとちょっと約束があるの」

「じゃぁ、またメッセージ送っておくね」

 ルコはそう言って立ち上がると外まで見送ってくれた。

「事情はなんとなく呑み込めた。私も力になるから。また詳しく教えて」

 私が言うと、彼女はすごく寂しそうな表情を浮かべながら私をじっと見つめていた。

 しかし彼女はすぐにいつもの笑顔を浮かべて「また連絡するから」と手を振っていた。

 これ以上問いただしても時間が過ぎていくだけか。

 次会ったときにすべて聞きだせばいい。

 私は半ば自分に言い聞かせるようにして例の喫茶店へと向かった。


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