↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私のかわいそうな王子様  作者: 七瀬美織
第一章 初恋
9/32

第九話 竜騎士の契約




 私が寝込んだのは、隣国ゲンタリオスから宰相閣下が到着した当日だった。でも、最初から私は公式行事は不参加だから関係ない。翌日には、ベイルクス先生の診立て通り私は元気になった。


 王太子殿下は、病床の国王陛下の代理で、主賓をもてなす立場になる。だから、父上のお仕事内容は、団長と副団長の実質二人分になっていた。

 母上は、王族として参加する以外に、外交の根回しに忙殺されていた。実は、晩餐会や舞踏会まで差配していたらしい。王太子妃殿下が、体調不良を理由に自分の役割を全て母上に丸投げしたそうだ。


 私は、公式行事が終わるまで、自室に籠っていた。アレクシリスと一緒のお勉強もお休みだ。ゲンタリオス国の使者一行が城内に滞在しているので、移動の警備要員の近衛騎士団も、教師役の文官達も忙しいからだ。それでも毎日、両親は私に会いに来てくれた。




 お昼寝の枕元で、二人の微かな声がした。


「 …… サンドラ、先代の治世から、三親等以内の婚姻は国内法で禁止されているのですよね」

「ええ、父の代から、貴族法も合わせて正式に変わり、近親婚を禁止したわ。それまでは、親と兄弟姉妹以外でしたら婚姻可能たったから、上位貴族が血脈を重んじて近親婚を繰り返し、子供が産まれ難いのを重く受けての法改正よ」


 婚姻法の話? う、うん、眠気が …… 。


「ただ、 …… は知っているのでしょうか?」

「 …… この騒ぎが終わったら、確認してみましょう」

「シシィと話してみて、感じたのですが、どうやら …… は、本当の …… 。彼らの望み通りに、シシィが …… 可能でしょうから …… 。しかし、 …… あるとは思えませんし …… 」

「恋は、 …… 王家は、ある意味、 …… いるから …… 」

「 …… だとしても、マリーを不幸にするなら、私は許すつもりは無いよ」


 うん? 私?!


「グレイル。シシィはシリスティアリスの息子なのよ。彼が真に望むなら、私は反対しないわ」

「君は、そうだね。うん、わかっているよ。しかし、私はマリーの父親だ。当然、反対するよ。マリーは、誰にもやらない!」

「あら、妬けちゃうわ。グレイルは、私の事なんてマリーの次なのね?」

「サンドラ …… 」


 う~ん。半分以上話の内容が分からなかった。昼寝中の娘の枕元でイチャつかないで下さい。




 隣国の宰相閣下の滞在は六日間。隣国からの外交案件は実務的で多岐に渡りっていた。隣国の宰相閣下は、なかなかの手腕を発揮しているらしい。

 一日目は歓迎式典。二日目から四日目の昼間は、会談で案件を協議して、夜は上位貴族と順番に晩餐会を、五日目は王宮で舞踏会を行う。そして、六日目に帰国する予定だ。


 お昼寝の時間、またしてもパッチリ目覚めてしまった。テラスの窓のカーテンをめくり、そっと中庭を眺めた。『妖精の庭』の水先案内、蝶の群れはもう何日も現れていない。

 ああ、シドにもらった妖精について書かれた本が読みたかったのに …… 。




 そして、事件は舞踏会の直前に起きた。




 私が、事件を知ったのは、舞踏会の翌日のお昼だった。父上が、私を自室まで迎えに来た。


「マリー、落ち着いて聴いて下さいね」

「はい。父上」


 父上は、母上と私に丁寧な口調で話すクセがある。ちょっと、他人行儀に聞こえるけど、家族仲は問題ないよ。

 ファルザルク王国は、封建的で貴族は階級に厳しい。父上は、優秀な近衛騎士だけど子爵家の次男では王女の配偶者として相応しくないと、上位貴族に猛反対された。

 結婚する為に、両親は様々な条件を上位貴族から突きつけられた。父上は、王族には数えられず、爵位も騎士爵のみ、結婚して三年以内に子供をもうけなければ離婚する事とか、胸くそが悪くなる内容ばかりだった。


 こんな理不尽な要求を受け入れて、二人は結婚した。現在のファルザルク王家に、上位貴族を抑え込む力が無かったせいだ。


 今でも、父上を引きずり下ろして、王女の配偶者を狙う貴族達がいる。だから、父上は、隙を与えない為に、家族だけになってもあまり口調を変えたりしない。父上は、本当に誠実で真面目な人なのだ。

 だけど、母上の事は、サンドラ、私は、マリー、アレクシリスを、シシィと愛称で呼ぶのは、家族の約束だからだ。この件で、文句を言ってきた貴族は、氷の王女を敵にまわす事になる。


 何があったのだろう? 人払いをして、エルシアと、護衛騎士の親子も同席しているけど、みんな険しい顔をしている。


「昨夜の舞踏会が行われる前、王太子殿下にシシィが呼び出されました。その場には、ゲンタリオスの宰相閣下も同席されていた。王太子殿下は、その場でシシィとゲンタリオス国の第一王女殿下との婚約を、舞踏会で正式に発表すると仰せになった」

「そんな! 陛下や母上が、お許しになったのですか?!」

「いいえ、王太子殿下の独断です。しかし、舞踏会で発表されていれば、取り消すのは難しかったでしょうね」

「では、婚約発表はされなかったのですか?」

「ええ、婚約発表はされませんでした。ここからが本題です。落ち着いて聴いて下さいね」

「はい」

「側にいた護衛騎士の証言では、シシィは、自分は国を出る事は出来ないと、王太子殿下に申し上げたそうです。シシィは、将来必ず騎士に相応しい大人になって、竜族の若者、杜若《かきつばた》と正式な『竜騎士の契約』を交わす事を、『精霊誓約』した。だから、竜騎士になる自分は、国外に出ることも、ゲンタリオスの王女殿下と結婚することも出来ないと宣言したそうです」


 ええっと、何だか物凄く大変な事になってない? 『竜騎士の契約』とか、『精霊誓約』って何?!


「『竜騎士の契約』については、リンジャー先生に少し教えていただきました。でも、成人していない子供が、竜族と契約するのは不可能なのですよね」


 父上は、ゆっくり頷いてため息を吐いた。


「原則『竜騎士の契約』は、成人した竜族と、十八歳以上の成人としか契約出来ません。しかし、竜族の承認があれば例外はあります。今回の場合は、二人とも未成年ですし、竜族の承認もありません。『精霊誓約』で強引に『竜騎士の契約』をほぼ成立させてしまいました。マリーは知らないでしょうね。『精霊誓約』は、『誓約の精霊』に魔力を捧げて誓う魔法契約の事です」

「もし『精霊誓約』を破ったら、シィ様はどうなるのでしょうか?」

「『精霊誓約』を破れば罰が下ります。『誓約の精霊』は、この誓約を成立させる為に、二人に互いの命を賭けるように条件を出したそうです。もし、どちらか片方が誓いを破れば、二人とも死んでしまう誓いを …… 」

「どうして? シィ様は、そうまでして『竜騎士の契約』を?!」

「それは、シシィに直接聞いてみないとわからないでしょうね」

「シィ様は、どうしていますか?」

「それを聞いた、王太子殿下が、怒りに任せて …… シシィを平手で殴ったそうです。シシィは、殴られたはずみで頭を打ったらしく、まだ意識が戻りません」


 目の前が、一瞬真っ暗になった。次に、強烈な怒りで頭が沸騰した。


「 ………… 王太子殿下は、何処に?」

「マ、マリー? それを知ってどうするのですか?」

「決まっています! 奴を殴りに行くの!!」


 私は、叫んですぐに立ち上がり、扉に向かおうとした。


「わあ! 昨夜のサンドラの再現だ。さすが、母娘ですね。反応が同じだ …… !」


 父上が、すぐに私を捕まえた。手足をバタバタさせて暴れても離してくれない。


「父上!」

「うん、落ち着いてマリー」


 父上は、私を膝に抱いて私をなだめる。あの馬鹿王太子殿下は、私の大切な(、、、、、)アレクシリスに酷い仕打ちをした! 許せない! 涙がぼろぼろ零れてきた。エルシアが、そっと顔を拭いてくれる。


「父上、シィ様はどこですか?」

「シシィは、自室です。医師の治癒魔法の手当てを受けて怪我は完治しています。ただ、頭を打ったので意識が戻るまで油断は出来ないそうです。頭の中の怪我は、治療魔法が効きにくいので心配です」

「 …… やっぱり、殴りに行きます!!」


 私は、父上の拘束から抜け出そうと、再びジタバタ大暴れした。結果、体力と気力が尽きてしまい、だんだん冷静になってくる。

 父上は、暴れる私を抱きしめていても、ビクともしないし、何故か大変ご満悦な様子だ。エルシア達も、なんとも微笑ましそうな眼差しをしている。また、泣いてもいいかしら?!


「あ~、大丈夫です。マリーが行かなくても、もう王太子殿下は、サンドラにぶん殴られましたからね。舞踏会の後に、私の報告で事件を知ったサンドラは、私が止める間もなく …… あれは、見事だった! 女性の拳が、あんな凄い威力で、顔面に綺麗にきまったのを初めて見ました!」


 父上、そんな惚れ惚れした表情で、何言っちゃてるのですか? 回想しながら頬を染める父上は、何か嫌だ。とにかく嫌だ。変態さんみたいで嫌だ。

  でも、私も母上のパンチ! & 王太子の顔面にヒット!! 見たかったな。


「だったら、私は、シィ様の所に行きます!」

「その前に、マリー達には現状と、今から起こる事を把握《はあく》しておいて欲しいのです」


 父上は、ゆっくりと私とエルシア達の顔を見まわした。ロベルトとイトラスが、何かを察して緊張した面持ちをしている。


「現在、王太子殿下とサンドラは、極秘で昨夜から自室で謹慎中です」

「えっ! 母上がですか?」

「マリー、心配いりません。処分としては、軽いものです。先ほど、様子を見てきました。サンドラは、ふて寝していましたけどね。普段から、少々働き過ぎなので、良い休みになるでしょう」


 そうか、良かった。では、執務室の文官の皆様、母上がいなくても頑張ってね!


「これは、国王陛下が、一連の状況をお知りになって命じられた処分です。『アレクトレス王太子は、アレクシリス第二王子を平手打ちにした。子供に容赦なく、吹っ飛ぶほどの力で殴った』など、外聞が悪過ぎます。陛下は、箝口令(かんこうれい) …… 事件について、誰も何も話すなという事を命じられました。幸い、貴族達にまだ話は広まっていません。まあ、マリーやここにいる者は身内枠で例外にしておきましょう」


 父上は、ニヤッと笑ってウインクした。つまり、ばれなきゃいいのだよね。信頼できる身内と、この部屋には結界があるから大丈夫。大丈夫と言えば …… 。


「お祖父様のお身体の具合は、大丈夫なのですか?」


 お祖父様は、シリスティアリス王妃様が亡くなってから、体調を崩されていた。

 そして、冬の終わりに流行り病を悪化させてしまい、長く患《わずら》っている。治癒魔法もあまり効果がないらしい。魔法も完璧じゃないのだ。お祖父様は、まだお若いのだから、早くお元気になって欲しい。お祖父様の病は、子供や老人を中心に流行《はや》ったものだった。私は用心のため、お見舞いに行かせてもらえない。


「国王陛下の病状は、良くもないが、悪くもないそうです。まだ、寝室をお出になるようなご無理は出来きません。昨夜、二人の謹慎をお命じになられたのは、サンドラが王太子殿下を殴った直後に、宰相からの報告をお聞きになったからなのです。深夜に病人を起こして、わざわざ何を …… 」


 父上は、珍しく表情を歪めて苦々(にがにが)しく呟いた。


 我が国の宰相は、小心者の俗物で、何かにつけて文句と嫌味しか言わないと、文官達にも大不評な人物だ。貴族達にも、侯爵家の財力で宰相の地位を買ったと、陰口を叩かれている。ちなみに、私は一度も会ったことがない。


「宰相は、王太子殿下派の筆頭です。王太子殿下を殴ったサンドラを、罰してもらおうとでも考えて、陛下に報告したのでしょう。しかし、陛下は喧嘩両成敗だとお考えになったのです」


 王族は、兄弟喧嘩ですら事件になる。


「ゲンタリオス国の宰相閣下、ウィルヘルム=キラカ=オセレニア侯爵が帰国前に、色々と教えて下さいました」

「宰相閣下がですか?」

「ウィルヘルムは、私の教え子なのです。私は、留学中の彼の剣術を指導していました。そして、王太子殿下の親友と言えるほどの仲です。彼は、王太子殿下がシシィを殴った理由は、シシィの言葉が、殿下の逆鱗に触れた為だと言うのです」

「シィ様は、何を言ったのですか?」

「一言一句、同じではありませんが、『マリーとずっと一緒にいたいから、竜騎士になった。マリーと結婚できるかどうかは、まだわからない。可能性がないわけではないと、貴方はよくご存知のはずだ …… 』ウィルヘルムが言うには、いずれは自分が王になればと、言ったも同然だったそうです」

「えっ?! そうなるのですか?!」

「シシィに自覚は無いでしょうが、そういう捉《とら》え方も出来ますね」


 父上は、とても厳しい顔をしている。確かに、アレクシリスは、王太子殿下の勧める縁談を断る為に、国法で定められた、竜騎士の立場を利用したのだろう。竜騎士は、国外を出る事も国外で結婚する事も禁じられている。

 正式な後ろ楯の弱いアレクシリスが、子供の力で出来る精一杯の抵抗だったのだろう。


「シィ様は、国法で私と結婚出来ない事を、知っているのでしょうか?」

「シシィは、誓約の対価に、己の命を賭けるほどの覚悟をしました。国法を知っていて、マリーと将来結婚する為だとすれば、それを実現出来るのは、国法を変える立場にある国王のみです。つまり、王位を望んでいるということです」

「そんな …… 」

「真相は、シシィから聞かなければ分かりません」


 私は、あの小さな王子様が、そんな決意をしたとは、とても思えなかった。竜騎士の契約までは理解できるけど、私と結婚する為に王位を望む決意をするには、私達はまだ幼すぎる。


「ウィルヘルムには、一連の事件を自国に報告する義務があるでしょうが、シシィの発言とサンドラの暴行の口止めは出来ました。縁談についても、ゲンタリオスにすれば、もし可能ならば儲けもの程度に考えていたのですから、破談になってもあまり問題ないでしょう」

「では、破談になった事は、外交問題にならないのですね?」

「まあ、ゲンタリオス国は、隣国の中でも小国で、歴史的にも過去に戦争をしたことがない友好国ですから、多少の貸しでどうにでもなります。なあに、ウィルヘルムの留学中に、弱みの一つや二つぐらい握っていますから何の心配もいりません」


 父上の笑みが、闇よりも深くなった。真の魔王様は、ここにいた!


「我々も、認識が甘かったのです。王太子殿下とサンドラが潰しあって、シシィを担ごうとする派閥の存在を見逃していました。信頼していたシシィの従者すら、実家の意向で、シシィを子供のうちから操ろうと、色々画策していたようです。シシィの行動は、もしかしたら、誘導されたものかもしれません」

「そんな者が、シィ様の側にいるのですか?!」


 だとしたら、そんな奴ら許せない! 父上は、再び怒りに火の付いた私をなだめる様に、最高に黒い笑顔で語りかけてくる。


「そこで、シシィの周辺の使用人達を改めて洗浄しようと思います。なるべく、手早く済ませるつもりですが、一時的に、シシィの世話をする者がいなくなるのが難点です。そこで、人員を埋めるために、シシィのお見舞いに行ったマリーが、心配で帰らないという形でシシィの部屋に留まって下さい。従者や侍女、使用人、勿論ですが護衛騎士も、不審がなければすぐに戻していきます。二日間程で済ませる予定ですから、お願いできますか?」


 父上、黒いオーラが素敵過ぎて、背後で死神が鎌を持っている幻影が見えますよ。


「はい。父上」

 


 

お読みいただき、ありがとうございます。


父上、グレイルードは、母上、アレクサンドリアより十歳年上です。

王太子アレクトレスと妹のアレクサンドリアは二歳違います。

隣国の宰相、ウィルヘルムは、王太子の一歳上です。

留学中の十五歳のウィルヘルムの剣術指導を、二十二歳の天才騎士グレイルードが務めていた設定です。

計算、合ってるかな …… ?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。