第三話 二人の従者
春、僕は五歳になった。
僕の側近候補は、三十歳のガルフーザと十二歳になるフレデリク。
去年、僕の母上が亡くなった翌日から、二人は従者として僕に仕えている。
二人は元々『王子宮』に移るために僕の従者になると決まっていた。母上が亡くなり、急だったが、僕と一緒に二人は暮らしている。
ガルフーザ=バリン=トラフィニオ。
僕の母方の祖父、ギルグレイブス=イルク=ハイルランデル公爵が選んだ、将来の侍従長だ。僕が大人になれば、正式に就任する。
ガルフーザは、キラーシュミット侯爵の末弟だ。侯爵の所有していた、トラフィニオ伯爵の爵位を受けついだ。
しかし、あまり評判の良くない兄と、仲が悪いらしく、領地を持たされなかったときいている。
領地を持たない貴族は、王宮に出仕して生活してる者が多くいる。その中で、ガルフーザはとても優秀で、大臣の補佐官をしていたそうだ。
ガルフーザは、灰褐色の髪と青い瞳、とても神経質そうな顔をしている。胃痛持ちでやせて暗い感じの男だ。とても几帳面で、使用人達を動かし、僕の身の回りの世話を完璧にこなしている。
「アレクシリス殿下は、由緒正しいファルザルク王国の真の後継者であらせられる」
ガルフーザは、何かにつけてそう言った。
僕の父上は、ファルザルク王国の国王で、アレクサンドロス陛下。僕の母上は、ハイルランデル公爵の一人娘だった。母上は、後妻だが正妃だった。
三人いる王の子供達の中で、母上の身分と血統は、僕が一番後継者にふさわしいと言う。僕の年の離れた異母兄上と異母姉上は、他国の王族の血が流れているのでふさわしくないのだそうだ。
僕は、その話をする時のガルフーザがきらいだった。
フレデリク=アゼル=ウインズワース。
ウインズワース侯爵家の次男で、異母姉上が選んだ、僕の将来の側近候補だ。
おさない王族に、同年代の遊び相手は不要だ。王族は、貴族のお手本でもある。だから、幼なじみは、共に成長するためにあるのだ。しかし、フレデリクは、僕より七歳年上だけど、あまりお手本にはしたくない幼なじみだ。
今年の秋から、 フレデリクは学園に通いながら僕の従者を続けるという。大変だから、従者の仕事を減らして、実家に帰ってもいいと伝えた。
すると、フレデリクはおおげさな泣きまねの演技をしながら、僕にすがりついてきた。
「私は、侯爵家当主クラウベルド=ハウル=ウインズワースの決定に逆らえません。私は、本宅でクラウベルド異母兄上に、平民出身の母と妹の面倒をみていただいるのです。行き遅れと出戻りの異母姉達から、身分が低くて下賤の血筋と虐げられる、母と妹を守る為にも、異母兄の命令には絶対服従でなければなりません。どうか殿下、私を追い返さないで下さいませ! ね! ね!」
フレデリクのために、よかれと思った僕の考えが、浅かったという事はわかった。
だからといって、五歳の子供に明からさまな家庭の事情を語らなくてもいいと思った。フレデリクは、少々あざと過ぎないだろうか?
しかも、僕の従者をしているのも、異母兄の命令だからなど、知りたくない情報までバラしている。きっと、わざと話しているのだろう。
フレデリクは、明るい茶色の髪と瞳で、甘い優しい顔立ちをしている。だが、実年齢よりも成長が早く、しっかりとした身体で、侍女達にも人気があった。
「私は、凡人ですから。色々と努力しないといけないのですよ」
そう言って、年上の騎士見習いにまじって、近衛騎士団の訓練を受けている。
近衛騎士団長の、グレイルード義兄上が許可したのも、大人達の訓練についていけているのも、本当にすごいと思う。本人は、体を動かすのが好きなだけだと言っていた。
近衛騎士団の訓練は、いざという時に僕の盾くらいになりたいからだと言う。
でも、いざという時に僕を置いて、全力で逃げ出すフレデリクなら想像できた。僕は、フレデリクの言葉を、どうも信用しきれないのだ。
でも、僕はそんなフレデリクをとても気に入っている。
お読みいただき、ありがとうございます。




