傷痕 2 前編
リクエストの書こうと思ったら、そういえばリクエスト放置のあったわ、と、先にこちらやってからにしよう、と書きました。
もう電車降りるので、ここで終わりにします。
後編は家に帰ってから、書きます。
私は自分でも性格は良くないんじゃないかと、それなりには、嫌だけど、しぶしぶだけど、きちんと自覚している。
周囲の人間は私を人を人とも思わぬ鬼畜女王様と認識しているようだが、それのどこが悪いのか私にはさっぱりわからない。
本当にきちんとやって、それでもできなかったなら、私は態度に出さない、何も言わない。
だけど物事というのは、ある程度何をしていたのか雰囲気でもわかるし、疑問に思ったら、さりげなく相手にわからない程度にどういう動きをしているのか観察していると、どこまできちんとやろうとしていたのかはわかる。
よく私に切り捨てられた人間が「あなたみたいな人に私みたいな平凡な人間の苦しみなんてわからない」と逆ギレされるが,チッチッチッ!と私は指を横に振りわざとらしく言ってやりたい。
個人の能力の差をはるかに越えるような、そんなむちゃぶりは私は要求していないと。
出来る事を出来る範囲でしてくれ、ただそれだけのシンブルなお願いだ。
ところが彼ら、彼女らには、ぽっと出の庶民に毛が生えた程度の出自の嫁の希望は片手間ですまそうとする悪い癖がある。
で、私はこうして斎宮寺の屋敷の中で自分の仕事部屋にと頂いたこの部屋の掃除を黙々と現在も自分一人でやっているわけだ。
うん、私のお付きなんて今やいやしないさ、みんな私が追い出していなくなったからね。
執事長の安西さんとメイド頭の林さん、あとの数人くらいしか私は認めていないんだな、その仕事ぶリを,これが。
当然そんな彼らはこの屋敷の核となる人達ばかりで、こんな嫁には関わっている暇はない。
で、私はこうして自分の事は自分でしてる。
産まれた息子の遥は、数え3歳にして既に後継ぎ教育が始まっていて、私の手を離れてしまった。
「子育ては親育て」とはよく言ったもので、自分の手を早くから離れたせいか、私の中では自分の子どもだと言う実感があまりない。
初めは抵抗し、私が教育しようとしたんだけれど、悲しいかな、私には息を吸うように簡単に社交の場を流れゆく、あの独特の上流社会の阿吽を教えてあげる事ができない。
もしそのせいで息子の遥が軽く見られる事があったなら、私は私を殺したいくらいに許せないからその手をはなした。
だから、私は息子を斎宮寺の手によろしくお願いしますと預けた。
私は妹の美代子と元恋人で婚約者でもあった修司のあの胸糞悪い浮気騒動の後に、まさかの斎宮寺と結婚した時に覚悟はしたつもりだ。
このしち面倒くさい家に嫁となって入った事で生じるいろいろな揉めごとや周囲とのバトルさえ楽しいとさえ思って今までやってきた。
この早くからの子離れもその一貫として、私はその先を見つめ納得した。
息子を主に預ける事になる夫である蓮の両親は、強く、自立している女は嫌いならしく笑えるくらいに私には関わって来ない。
まあ、義父の愛人騒動での諸々を知ってる嫁には関わりたくないのもあるだろうな、とも思うけど。
私ならゴメンだ,何?その羞恥プレイ!だ。
執事長の安西さんなど、はるか平安の世から仕えているような人間がごろごろしてるこの屋敷で、私はそれなりにやってきていたと思う。
蓮が馬鹿みたいに反対するのでモデルの仕事はやめて、もう一つのやりたかった仕事、株の個人投資をしている。
モデルをやめる慰謝料で元手はがっぽり蓮から頂いた。
もちろん自分の個人資産はきっちり確保したままでだ、当たり前。
自分で言うのも何だけど、夫の蓮にまけず劣らず稼いでいる。
相変わらずの負けず嫌いのライバルの私達だ。
そんな私は昔から理由なく人に笑われる事が絶対に許せない。
一度失敗すれば二度目はないようにそれを学び、理解し、更にその知識を伸ばし、それが原因でぶざまな思いをもう二度としないように生きてきたつもりだ。
それでもどうにもならない事だって多々ある。
そういう時はせめて自分の得意分野を更に伸ばしていって自分を慰め甘やかしてあげてきた。
だから「家」の付き合いの多い今は、誰それの家の家系図を頭に叩きこむのは当たり前だし、その家の情報もリアルに頭に入れて、狸の化かし合いの社交の場も成り上がり嫁としては綺麗にさばいてきたつもりだ。
これに関してはあの安西執事長の合格点を早々に頂いている。
ただし、やはり最上級の名家の中には、私みたいな小娘ではまだまだ太刀打ちできない化け物じみたおば様方がままいる。
その内のお一人である宮内財閥の聡子様は、御年60歳を越えているようには見えない、その艶やかな姿で上品に微笑みつつ、その取り巻き方を引き連れて、この上流階級のアサシンとしてトップに名を馳せている。
彼女の不興をかった人間は気がつかない内に、ゆっくり確実に上流階級社会の付き合いの場からはじき出されていく。
気がついた時にはジ・エンドだ。
私?私はおもねるくらいなら戦う。
私は負けて退場なら大声で笑って出て行ってやる。
そんな聡子様とはそれなりに戦わせて頂いている。
なかなか優雅かつ意味深で、引き際をわきまえた言葉のやりとりをやらせて頂いている。
いや,やらせて頂いていた,が今は正しいか。
なぜならある馬鹿な原因でそのやりとりでなかなか遊べなくなってしまったから。
ほらほら、退屈なおべっか使いを綺麗にかわし、獲物を見つけたとばかりに私の元にやってきた。
この国でもトップクラスの聡子様のグループの方々とはいろいろな社交の場で会うたび、こうして静かで優雅な、こんちきしょうなバトルをさせて頂いてきたものの、ここの所その話題のどうしようもないバカさ加減でさりげない嫌みの応酬さえ気持ちよくできやしない。
放り込まれてくる話しが単純すぎて。
彼女とは私と同じ匂いを感じているからこうして会って話すのは嫌いじゃないからいいけど。
何でわかって放り込むのか、わかってはいるが、まだまだ青い感情をお持ちになっているのを誉めればいいのか。
それともそれなりに私を心配してくれているのを感謝すればいいのか。
お互い表だって認めはしないが、バトルを通じて交流の域に達してると思う。
私は毎回、頭の中で、この穏やかな会話として行われてきたバトルに点数をつけていた。
ここ最近はいい所まで持ってきたけど、この現状ではそろそろ頃合いかもしれない。
聡子様から先に声をかけてくれた。
「あらあら、周子さん、いらしておいでならお声をかけて下さればいいのに。最近つまらないパーティーばかりで、あなたにお会いできて嬉しいわ。ご機嫌はいかがかしら?」
「ありがとうございます。皆様を差し置いて私の方からは、とご遠慮させて頂いておりました。聡子様からわざわざお声をかけてくださり光栄にございます」
それから当たり障りのないやりとりを幾つかして、ほら来た!最近のつまらない原因が。
「ねえ、周子さん。この間ティータイムに、グランドホテルのショコラ、話題になったあれをね、お友達の皆様といって楽しんでまいりましたの」
「そこでね、斎宮寺の皆様と偶然お会いしましたのよ。あぁ、確か周子さんはいらしてなかったかしら?ね、政子さん」
そう言って取り巻きの稲葉電鉄の社長夫人である政子様に何気なく話しをふる。
相手の嫌がる話しは自分では決してせず、こうしてさりげなく取り巻きに話しをさせる。
自分は知りません、てやつね、王道だ。
えぐい技を使うなぁ。
私もこの技はいただこうと思ってるのは内緒だ。
そうして話しをふられて、喜々としながらもそれを相手には悟らせず、政子様は上品に話し出した。
「ええ、確か先週の木曜日でしたわ。斎宮寺の総帥である晃洋様と奥様の静様、それと蓮様がいらしてましたわ、ねぇ皆様」
そう言いながら頷きあう取り巻きその他と視線を交わし、ゆったりと私を見た。
「そうそう、最近よく蓮様と一緒におられるのをお見かけする可愛いお嬢さんもおりましたわね、どちらのお嬢様だったかしら?」
はい、来た~!
まったくこの数カ月,社交界の話題は我が夫である蓮のまさかの浮気騒動だ。
知らぬは噂される彼らばかりだ、本当に馬鹿としか言いようがない。
私も初めはくだらぬ噂と気にもしていなかったが、私も一度それを見てしまった。
執事長の安西さんと、メイド頭の林さんというそうそうたるメンバーに挟まれ、車に乗っている時に、たまたま夫の蓮と噂の彼女がデパートの中から出てくるのを見つけてしまった。
それも蓮の腕に腕をからめて歩いていくのを。
しかし、その時は一緒について来ていた執事長の安西共々、綺麗にスルーさせて頂いたか。
私はそれどこじゃなかったので。
で、私はそれ以来隠れて行動に出た。
調査会社を数社雇い、諸々の準備に着手した。
で、今回のこれで聡子様とのバトルは負け越し決定で終了だなぁと感慨深く思った。
もう少し最後ぐらいまともなバトルがしたかったが、仕方ない、何事にもままならぬ終わりはくる。
浮気相手と噂されている子は帰国子女の現役女子大生で、義父の知り合いの娘さんで、どこから見ても生粋のゆるふわお嬢様だ。
まるで砂糖菓子みたいな可愛い子。
義理の両親も一緒だったと言われては、私はいつもはこの話題の時でもちょこっとは反撃していたんだけど、義理の両親とはいえ、御当主もいたのでは、その係累たる私はただ笑っているしかない。
私の中では聡子様とのバトルの負け越しが一番悔しい、ひどく悔しい。
浮気騒動より悔しい。
蓮は元々あの手のタイプに弱い。
何で妹の美代子の事で、蓮の好きなタイプは私と真逆だとわかっていたのに、あの時ああなっちゃったかなぁと、ついため息をつきたくなった。
もちろん私だって鬼じゃない。
いつの間にかちゃんと蓮は私の愛する人となっていた。
私はこのバトルも最後と思い、嫌いじゃなかった彼女に現役モデル時代以来していなかった最上の笑みを彼女に向けた。
だってお金の出ない最上の微笑なんて無駄だったからね、封印してた。
この微笑は私が中学生からあがいて身につけた私そのもの。
私の魂の形までも見せつけるとっておきのもの。
その私の最上級の微笑を勝利者である彼女に賞賛とともに送った。
同じ女性では私がかなわなかった初めての人。
瞬間彼女らは、意識せずに息をとめた。
おし!プラス10点、ここは私の勝ちだ、やったね!。
だがトータルで負け越しは負け越しだ。
私は何かいいたそうな雰囲気になった聡子様とそこで失礼にならないように気をつけて別れた。
すぐに顔出しすべき人に全て挨拶にまわり、そこの会場ですべき事をすべてしてそのホテルから出た。
今ごろ蓮のところには弁護士達が向かっている。
あの蓮と彼女の2人でいる証拠写真も何枚もあり雰囲気的にはバッチリだし、なんと義理の両親も共にいるビデオまで揃っているらしい。
よきかな、よきかな。
息子の遥はパーティーに連れていくといって連れ出し、現在は私の学生時代からの取り巻き連中が大事にかくまってくれている。
私の取り巻き連中だってそれなりの奴らばかりだ。
斎宮寺と万が一戦うとしても、非は向こうにあるし、取り巻き連中が束にかかれば勝てる力はある。
ん?自分ではやらない。
ここは本当に情けないけど、屋敷でも蓮に会って冷静でいられる自信がないから、仕事の修羅場にかこつけて、蓮と彼女を見かけたひと月前からなるべく会ってない。
蓮は気がつかないみたいだけど。
笑える、あれだけ独占欲剥き出しで執着していたくせに。
まあ、何はともあれ遥もいるし短期決戦をのぞむからね、私は。
息子の遥は蓮と離れる決意をしたから、私の手で育てられる。
季節の折々いろんな所に出かけよう。
その時、その場所、その年齢でしか出来ない事を楽しもう。
もちろん取り巻き共の作り方も教えてあげなきゃ。
取り巻き連中を結婚してからは有効に使えなかった分、ばっちり使って遊んでもらおう。
もちろん私が単独で社交の場に出た時にはそれなりに会ってはいたけど、今回の件で彼らは私達母子に公に関われて幸せなんだそうだ。
美しいバトルは好きだし自分を美しくする。
けれど醜いバトルはしない。
お肌の曲がり角を過ぎたらしちゃいけないよね。
蓮とはもう会わない。
私は息子の元に向かいながら、取り巻きのひとりで自身も弁護士であリ、実家が有数の弁護士事務所を経営する宗方女子からの電話を受けた。
蓮は浮気を認めず義理の両親もそんなつもりなどなく、社交界に蔓延している噂を聞いてぼう然としているそうだ。
私は宗方女子に後で詳しく報告するよう言い、同時にすぐさま家裁でする事になる離婚調停の申し立ての準備もお願いした。
事実があったかどうかではない。
私が許せるか許せないかなだけだ。
物事はシンプルがいい、全てが人が生きるのに複雑すぎるのだから。
仕事の基盤は海外に徐々に移した。
蓮の実力はあなどらない。
面倒が続くようなら海外移住もありだ。
待ってろ!世界よ。
私はまた綺麗にはばたくつもりだ。
どこか心の奥がチリチリ痛いのは仕方がない。
私は一度裏切られた。
妹たち2人にはそのつもりがなくても。
2人はいまだに立ち直れていないときくが私は何も感じない。
私の中では他人以下だ。
いつか蓮の事もそうさせてみせる。
蓮が彼女相手に何を思ってきたのかは関係ないし知りたくもない。
自分で選んでしてきた事だ、この段階になって何を騒ぐのか理解できない。
何はともあれ私は男については勉強するべきだ。
対等というのはいろいろいけない、それだけはわかった。
対等であるなら、心が持っていかれてしまう。
もし寂しくなったら可愛いい下僕をたくさん作ろうか?
これからするべき事を一つ一つ見据えながら私は息子の元に戻った。
可愛い遥を抱き上げ、ぶんぶんと振り回す。
これ私がまだ持ち上げられる内にやりたかったんだよね。
さあ、楽しい時間の始まりだ。