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そうだ。アイリーンやマリーンに会いに行こう

 元気な姿をアイリーンやマリーンに見せようと、私は一族の棟に行くことにした。

 と言うことで、私が来たのは一族の棟に運び込む物を置いておく貯蔵庫。ここまではこの館に出入りする商人が運んできてくれる。

 貯蔵庫にはチーズの塊や飲み物の瓶、それに布や裁縫道具、蝋燭や石鹸などの日常道具が所狭しと置かれていた。

 いくつも置かれている大きな麻袋の一つに腰掛けて、私は荷物を運び込みに来る一族の男性を待つ。どうやらじゃが芋の袋だったらしく、お尻の下がごつごつしていて痛い。

 じゃが芋は皮を抜いて食べるものだし、これでいいか。

 お尻は痛いけどね。


 この一族の棟に荷物を運ぶ役目をしているのは、私やアイリーンやマリーンの父親ぐらいの歳の者たちだ。アイリーンやマリーンと会う約束をしている時に迎えに来てくれるのも、彼女たちの父親たちだし。


 一族の男性は学校を卒業する年齢になると、この館から出て外で暮らすようになる。それから二十代半ばぐらいになるとまたこの館に戻ってくる。

 兄も一族の男性のように学校を卒業したらこの館から出て行くのだろうか?

 オスカーは本家の人間だ。他の一族の男性とは違うかもしれないけど、同じだとしたらオスカーは戻ってこないと思う。


 ゲームでは私が学校に通っている間、オスカーがどこに住んでいたのか描かれていないからわからない。

 ただ、ゲームと違ってオスカーは私に無関心だから、父が亡くなって、家を継ぐまでは戻って来ないだろう。


 家族に空気扱いされて生きていくなんて、そんなことは許さない。だって、こうして生きているんだから、オスカーとの仲は改善しておきたい。


 両親は私が寝込んでいた間、カードを送ってくれていた。元々親しくないからどこまで心配してくれていたのかわからないし、カードに書かれているのが自筆かどうかもわからないけど、秘書に命じて書かせたにしても私のことは頭の片隅にあったんだろう。

 カードをくれなかったオスカーよりはマシだ。

 両親にすっかり忘れられていて、秘書が代わりに書いて送ってくれたものだとわかったら泣くことにしよう。


 いきなり扉が開き、光で何も見えなくなる。闇に慣れた目が眩む。

 この部屋も明かりは付けられるけど、黙ってここに入っていたから、そういうわけにもいかなかった。


「誰かそこにいるの・・・?」


 若い女性の声がする。使用人かな?

 真っ暗な部屋の中で何か動いたとか、物音がしたとか驚かせるのも悪いから、返事をすることにした。


「私よ。リーンネットよ」

「・・・お嬢様? お嬢様がどうしてここに?」


 そうしたら、当然、訊かれるよね。

 黙っておく理由もないし、言うか。


「一族の者が来るのを待っているの」

「あら。一族の棟に行くの?」

「ええ。見ない顔だけど、あなたは・・・?」


 一族の棟に行くのに一族の男性が必要だってことは知っているようだけど、彼女の顔に見覚えがない。薄暗くて顔がはっきり見えないからそう思うのかもしれない。

 それに私が知っているのは子ども部屋のあたりにいる使用人か、執事と家政婦くらい。だから見知った顔ではない使用人が貯蔵庫のあたりにいてもおかしくない。


「アンです。新しく館に上がったばかりで。ドアが開いてたからなんかあったと思って。すみません」

「驚かせて、ごめんなさい。ここにいれば一族の者が来るからっていて。お願い。誰にも言わないで。誰かに言ったら、私が一族の棟に遊びに行けなくなっちゃうわ」


 ここ、重要。

 私は貯蔵庫のある階下に一人で行くことを禁じられている。

 絶対に、誰かを連れていくこと! と何度も言われている。

 一人でここにいたって知られたら、怒られるに決まっているし、アイリーンやマリーンのところに気軽に行けないじゃない。

 ウォルトはこの館を好きなだけ歩き回れるのに、どうしてこの家の娘である私は駄目なの?

 ここだって、ウォルトに連れて来てもらうまで、こんな場所があることを知らなかったくらい私は自分の住んでいる館には詳しくない。

 でも、ウォルトが出入りできない一族の棟ならどこに行くのも許されている。

 中庭だってウォルトは出られないけど、私は出られるもんね。


「わかりました。今回だけ見逃します」

「ありがとう!」

「リーンネット?」


 アンが私の共犯者になってくれたことを喜んでいると、聞き覚えのある男性の声が私を呼ぶ。

 貯蔵庫の入り口、アンの後ろからなんとなく一族と一緒にいる時に感じる空気が漂っている。


「クラウス!」


 今からこの荷物を運ぶのはクラウスらしい。クラウスにはアイリーンやマリーンより大きな子どものいる一族の男性で、一族の棟に住んでいる。

 アイリーンやマリーンより小さな子どものいる一族の男性の中には仕事の都合上、数日、外出しているということもあるが、クラウスくらいの歳になると館の外に出ること自体が少なくなる。


「またこんなところに入り込んでいたのか。俺たちに用がある時は言付けろと言ったろう? その為の使用人なんだから、仕事を奪うんじゃない」


 その通りです。

 今まで貯蔵庫で待っていてもここまで言われなかったけど、一人でこんな暗い場所にいたらよくないよね。

 今度からは執事のジェニングスか家政婦のマギーにでも言うか。

 このせいで使用人が怒られたらいけないし。


「ごめんなさい、クラウス」

「ほら、お前もさっさと行くんだ。使用人はここには近寄ってはいけないはずだろう」


 クラウスはアンをここから追い払いたいようだ。

 それにしても、ここは使用人立ち入り禁止だったんだ。初めて知った。


「アンは入ったばかりなの。館を探検している間に誤って来ちゃっただけなのよ」


 共犯者になってくれようとしたアンをかばう。

 これで私たちは本当に共犯者。


「リーンネット。・・・わかった。ここには近付くんじゃないぞ、アン」

「はい。失礼します」


 クラウスのきつい口調にアンは慌ててお辞儀すると立ち去った。

 アン、大丈夫かな。

 あとで慰めに行かなきゃ。

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