ウォルトは私のことを妹だと勘違いしているようです
ついついウォルトに疑った目を向けてしまう私に、ウォルトは気遣って声をかけてくれる。
「大丈夫か、リーンネット?」
気遣ってくれるなら、運ぶ時とベッドに降ろしてくれる前にして欲しかった。
「・・・」
私はふるふると無言で首を横に振る。
正直に答えると問題があるから私は口を開かない。
「ほら、早くシーツの中に入って。・・・まったく、リーンネットはまだまだお子様だな」
ベットカバーごとシーツを捲り、ウォルトが寝そべるように促す。
いそいそと私はそれに従う。
ウォルトは捲っていたシーツとベットカバーを私に掛けてくれる。その手つきは丁寧だ。
何故かここでも気遣い・・・。
普通、あり得ないよね・・・。
この部屋は私の部屋で、このベッドは私のベッドなんだよ?!
わかってるの?!
ウォルトは私の兄でも親戚でもないんだよ?!
家族でもない、身内認定はされているかもしれないウォルトだけど、ゲームの中では私と婚約していたわけで、二人共まだ10歳だからこの状況でもいいのかな?
でも、あと数年後には淑女の寝室に家族以外の(使用人除く)男性が入ることは駄目なんだよ?
そんなことになったら、私のほうがふしだらだとか言われて嫁にいけなくなるんだから。――って、ゲーム通り学校を追放されたら、親戚と結婚するんだけどね。それまでに嫁にいかないといけない事態に陥ったら、どうなるんだろう?
その場合の相手はウォルトか、それ以外にこの家に出入りしているフレイくらいしか思いつかないんだけど、どちらにしろ攻略対象なのよね・・・。
ゲーム通りだとすれば、どちらとも結婚することもなく学校に通っていたから、そういった事態は回避できるのかな?
ゲームでは語られていなかったが、この国の結婚可能年齢は男女共に14歳。
そしてこれもゲームでは語られていなかったが、我がハルスタッド一族の女の子はその14歳で結婚するのが習慣だ。
ゲーム開始時のリーンネットの年齢は16歳。
リーンネットは一族の習慣で結婚しているはずの年齢なのに、婚約者はいても何故か未婚のまま学校に入学している。
この学校は貴族令息の高等教育の場所で、騎士や文官にふさわしい能力を身につけることを目的にしているので男子だけは14歳から入学できる。その代わり、女子は婿探しや社交の地固めとして在学を許可されているので16歳にならないと入学できない。
そもそも、婚約者のいるリーンネットは社交の地固めの為に入学したのだろう。結婚していても良かったかもしれないが、それでは悪役令嬢に仕立て上げようとして夫が出てきて難易度が上がるのは良くないというゲーム制作側の意図で婚約止まりだったのかもしれない。
でも、その相手がウォルトだというのが私には理解できない。
「・・・」
大人しく横になっていて、しばらく。
「ねぇ、ウォルト。そろそろ、お兄様のところに行ったほうがいいんじゃない?」
ウォルトがベッドの側にまだいる。
「何を言ってるんだ、リーンネット。お前が眠るまでここにいてやる」
「え?」
「さっきも無理をしていたからな。お前が大人しく寝ていると言っても信用できない。俺がちゃんと熟睡しているのを確認してやるから、気にせず寝ろ」
「いや、ちょっと、ウォルト?! あなたは私の兄弟じゃないのよ?!」
「それがどうかしたか?」
「だから、私の兄弟じゃないから、私の寝室にいるのはおかしいのよ。常識はずれなの。非常識なの」
「なに、気にするな」
「そこは気にするところでしょう!! 私たちもう、10歳なのよ?! 私は淑女の仲間入りをしているんだから、身内以外の男性と部屋で二人っきりになっちゃいけないの! それなのに、ここは私の寝室なのよ?!」
寝室以外なら、部屋のドアを少し開けておいて、廊下を通る人の目に入るようにしておけばいいけど、ここは寝室。さっきの私専用の居間を通り抜けた先にあるこの部屋は廊下に面していない。
「だから気にするな。そんなことを気にするのは水臭いじゃないか」
話が平行している。
論点がズレている。ズレ過ぎているよ、ウォルト。
「普通は気にするもんなの!!」
どうしよう。
ウォルトは部屋(それも私の寝室)から出て行ってくれそうにない。
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