オスカーは・・・大物です
第三王子と出会ってしまって、ゲームの強制力を感じている私は更に信じられない出来事に遭遇する。
それはオスカー。
「リーンネット。焼き菓子はいらないの? それなら、ケーキコーナーに行こう」
第二王子の側近候補として見知っているはずの第三王子を無視している。正確には無視していた。見知らぬ人物扱いして、買い物をし始めていたのだ。
そして今も無視している。
それどころかわかっていて、距離を置くようにチョコレートコーナーから焼き菓子コーナーを挟んで奥にあるケーキコーナーに誘導している。
オスカー!!! そんな真似していて大丈夫なの?!
兄のことが本当に心配になって来た。私が寂しいと言ったらそれでシスコン化してしまうし、仕える王子の弟王子を気付かないふりをして無視するし、オスカーがこんなことをしてうちの一族は大丈夫なんだろうか?
ミス・アーネットは王族に失礼な真似をすると、不敬だとか不忠だとか言われると言っていた。
なんか、胃が痛くなってくる。
・・・。
そうか。紹介されていないし、第三王子もオスカーのことに気付いた様子もないから、これでいいのか。
第三王子がオスカーに気付いていないなら、第三王子もお忍びだからオスカーは挨拶をしなくてすむし、気付いた素振りさえ見せなければ不敬も何もないというところなんだろう。
私もオスカーにならって無視することにした。
「あ。ちょっと待って。お土産にしたいから、焼き菓子を全種類買って」
「全種類? それは多すぎじゃないかな。みんなに配るの?」
「配らないけど、アイリーンやマリーンのお土産にしたいから」
せっかく買ったお土産は暴れ馬騒動で置いてきたから、ここで買うしかない。二人と数日かけて食べるなら、焼き菓子を全種類制覇できる。
「それにしても、量が多いよ。パウンドケーキとシフォンケーキを全種類ホールで買って、一族みんなで分けたらいい。そうしたら、不公平じゃなくなるから」
「え~。そんなことしたら、食べる分が少なくなっちゃうよ」
「それが駄目なら、二人へのお土産は1つずつにしなさい」
「オスカーの意地悪っ」
アイリーンとマリーンのお土産ってことで買えれば、多く食べられると思ったのに。
私の欲望に塗れた計画はオスカーによって却下された。
夢のような場所にいるのに、現実は厳しい。
「意地悪でも何でもいいけど、一族のみんなを平等に扱わないといけないんだよ、リーンネット」
困ったような顔でオスカーが諭す。
一族のみんなを平等に扱うというのは初めて耳にした。
「どうして?」
「僕らはみんな助け合っているから、誰かが誰かの犠牲の上で生きていることを忘れてはいけないんだ。だから、一族の間ではみんな平等にそれぞれの役目を担っている。お土産のお菓子にしても、本当はみんなの分を買って帰らないといけないけど、二人のおやつと同じ量ならそれをおやつの代わりにできる。それを考えて買うんだよ」
尋ねたら、オスカーは教えてくれた。
一族の間ではみんな平等。
これは私に与えていい情報なんだろうか? それとも、オスカーがシスコンだから教えてくれた情報なんだろうか?
私がアイリーンとマリーンだけのお土産にお菓子を選んだら、二人が食べるおやつがこのお土産のお菓子として考えられる。
でも、一族みんなへのお土産にお菓子を選んだら、二人のおやつの量は減らない。
それが一族の間ではみんな平等という考え方。
「でも、さっき買ったものは何の代わりになるの?」
「お前がさっき選んだもので高額な物はなかったから、誰も気にしないよ」
市場はすごいにぎわいだったから教えてくれた店ばかり寄ったけど、どうやらオスカーは値段が高くない店を選んでいたらしい。
「高額じゃなければいいの?」
「そうだよ。僕らの服や持ち物は一族のみんなと同じものなのは知っているよね?」
「うん」
私やオスカーの服も裁縫部屋で作られているから、布とかはみんなの服を作る時に使う共通の布だ。装飾品や日用品も一族の棟の一室に置かれている物で必要だと思ったものを持ち出している。
「それは一族の間ではみんな平等にするという考えからだ。外で仕事をする時はそれにふさわしいものを用意するけど、それ以外では本家もみんなと同じものを使うことになっているんだ」
「へえ、そうなんだ」
同じところに置いてあるものを使っていることが、一族の間ではみんな平等という考え方からだなんて知らなかった。
これが他の家で普通かどうかミス・アーネットが教えてくれていないから、わからない。
でも、私は知っている。
ウォルトやフレイの着ている服は私やオスカーが着ている服と質感やデザインが違う。私やオスカーの服は今日みたいに外出しても、そのまま街中に埋没してしまうような目立たないものだ。
第三王子のほうを見ても、彼らは服からしてウォルトやフレイよりは落ちるものの、私たちのような質感のものじゃない。私やオスカーの服はお菓子屋の店員さんの服に近くて、第三王子たちはこの前、出かけた紳士用品店の店主の服のような質感をしている。
「納得できたならわかるよね。リーンネットは何を買う?」
「瓶詰のキャンディーはお土産にできる?」
一つくらい瓶詰のチョコレートにしたかったけど、第三王子たちのほうには行きたくない。
自分が悪役令嬢に仕立て上げられるゲームじゃなかったら第三王子を見かけても、金を溶かしたような豪華な金の髪に緑色のアーモンド形の目とその下の泣きボクロが色っぽくて、ゲームより幼い12歳でもその整った顔立ちをしている彼に見惚れていられた。
だけど、あと6年もすれば騙されたとはいえ、自分を陥れる連中の一員である第三王子に積極的に関わり合いたいとは指の先ほども思わない。
これから先もずっと縁がありませんように。
ゲームの期間が終わっても、その後も関わりがありませんように。
一生、関わりがありませんように。
簡単にヒロインに騙されるような奴で王族という特権階級と関わり合うってことは、また陥れられる危険が増えるということだ。
誰が好き好んで関わり合いになるか。
他の攻略対象は王族じゃない分だけマシだ。
関わり合ったとしても、一方的にハルスタッド家が陥れられる危険性は少ない。
宰相になるかもしれないウォルトにしても、ウォルトとオスカーは仲が良いからオスカーがなんとかしてくれるかもしれない。フレイもオスカーと何年も親しくしているし、攻略対象のうちの二人はなんとかなる。
あとは逆ハーや腹黒ルートでない限り、腹黒がウォルトの裏をかこうとしてこないだろうし、他の攻略対象だって逆ハーでない限り、陥れようとする理由がない。
偽シルヴィアがゲームの期間を終えた後も攻略を続けない限り、陥れられる危険は非常に少ない。
ウォルトの家のように何度も宰相を任せられる家とか、フレイの家のように武門の名家とか、そんな両家の跡取りと仲の良いオスカーが家を継ぐのだ。陥れようとすれば、その二家も敵に回す覚悟が必要になる。
「ああ。それくらいならお土産にできそうだね」
「じゃあ、私と二人のお土産に瓶詰キャンディーを3つ。みんなのお土産にパウンドケーキとシフォンケーキを全種類ホール。それでいい?」
よくできましたとばかりにオスカーは私の頭を撫でる。
オスカーは私の頭を撫でるのが好きなんだろうか? ことあるごとに良く撫でている。
シスコンの考えることはよくわからない。まあ、私がシスコンじゃないからわからなくても仕方がないか。
焼き菓子コーナーに置いてあった手提げの籠をオスカーは手に取って私に差し出す。
籠には底より一回り小さな木皿が敷かれている。その木皿はお菓子が籠に直につかないようにしている物なんだろう。
「買うものをカウンターに持って行くから、リーンネットはこれにシフォンケーキを全種類入れて。パウンドケーキと瓶詰のキャンディーは僕が持って行くから任せて」
「うん」
籠はシフォンケーキのホールが二つ入るくらいの大きさだった。この籠一つだけではシフォンケーキの全種類(プレーンと茶葉とココア)は入らない。
「オスカー。この籠だけじゃ、入りきらないよ」
オスカーのほうを見て、私は言葉に詰まった。
籠の中から生えるいくつものパウンドケーキ(縦)と瓶詰キャンディー。オスカーはトングでパウンドケーキを縦にして詰め込んでいたのだ。
「とりあえず、それをカウンターに持って行って」
「オスカー・・・」
食べる人の気持ちを考えて、入れてよ・・・。




