夏のオオクマ(気配無し)
僕はこのオオクマの地に生まれて六年になる油蝉だ、僕が地上に出てきてもう五日、僕の命はもう短いだろう。
五日前に羽化した僕の空蝉は未だに木の幹にしっかりと残っている。本来であらば、夏季休暇の最中、盛夏の炎天下の元で健気に遊ぶ子供達が僕達のそれを取っていくのだろうが、そのような子達はいない。それどころか、このオオクマの地には全身を白装束のような物で身を包んでいる怪しげな男達しかいない、その者たちは大きな煙突とその近くにある施設をひっきりなしに往来している。その白装束からは一つも生気が感じられず、一種の機械的な感覚を蝉の私でも感じてしまう。
その周りは一面の緑。白塗りの建物とその周りに映えるような一面の緑がその建物の異様な姿を倍増させている。この一面の緑のなかにもぽつぽつと以前は住居だったと思えるような建物を見つけられはするが。以前のような活気や人の気配が無い事を。六年間人々の足の下で育ってきた僕でさえも感じ取れる。僕が足の下で育っている時に上を踏んでいた人間は、何処にいるのだろうか。そういえば地面の中にいるときに聞いたような話があった。それを僕が聞かせてあげよう。
私は、福島県民です。この物語は大熊町という実際に存在する町を舞台に書いていこうと思います。軽々しく書いてしまうと不快感を与えてしまいそうで恐縮ですが、この問題を重く考えてもらいたいです。どのような場所にも四季は来ます、時が止まっているといわれようがその土地は生きているのです。