表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

愛を見たことがありますか




ねえ、愛を見たこと、ある?




「愛してるよ」

「な、何、急に、どうした?」

「....言ってみただけ」

「そ、そっか...びくったよ、いきなりそんなこと言うから...」


大丈夫、本気じゃないから。


「ヨウイチは、本気で"愛してる"って言える人、いる?」

「え?俺?.....うーん、いない、っていうか、言わない?かなあ...」


あらま、正直だこと。


私たち、仮にも付き合ってるんだけど?


でも、それはおあいこだね。




私は、土手で私の隣に座っている男の子の顔を覗き込んだ。


隣の男子校の、付き合い始めたばかりの、私の恋人。


彼は、まだ何か考え込んでいる風。


心地よい風が、二人の頬を撫でる夕焼け。


私たちのお気に入りの土手で、制服のまま芝生に座り、目の前には、なだらかな水の群れ、遠く空は金色。


愛について語るには、なかなかいいシーンじゃないかしら?



「愛って、なんだと思う?」

私は、何でもない話を振るように、またヨウイチに、質問した。

「え~?う~ん...」

どうやら困り果てているヨウイチは、今にも頭を抱えそう。


「急にそんなこと聞いて、どうした?」

少し心配げに、ヨウイチが聞いてきた。

「んー...わからないから...この世に愛ってあるの?愛ってなんなの?」


昨日の夜中に眠れないほど噴き上がったものが、胸の辺りまで押し迫ってきた。


「ハルカは...誰も愛してないの?」

ヨウイチはそれだけ、私に聞いた。どことなく、淋しそうな声だった。

「うん、たぶん...ううん、わかんないよ...どうしたら愛せるの?」

「それは...俺もよくわからないな....」

ヨウイチはとうとう、頭を掻いて、俯いてしまう。




私たちは急に、人間として生きていく自信を失ったみたいに、迷い込んでしまった。



二人で、だんだん薄暗くなる土手に座り込んだまま。


私たちは、それが解けるまで帰れない呪いにかかった気分だった。




いつもその言葉を口にしすぎて、ちょっと見失ってるだけ?


それとも、本当に私たちはそれを持ってないの?




「なんで...わかんないんだろう...」

「...それも...わかんね...」


お手上げ状態のヨウイチと私。刻一刻と時は過ぎ、夕陽はとうに地平線の下へ。





「...愛したいんだよ」

私は、心から湧いた言葉を呟いた。

「愛して、愛されて、そんな風に生きたいから...」

ヨウイチは、相槌を打ちながら私の話を聞く。

「だけどわからないから、きっと不安なのかも...」


「今、不安なのか?」

ヨウイチは少しだけ私に近づく。

「うん?...うん、たぶん...」

「なんで?」

「わかんないのが、不安....かも?」

「そうか...ほら、おいで」

ヨウイチは、私を引き寄せ抱きしめて、私の髪を撫でる。私も抱き返して、ヨウイチの髪を撫でる。



あたたかい...



「...こういうことも、きっと、愛なのかもな?」

ヨウイチはそう言って笑った。


「さ、帰ろう」

ヨウイチが立ち上がって、私に手を差し出す。

「うん...」







家に帰って、私は、お風呂に入って、ごはんを食べた。


お母さんの料理は、今日もおいしい。食事の時の、お父さんの笑顔も、優しい。



ああ、そんなことなのかも?




だけど、私は、まだ少し不安だった。



愛は、いつまで続くんだろう?


愛するって、ただ抱きしめたり、ごはんを作ったり、笑いかけたりすることでいいの?


偽物の愛はあるの?


愛は、ないものねだりなの?




私は、ベッドの上でため息を吐いた。




だけど、やっぱり、小さなことが、大事なのかなあ...




目を閉じて、私は、夢の世界へ。





夢の中で私は、何かを探していた。


だけど、何を探してるのか、わからなくて、泣きながら、霧の中をひたすら駆けていた。




目が覚めると、日曜はもう、9時になっていた。



夢の中で私が探していたのは何だったのかな...どうしても見つからなかった...霧に隠れて...



頭が少し重い。パジャマのまま、部屋のドアを開けると、ごはんのいい匂いがした。



お母さんが一階から、のんびりした声で、私を呼ぶ。私は、階段を降りながら返事をする。


広いダイニングキッチンには、朝の光がいっぱいに差し込み、お父さんとお母さんが楽しそうに話してる。犬のコロは、お母さんのバランスボールにじゃれついていた。



今日も、食卓には、お母さんの料理が並んでる。


「おはようハルカ、早く食べよう、今日はハルカの好きなスコーンがあるぞ」

お父さんはそう言って笑った。


その時、ポケットのケータイにメール。ヨウイチからだった。


"おはよ!今日もいい天気だから、1時に土手に集合!"



いつもの日曜日が私の前にある。そう思ったとき、今までの、優しい出来事が、数え切れないほど、私の胸の中を流れていった。



ああ...そっかあ...





「ハルカ、どうしたの?」

「え...?何が...?」

「何がって、泣いてるじゃない、どこか痛いの?」



私は、知らないうちに、泣いていた。



だって、わかっちゃったんだもの。見つかっちゃったんだもの。



今まで、ずっと続いてたんだって。嘘じゃないんだって。



「だって私、なんか嬉しくて...」

恥ずかしいから、そのままは言えないけど、それは伝えたかった。

「まあ、変な子ねえ、ほら、椅子に座って、落ち着きなさい」

お母さんが笑って、私の頭を撫でる。お父さんはちょっと困ったような顔をしてた。





急に、愛おしくてたまらなくなった。




ヨウイチも、お父さんも、お母さんも、コロも、日曜日も。





見つかったら、守りたくなった。





きっと忘れない。






もし、見失っても、また気づける。






だって、いつもそこにあるから。






ここにあるから。

読んで下さり、ありがとうございます*^^*

感想、評価、ご指摘、頂けると嬉しいです*^o^*

これからも書きます!

それでは~ヾ( *´∀`*)〃

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでいて、ほんわかで温かい優しい気持ちになれました。 [一言] とても共感をもてました。 小さいこと一つ一つに幸せがある。 よかったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ