愛を見たことがありますか
ねえ、愛を見たこと、ある?
「愛してるよ」
「な、何、急に、どうした?」
「....言ってみただけ」
「そ、そっか...びくったよ、いきなりそんなこと言うから...」
大丈夫、本気じゃないから。
「ヨウイチは、本気で"愛してる"って言える人、いる?」
「え?俺?.....うーん、いない、っていうか、言わない?かなあ...」
あらま、正直だこと。
私たち、仮にも付き合ってるんだけど?
でも、それはおあいこだね。
私は、土手で私の隣に座っている男の子の顔を覗き込んだ。
隣の男子校の、付き合い始めたばかりの、私の恋人。
彼は、まだ何か考え込んでいる風。
心地よい風が、二人の頬を撫でる夕焼け。
私たちのお気に入りの土手で、制服のまま芝生に座り、目の前には、なだらかな水の群れ、遠く空は金色。
愛について語るには、なかなかいいシーンじゃないかしら?
「愛って、なんだと思う?」
私は、何でもない話を振るように、またヨウイチに、質問した。
「え~?う~ん...」
どうやら困り果てているヨウイチは、今にも頭を抱えそう。
「急にそんなこと聞いて、どうした?」
少し心配げに、ヨウイチが聞いてきた。
「んー...わからないから...この世に愛ってあるの?愛ってなんなの?」
昨日の夜中に眠れないほど噴き上がったものが、胸の辺りまで押し迫ってきた。
「ハルカは...誰も愛してないの?」
ヨウイチはそれだけ、私に聞いた。どことなく、淋しそうな声だった。
「うん、たぶん...ううん、わかんないよ...どうしたら愛せるの?」
「それは...俺もよくわからないな....」
ヨウイチはとうとう、頭を掻いて、俯いてしまう。
私たちは急に、人間として生きていく自信を失ったみたいに、迷い込んでしまった。
二人で、だんだん薄暗くなる土手に座り込んだまま。
私たちは、それが解けるまで帰れない呪いにかかった気分だった。
いつもその言葉を口にしすぎて、ちょっと見失ってるだけ?
それとも、本当に私たちはそれを持ってないの?
「なんで...わかんないんだろう...」
「...それも...わかんね...」
お手上げ状態のヨウイチと私。刻一刻と時は過ぎ、夕陽はとうに地平線の下へ。
「...愛したいんだよ」
私は、心から湧いた言葉を呟いた。
「愛して、愛されて、そんな風に生きたいから...」
ヨウイチは、相槌を打ちながら私の話を聞く。
「だけどわからないから、きっと不安なのかも...」
「今、不安なのか?」
ヨウイチは少しだけ私に近づく。
「うん?...うん、たぶん...」
「なんで?」
「わかんないのが、不安....かも?」
「そうか...ほら、おいで」
ヨウイチは、私を引き寄せ抱きしめて、私の髪を撫でる。私も抱き返して、ヨウイチの髪を撫でる。
あたたかい...
「...こういうことも、きっと、愛なのかもな?」
ヨウイチはそう言って笑った。
「さ、帰ろう」
ヨウイチが立ち上がって、私に手を差し出す。
「うん...」
家に帰って、私は、お風呂に入って、ごはんを食べた。
お母さんの料理は、今日もおいしい。食事の時の、お父さんの笑顔も、優しい。
ああ、そんなことなのかも?
だけど、私は、まだ少し不安だった。
愛は、いつまで続くんだろう?
愛するって、ただ抱きしめたり、ごはんを作ったり、笑いかけたりすることでいいの?
偽物の愛はあるの?
愛は、ないものねだりなの?
私は、ベッドの上でため息を吐いた。
だけど、やっぱり、小さなことが、大事なのかなあ...
目を閉じて、私は、夢の世界へ。
夢の中で私は、何かを探していた。
だけど、何を探してるのか、わからなくて、泣きながら、霧の中をひたすら駆けていた。
目が覚めると、日曜はもう、9時になっていた。
夢の中で私が探していたのは何だったのかな...どうしても見つからなかった...霧に隠れて...
頭が少し重い。パジャマのまま、部屋のドアを開けると、ごはんのいい匂いがした。
お母さんが一階から、のんびりした声で、私を呼ぶ。私は、階段を降りながら返事をする。
広いダイニングキッチンには、朝の光がいっぱいに差し込み、お父さんとお母さんが楽しそうに話してる。犬のコロは、お母さんのバランスボールにじゃれついていた。
今日も、食卓には、お母さんの料理が並んでる。
「おはようハルカ、早く食べよう、今日はハルカの好きなスコーンがあるぞ」
お父さんはそう言って笑った。
その時、ポケットのケータイにメール。ヨウイチからだった。
"おはよ!今日もいい天気だから、1時に土手に集合!"
いつもの日曜日が私の前にある。そう思ったとき、今までの、優しい出来事が、数え切れないほど、私の胸の中を流れていった。
ああ...そっかあ...
「ハルカ、どうしたの?」
「え...?何が...?」
「何がって、泣いてるじゃない、どこか痛いの?」
私は、知らないうちに、泣いていた。
だって、わかっちゃったんだもの。見つかっちゃったんだもの。
今まで、ずっと続いてたんだって。嘘じゃないんだって。
「だって私、なんか嬉しくて...」
恥ずかしいから、そのままは言えないけど、それは伝えたかった。
「まあ、変な子ねえ、ほら、椅子に座って、落ち着きなさい」
お母さんが笑って、私の頭を撫でる。お父さんはちょっと困ったような顔をしてた。
急に、愛おしくてたまらなくなった。
ヨウイチも、お父さんも、お母さんも、コロも、日曜日も。
見つかったら、守りたくなった。
きっと忘れない。
もし、見失っても、また気づける。
だって、いつもそこにあるから。
ここにあるから。
読んで下さり、ありがとうございます*^^*
感想、評価、ご指摘、頂けると嬉しいです*^o^*
これからも書きます!
それでは~ヾ( *´∀`*)〃