5・中国の次なる皇帝。
―中国・阿房宮―
バタァン!! 城壁の裏に居た使用人の娘が声をかける。
「只今ある!」 「あ、シエさん。 お帰りなさい。 どうでした? 日本は。」
「いいこと教えてもらったあるよ! うう…このままじゃ、弟の方が発展するかも知れないあるよ…。」
シエは長い袖をあごに当てて苦い顔をした。
「あ、そうある! 第千五百八十九万九百三十回緊急会議を開くある!」
「どんだけ緊急会議開いてるんですか!?」
「いつも思いつきみたいな感じあるからな…
ってそんな事はどーでもいいあるよ! 皆を徴収する宜し!」
「は、はい! では、失礼します。」
シエはぱたぱたと走る娘の姿を見送ると、空を眩しそうに仰いだ。
「大和…。 我は、…この国を変えて見せるある…。
例え何度国が荒れようと…我は、負けないあるよ…!」
そう言うとシエは、空へ優しく微笑んだ。
―韓―
服装からして王族らしき男が、宮殿から地平線を見下ろしていた。
「…この国は秦の下、滅びてゆく運命なのでしょうか…?」
と、そこへ召使の男がどたどたと転がりこんできた。
「はあ…どうしたのですか?」
「か、韓非さま!
只今使いの者から情報が入ってきたのですが、
その情報によると―
『――――――――――――――――――』!!」
「―!! なんですって…?」
―魏―
「このままで、いいの…かな…。 秦は…横暴、すぎ…」
信陵君…昭王の子、安釐王の弟。 戦国四君の1人で、趙の平原君は姉婿にあたる。
軍略に長け、安釐王を凌ぐ諜報力を有していたことで警戒され、要職に就けなかった。
そんな彼のもとへ、一羽の鳥が飛んできた。 信陵君は、おっとりとした口調で話しかける。
「ん…。 何…?」 「チチ…チチチチッ……」
「…? え…?」
顔にこそ出さなかったが、信陵君は驚きを隠せなかった。
―趙―
李牧。 趙末期の名将。
初めて史書に現れるのは廉頗の出奔した翌々年で、この時は燕を討って2城を抜いた。
「我々は…このまま秦の皇帝にやらせていてよいのだろうか…。 しかし、どうすれば…!」
「李牧さま! 何やら、政府が密談をしているようですよ?」
李牧の部下が言った。
「何…? それは真か!? して、その内容は…」 「全てはわからないですが…」
―韓―
「政府が…」
―魏―
「あたらしい…」
―趙―
「皇帝を…?」
―阿房宮―
華やかな会議室の中で、大人たちはひとりの少女を見上げていた。
「よーし、皆集まったあるか? これから我たちが決めるのは―新しい皇帝ある!!」
『大和ー、見てるよろし。 我の国が、変わっていく様を!』
「皇帝は―富豪を強制移住させ、大規模な土木工事で人民を苦しめ、
多くの儒者を生き埋めにしているある…。
何の、罪もない人たちまで…そんな事が―許されるはずが無いある!」
「……。」
会議室の大人たちは、俯いたまま何も言わない。
「この国は…変わらなければいけないある!」「あの…シエさん、ちょっといいですか?」「? 何あるか?」
座っていた一人の男が立ちあがった。
「魏…韓…東周に、趙。 燕…斉と、楚…。 全て、秦に滅ぼされ、統治下に置かれています…。
今や秦はこの国の頂点に君臨し、その権力で全ての民を苦しめています。
反感を持つ者も多いでしょう…」
「だからこそあるよ! 今やらなくては―」
「―ですが! 現在は…長城の創設中ですから…」 「―!!」
長城…後の、万里の長城である。
「多くの民が協力して作り上げている、この国を覆う防壁です。
作り上げた時には、周りの国々への最大の敵となるでしょう。
せめて…この長城が、作り終わるまでは…。」
「…っ、しかし…作り終わるって………いつあるか?」
会議室がしんと静まり返る。
『あの長城は…確かに、この国を守る壁となるはずある…。
それを信じて、民も始皇帝の命令とわかっていながら…日々長城の建設を続けているある…。
今、反乱を起こしたら…反乱の中に、民を…巻き込むことになるある…。
そこまでして…反乱を…起こしても、いいあるか?』
「会議は…これまである。 解散するよろし…。」
~始皇帝の玉座の前~
「―あいや?」
昼食を運んできたシエは、始皇帝の玉座が空っぽになっているのに驚いた。
いつもはここに座っていて、朝食が来るのを待っているはずなのに…。
「あ、おいお前! ちょっと待つよろし。」
シエは丁度そばを通りかかった、使用人の娘を呼びとめた。
「はい? ああ、シエさん。 昼食ならもう済みましたよ。 今でかけられたので―」
「で、でかけた? な、なんでまたそんなことになったあるか?」
「なんでも、不老不死の霊薬探しの旅へ出られるとか…」
この頃始皇帝は交通網の整備と同時に、不老不死の霊薬探しの旅へ出ていた。