表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界で一番大きな国。  作者: ヨウカズ
第一幕:紀元前
4/5

4・日本の帝王。 かすかな好意。

―日本国・海岸付近―


大和は腰の痛みがすっかり引いた体で、稲作業に勤しんでいた。


「ふうー…この分だと、あと少しで収穫ができそうですね。」


大和が額の汗を腕で拭いながら、ふと日本海側に眼をやった。 と―…


「? おや…? あの大きな船は…―!! シエさん!?」


赤をモチーフにした古式の中国船だ。 その甲板には…シエが立っている。


「どうしたんでしょう…稲作についてはもう全て教えてもらいましたが…」


そんな事を考えている内にシエは砂浜に船を乗り上げ、

甲板から砂浜にひらりと飛び降りた。


「よぉーしお前ら、そこで待つよろし。」 「明白了! (わかりました)」


シエが顔をスッと上げると、くわを担いだ大和がパタパタと坂を下りてきている。


「シエさん、どうしたのですか? 稲作についてはわたしはもう大丈夫ですが…」

「大和…へへへ…」


シエは大和の顔を見ると、安心したように少し微笑んだ。


「シエさん…? あまりお元気がなさそうですが…どうしたのですか…?」

「いや…大和、我は…お前に相談が有るある。」

「わ、わたしに、ですか? な、何でしょう?」

「あ…いや、やっぱりお前の姉として、…弟に頼るなんて……やっぱり情けねえある!!」

「シエさん…。」


ポカンとしていた大和は、顔を赤くしたシエに微笑んだ。


「そんなことはありませんよ。」 「そ…そう思うあるか? 本当……に、あるか?」

「ええ。 わたしは、身分や位で物事の発言が憚れるのは、おかしいと思います。

 ですから…シエさんが宜しければ、わたしは相談に乗りますよ。」

「大和…。」 「ふふ…っ」 「~~~~っ我は幸せ者ある!!」


がしっ! と、目にとまらぬ速さで大和の手がシエの両手につつまれた。


「はい!?」


シエは幸せそうな笑みを浮かべ、手を掴んだまま上下に跳ねる。


「こんな優しい弟に恵まれるとは、正直思わなかったあるよ!

 大和! お前は何ていい弟あるか!!」

「し、シエさんっ。

 お気持ちは大変嬉しいのですが、そろそろ手を離して頂かないと、けっ、血管が―」


手を強く握られたせいで、大和の腕が青くなっていた。

あわててシエはパッと手を離す。


「おおっと! すまなかったあるー。」

「いえ、すぐにまた血が流れますから…。 ところで、何の御相談ですか?」

「あっ、そうだったある。

 大和…お前の国には、指導者言う者を決めてるらしいあるが…具体的に何してるあるか?」

「指導者、ですか? …わかりました、少々お待ちを。」


シエに一礼すると、大和は1人だけ、稲作を行っていない男性を呼んだ。


「どうかしたのですか? おお! この方が大和さまの申していた異国の民の方ですな!?」


ビクッ! 自分の皇帝のこともあって、シエは身震いした。

と…。 そっと自分の頭に、彼の手が触れた。


「ははは。 可愛らしいお方だ、琥珀色の瞳が輝いている。」 「うぇ…?」


その男性は、シエが考えていたよりずっと優しそうだった。


「シエさん、この方がこの辺り一帯の村の指導者です。」 「どうも。」

「おお。 ど、どうもある。 早速であるが、貴方様はどのようにこの村を統治しているあるか?」

「どのように? そうですなあ…」


ごくり…。 指導者があごに手をあてて考え込む姿を、かたずを飲んで見上げていた。


「まず、自分がこの村を守っているという事を、いざという時に力で証明しなければいけませんなぁ。」

「…つまりは武力、あるか…」

「村の一体感と、他の村に対しての排他性を極度に高め続ける頭が必要ですな。

 まあ、じぶんはあんまりそっちは困ってやしませんが…」


『どこの国でも、結局は武力あるか…。 我の国は、あのままでいるしかねえあるか…?』


「そう、あるか…結局力だけあれば、いいわけあるな…」

「いや、戦いだけじゃ指導者は務まりませんよ!」 「―! え…?」


はっとして大和を見ると、穏やかに微笑んでいる。 シエは指導者を再び見上げた。


「ど、どういうことあるか!?」

「戦いに勝つことでそりゃあ力が増していいですが、



 やっぱり皆がじぶんの事を信じてくれてるのが、一番嬉しいですなあ。」


「―!! あ…!」

「ふふっ。 そうです。 民に尊敬され信じられていなくては、指導者とは言えません。」


『そうか…そう言うことあるか…! 我の国は…このままでいい訳ないある…。

 ちゃんと信頼された皇帝を…我が…見つけ出さないと―!』


「? シエ、さん…?」 「大和…やっぱり、お前に相談して間違ってなかったある。」

「えっ? こ、これでもういいんですか?」

「そうある! 大和、指導者殿、謝謝!! 我、絶対負けないあるよー!」


ヒュッ! ―トン。 袖を舞わせて身を翻すと、崖から船の看板に飛び降りた。


「よおし、お前ら船出す宜し。」 「わかりました!」


大和が崖の端に駆け寄る。


「じ、事情はよく把握できませんが…解決したようで良かったです! では、また!」

「大和ー! 我、頑張るあるー!」 「はい! 頑張って下さいね。」

「うむ! 任せる宜し! ……」


大きく腕を振るシエを乗せた船が、波間に消えて見えなくなった。


「………。」 「大和さま、じぶんは…あれで、良かったでしょうか?」

「あっ! は、はい。 上出来でしたよ…ふふ。」 「………。」


指導者は大和の顔を、覗き込むように見つめた。


「…な、なんですか? 人の顔をじろじろ見て…」

「大和さま…もしかして、あの異国の方を、好いておられますか?」

「へ? は…な、ななななっ!? なななななな何を言うのですか!?」


大和の顔が褐色のよい紅色に変わる。 指導者はニヤニヤと笑うばかり。


「いやー、若くていいですなあ。」

「そ、そそそそんなことはありませんよっ! わ、わたしの方が、貴方よりずっと爺さんですよっ!」

「ははは、心がですよ。」 「うっ…」


大和は船の見えない海に振り返る。


「…頑張って、下さいね…。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ