2・大和とシエの稲作講座。
中国の『改变自我(分身)』シエは、日本の『分身』大和に稲作を指導しに来ていた。
「違うある大和! もっと腰を落としてくわ使うよろし!」
「こ、こうですか…い、痛たたたたっ! こ、腰がぁ…っ!」
大和は腰に手をあてて、痛そうに顔をゆがめて突っ伏した。
「や、大和!? だ、大丈夫有るか? いやー、無理させすぎたあるね…休むよろし」
シエが申し訳なさそうに頭の後ろをかく。 弥生人が慌てて大和に駆け寄った。
「大和さん! 大丈夫ですか?」
「稲作なら、続きは私達がやるので、休んで下さい! 腰を痛めているのでしょう…?」
「い、いえ、問題ありません。 ………続けなくては…」
シエはくわをついてふらふらと立ち上がる大和を、不思議そうに見つめた。
「大和、別にそこまでしなくてもいいあるよ? 我ならまた今度会いてる日に続きを教えに―」
「ダメです!」
大和はバッと、顔をシエに向けた。 シエがますます目を丸くする。
「シエさんは今…自分の国が戦国時代という深刻な状況にあります…。
それなのに、シエさんがわたしの所に居ては…いけません。
ですから………わたしは日本男子として、他人に御迷惑をかけるようなことは…」
大和は再びうつむいて、苦しげな表情を浮かべる。
「お気持ちは大変ありがたいのですが…シエさんは―」 「他人じゃねえあるよ。」
その言葉に、大和は再びシエを見上げた。
シエの顔は晴れやかで、いつもとなんら変わらぬ笑顔をしていた。
「我は大和…お前の事を弟だと思ってるあるよ。」 「わたしが、シエさんの…弟…?」
「うむ! そうある、弟ある!
我が稲作や青銅器の作り方を教えてる時の大和の顔は、
いろいろ知れてとっても楽しそうだったある。」
「た、確かに、様々な物事を知るのは嬉しき事でしたが…」
「だから! 大和は我の弟ある! 弟の面倒をみるのは、当然あるよ。」
「しかし…やはり国内では戦争が…」
「だぁーっ! 韓も、魏も、趙も、心配ねぇある!
我の中にある奴らある。 なるようにしかならねえあるよ。」
「ええっ!? そ、そんな気楽に構えてていいんですか!?」
「全く、問題ねぇある。 何だかんだで、今まで何とかなってきたある。 今度も大丈夫ある!」
「その自信は一体どこから来るんですか…」
大和が少し、呆れ気味に額に手をあてる。
「ま、そうゆう事ある。 稲作も青銅器も、我が教えたいから教えてるあるね。」
「………」
「それとも、我のやりたいことに口出しするあるかー?」
「いっ、いえ! そうゆう訳では…」
「あはははは! 大和のそうゆう一歩引きます、みたいなところは本っ当面白いある!」
「なっ…!」
大和が顔を赤くするのを見て、シエはますます笑い声を大きくする。
「大和ー! これは姉の命令あるよー! 休むよろし。」 「ですが…」
つぎの瞬間、シエがきつい口調でカッと言葉を発した。
「休まないと腰悪くするあるよ!」
「は、はい! では、お言葉に甘えさせて頂きます。」
争いを好まない大和は、言うとうりに木陰へ行った。
シエは優しい顔に戻って、くわを動かし始めた。
「よぉーし、弟が見てるから、我やる気出して耕すあるよー!! うぉたぁーー!!」
「ちょっ、シエさん! 速すぎです!
もっとゆっくりやらないと体力が持ちませんよ!」
「ん? 大和、なんか言ったあるかー?」 「……いえ、何でもありません…。」
半分ほど終わってもけろりとした表情で続けるシエは、疲れを知らないようだ。
「…何でわたしの方が老体みたいなんでしょう…」
それが彼にわからないことのひとつだった。