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世界で一番大きな国。  作者: ヨウカズ
第一幕:紀元前
1/5

1 倒れていた子。

「ふー…ここは寒いあるなー。 何かここに落ちてきた思ったあるが…気のせいあるか?」


―紀元後200年―


彼女は吹雪の吹き荒れる中を、あるものを探しながら歩いていた。

花の模様が描かれた靴は雪でびしょびしょになり、

その小さな体に似合わない龍の模様のあるチャイナドレスは、風にあおられて大きく舞った。

彼女は小学生低学年のような体つきでありながら、

紀元前からこの地球の歴史を見守ってきた、いわば歳年長者である。


「ほら! お前も早く来るよろし。」

「ま、待って下さいシエさん! 袴が風にまとわりついて…」


大分離れて追いかけてくるのは、彼女の弟的存在である、彼だ。

彼もシエほどではないが、紀元前からこの地球を知っている。


「ったく、お前はもっときびきび行くよろし!」

「申し訳ありません…おや? シエさん! だ、誰か、倒れてます!」

「ん? あ…あいつある!」


ふたりは雪の上に倒れている、自分たちより少々大柄な少年を見つけた。


「こいつ…ここまで大きくなってるゆうことは、紀元前から生きてたあるよ…」

「ほう…正体不明の国が南下してきて、何事かと来てみたら…

 この子が起こしていたのですか…。」


そうだ。

最近見知らぬ、名前もない独立もしてない国が、

急激に領土を広げている、という知らせが入り、このふたりが調査に入ったのだった。


「たったひとりで…ここまで頑張ってたあるか…」 「そうですね…どうします?」


シエはすっくと立ち上がると、晴れ晴れとした顔で地平線に言った。


「放っておくよろし!」 「ええっ!?」


彼は口をあんぐりとあけて、彼女の言葉を疑った。


「し、しかし、放っておいたら戦いの疲れとこの吹雪で…凍え死んでしまいますよ!?」

「はあー…大和、お前はあいっ変わらずお人よしあるな。 わかんねえあるか?

 …こいつはたった一人で、自分の国をここまで大きくしよったある…」

「は、はい…」

「我が恐ろしいと思ったのは…これが、初めてかもしんねえあるな! よし、行くあるよ大和!」

「あ、え、えええっ!? ですから、あの傷ではもう1年も持たないですよ!」

「あいつにはここでくたばってもらった方が、後々我が動きやすいある。」

「そ、そんなあ…」


シエは放置した少年を振り返ると、明かるい笑顔でこう言った。


「それじゃあ、再見さようなら!」


この後シエは、まさか、この少年が―


「…うぅ…」


世界一大きな国になるとは、思わなかった。




暖かい部屋の中で、少年とひとりの男が椅子に座って向き合っていた。


「―そうか…黒海まで進出ができたのか。」

「うん。 あっちももう、全部僕のだよー。」


少年は満足そうに、渡されたココアを飲んだ。

身なりはほつれの縫ってあるコートに、ヅボンとブーツ。

頭には耳あての付いたウシャーンカをかぶっている。

顔立ちは穏やかで、白に近いブロンドの髪と澄んだ緑の眼、

少々大きめの鼻が、顔の中心に丁度よく付いている。


「ふふふ…やはりお前を見込んだだけの事はあるな。」 「ありがとー」

「うむ。 それと、次の行動だが…」 「うん。 しばらくじっとしてようかなあって」

「ほう? お前、それはまたどうしてだ?」

「さっき、倒れてたところを助けてくれたでしょ?

 実はねー、その前にもふたり、僕と同じ子が来たんだよー」

「ほう…?」

「でもねー、そのうちのひとりに、『ここまで領土を広げたんだ、後々敵になるだろう』って。」

「よかったじゃないか。 それも評価されたってことだろう。」

「でもね…助けてくれなかったんだ」


少年は大人びた暗い顔になると、包帯を巻いてもらった部位をさすった。

その顔は小さな体には似合わず、裏切られたような悲しみと怒りを帯びている。


「…」 「まあ、そうゆうもんだよねー…」 「お、おい…アブローラ…」

「ふふっ、大丈夫だよー。 あと、今はみんなに『ガルダリケ』呼ばれてるんだ~。」

「そうか…名前はいいな。 それで、どうするんだ」

「僕が考えるのはね、しばらく時間を置いて又出てきた方が、

 あの子も僕が生きててビックリするかなあって」


少年はぱっと面白そうにほほ笑んだ。 あの表情を見た後だと、逆に恐ろしいが。


「ふん、相変わらず腹黒いなあ」

「ふふふっ、それってどうゆう意味? 食べられるものなの?」

「いや、少なくとも食べられないさ。 その件はわかった。

 だが、基本的政治はわたしにませてもらうぞ」

「わかってるよ。 ふふっ、お願いね。」


男が部屋を出て行くと、少年は窓ぎわに駆け寄り、ある国の地平線を見つめいていた。


「僕…頑張って、もっと大きくなるから、待っててね? ふふっ…君と戦えるのが楽しみだなあ。」


少年は純朴な顔で、穏やかにそう言った。

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