・黒い森の赤い嵐
ゴウゴウと耳を叩く風に混じって、歌声が聞こえる。
それは英語だろう、意味はわからないけど、クリスマスには似つかわしくない激しい歌。
でも、陽気なクリスマス・ソングより僕はサンタの歌の方がすきだ。
父さんも激しい洋楽が好きだった、と思う。
日曜の日課にしていた洗車の度に野太い声で歌っていた。
まだ小学校低学年だった僕はよく手伝いと言うなの邪魔をしていた。
「highway・star・・・。」
父さんが歌っていた歌。父さんが好きだった歌。
「お!知ってんのか!?ガキの癖にいい趣味してんなぁ!」
おんなじ歌だったのか。僕の記憶の中の父さんは、ひどい音痴らしい。
「うおぁ!」
キキィーー
急に減速した反動でサンタの背中に押し付けられた。
バイクが横滑りに1メートルほど進んで止まる。は、鼻が・・・。
「・・・シット!」
ようやく顔を上げた僕の目の前に。
「OーKーガキんちょ、さっきとおなじだ、大人しくしてろ。
そしたらアリーナでミラ・ジョボビッチばりのgun・fightが見られんぜ!?」
【嘘】が。
【嘘】の群れがいた。
心が凍えて涙が出そうになる。
「大丈夫だ、あたしが行ってやっつける。
ビビる暇があんなら何時におうちに帰れるかを心配してろ。
あんな連中一曲足らずで躍り潰す。
だから、な?安心して手を離せ。」
知らず知らずの内にサンタの服を力一杯握りしめていた。
「ごめん!なさい・・・。」
サンタが優しく笑う。
でもそれは一瞬で狼の顔になり【嘘】を睨む。
僕が手を離すと。
「dust to dust(塵は塵に)だピス野郎ども!」
サンタ自体が弾丸のように【嘘】の群れに飛び込んでいく。
サンタはAKを背負ったまま二丁拳銃を構える。
サンタを囲む【嘘】の腕がまるで倒れる樹木のように降り注ぐ。
それを二丁のコルトを振り回し、叩き落としていく。
そして距離をつめた瞬間、銃声が音に聞こえないほどの速度で【嘘】に弾丸を浴びせかけた。
黒の塊が音もなく崩れ、サンタの姿が現れた。と思うと次の瞬間には別の場所で火花がちった。
まるで嵐のよう。
僕はサンタに完全に目を奪われていた。
だから。
僕はすぐ後ろに現れた【嘘】に。
全く気が付かなかった。