・ぶち壊しメルヘン
「ほれ、コーヒー。飲めるか?」
なぜか僕は今サンタ風な女の人と公園のベンチに座っている。
「・・・頂きます。」
受け取ったコーヒーの缶が冷えた手には熱くて、取り落としそうになる。
「しっかしよぉ、辛気癖ぇ面だなぁオイ!」
ベンチに飛び乗るように腰掛けながら空に向かって叫ぶように言う。
・・・ほっといてほしい。
この女の人はなんと言うか、サンタ色だった。
赤のインナーに襟元と袖口だけ白い赤の革ジャン。
真っ赤なホットパンツはロールアップの部分だけ白い。
紐と靴底だけ白い赤色の編み上げブーツ。
その頭に、不釣り合いの見慣れたサンタ帽。
「なんつーかよ、ガキなんてのはクリスマスなんつったらアホみたいにはしゃぐもんだろ、普通。」
「・・・嫌いなんです、僕。そういうの。」
チラッと横目で僕を見る。
早く帰りたい。
「わかるぜ〜、どいつもこいつも脳ミソどっかに置いてきたみたいな顔してよ。
ケーキだチキンだシャンパンだってよ!」
人の苦労も知らねぇで、と舌打ちするサンタチックな女の人。
大人の人が僕と同じ気持ちなのが少しだけ嬉しかった。
「知らない人の誕生日なんて祝う必要無いですし。」
ギシッとベンチを軋ませて体ごとこっちをむくサンタ的な人。
「ま。」
意地の悪そうな笑顔で。
「クリスマスだって浮かれてる連中も嫌いだけど、アンタみたいなヒネた餓鬼も嫌いだね。」
「自分だって浮かれてる連中の一人じゃないですか。」
少しカッとなって反論すると、女の人はムッとした表情で、
「コレは仕事着だっつーの!仕事だよ、仕事。」
「仕事?ケーキ屋さんの・・・」「サンタだよサンタ。見りゃわかんだろ!」
「・・・バカにしないでください。」
子供だと思って。
「ったく、とことんヒネたガキだなおめぇは。サンタクロースだよ、本物の。」
多分、十人、いや百人に聞いても百人全員が、想像するサンタクロースと違い過ぎると答えると思う。
まず、
「トナカイは?」
「そこにあんだろ、赤鼻のトナカイ(チョッパー)が、よ。」
赤いバイクを指差して当たり前な事みたいに言う。
それじゃあ、
「空飛ぶソリは?」
「んなモン無くてもそいつでどこだっていけらぁ。」
フフンッと得意気に笑う。
なら、
「サンタクロースはおじさん」「男女雇用機会均等法っつーのを知らねぇのか?女がサンタで何が悪りぃ。」
こよきかいきんとー何?
「じゃあプレゼン・・・ト」
後ろの方に誰かいる気がして振り向く。
なんでだろう、心臓がドキドキして苦しい。
「プレゼント、ねぇ。強いて言うな、ら。」
声に反応して向き直ると、自称サンタは両脇からスルリと何かを取り出す。
それは公園の照明に照されギラリと光る
二丁の、拳銃。
え?
「コレ、かな。」
ドン ドン
2つの爆裂音が、冷たい空気を乱暴に揺らした。