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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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我が道を往く者、その34~遠大な計画を企てる者④~


「オーランゼブルよ、貴様が『鼓動』を聞いたのはいつのことだ?」

「・・・最初は二千年ほど前のことだ。きっかけは妖精たちの訴えだった。突如として自分たちの集落がなくなったと連絡を受けた。そして原因を調査するうち、その理由がわかった。その頃だ。虚ろなるもの出現を確認したのは」

「どうして他の者は気付かない? 真竜ですら、気付いた様子がなかった」

「よほど自然と密接な関係を築いていないとわからんよ。そして精霊騎士でさえ、その事実に気付いた者はいなかった。一種類の精霊と密接になるだけではだめなのだ。気づくとしたら、複数の精霊と交信が可能であり、かつ力の行使に溺れぬ者だ。息をするように自然に、そして精霊に慈しみを以て接することができる者だけが、この事実に気づくことが可能だ。五賢者の中でもそれができたのは私とイェラシャだけだった」


 オーランゼブルの表情は心底に残念そうだった。黒の魔術士の中ではけっして見せぬ表情。浄儀白楽を対等の会話相手と見込んでいるからこそ、不意をついて出た表情だったが、浄儀白楽はそんなことを知る由もない。


「すると、現時点で気付いているのは」

「彼岸の一族、私、お主、ノーティス、ドラグレオ、シュテルヴェーゼ、その他数名だろう。そろそろグウェンドルフも気づくだろうが、確信はなかろうな。お主こそ、いつ聞いたのだ」

「幼い頃、死にかけた時にな。あの時を境に俺の力は強くなり、そして生きることに対する執着も出た。俺にとっては希望と共に絶望への道のりだったが、生きる目的にはなっている」

「絶望を生きる糧に変えたか。人がお主ほど皆強ければよいのだが」


 オーランゼブルの言葉は本心からだったが、浄儀白楽は一蹴した。その表情は諦めにも似ていた。


「人の生き様はそれぞれだ、強要できるわけでないことは俺もお主も知っていよう。だからこそ、我々は千年恨まれるのを覚悟で行動に出たのだ。だが、今までも誰か気付いた者は本当にいないのか?」

「死んでしまったところも考えれば、ミーシャトレス、いくらかの力を持った魔王。それにアルドリュースなる男もそうであったか」

「世の中は鈍感な腑抜けどもばかりだな、気づくのが未来視の魔眼の持ち主だけとは。だがそのアルドリュースなる者の名前は度々聞いた。直接の面識はないが、何者だったのだ?」

「よくわからぬ。この世の鍵となる人物全てと面識があるような男だった。分析と解析に長け、貪欲にこの世の謎を追及していた。その過程で鼓動の意味を知ってもおかしくはないが、まるで興味を抱いていない風であった。そういえば、お主とも面識はあったと思っていたが」


 浄儀白楽は少々考え込んだが、やはりかぶりを振った。


「西の大陸の者だろう? 顔つきがこちらとは違うし、わかるはずだが記憶にないな」

「変装はしていなかったが、周囲の認識を変え続けてそれと気付かれずこの大陸を一年ほど旅していた。魔術の基本に、恐ろしく長じている男だったな。お主の前にも商人か何かのふりをしてもぐりこんでいるはずだが、特に何かをしていなかったかもしれん。

 私ですら、何を考えているかわからん男だった。殺そうとしても殺せず、ならば仲間に引き込もうと画策しても捕えられず、せめて決断を先延ばしにせよと延命の手段を申し出たこともあるが、それも断った。全くもって、度し難い人間であった。奴の望みは最後まで私にもわからなかったのだが、生きることにこだわっているわけではなかったようだな。

 アルドリュースは私の仕掛けた魔法陣を片端から解除して回っていたが、私が目の前に現れるとぴたりと止めたのだ。あの魔法陣を解除できる以上、その性質と目的にも気づいていたはずだが、私を釣り出すためだけに解除して回っていたのだろう。本当に考えの読めぬ、不気味な男だった」

「ハイエルフを恐れさせる人間とは、興味をそそられるな。生きていれば話してみたかった」


 浄儀白楽の言葉に、オーランゼブルも頷いた。


「私もだ。当時は鬱陶しくもあり怒りすらも覚えたが、今になってみるともう少し腰を据えて奴の話を聞いてみてもよかったかもしれん。どうして付け焼刃のような方法で、私の邪魔をするのかとな。焼け石に水であることは、本人が自ら言っていたことだ。数十年の遅れは、私の計画にはさして意味を成さぬと知っていたはずだが。そしてその弟子がアルフィリースだ。くしくも、師弟そろって私に反抗することとなった」

「噂の女傭兵か。人間一人で何ができる」

「お主がそれを言うか。だがその通りだ。今は泳がせているが、私に反抗する勢力を一か所に集めてくれそうでもある。便利ではないか」

「何か仕掛けているのか」

「もちろんだ。彼岸の一族と共に、鍵となる存在だからな。生まれた時から知っているさ」

「なんなのだ、そのアルフィリースとかいう女は」

「『御子』だよ、浄儀白楽。真の意味での、御子だ」


 オーランゼブルの言葉には重みがあった。浄儀白楽もまた、その言葉の意味するところを察していた。



続く

次回は連日投稿です、12/24(水)19:00になります。

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