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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第一章~平穏が終わる時~
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大草原の妖精と巨獣達、その5~ギガノトサウルス~

 風呂で一息入れ、森で食料を補充したアルフィリース一行はさらに大草原を突き進む。なお、ミランダの計略は未遂で終わった。代わりにフェンナが体を張ったのは、あえてく詳しく語るまい。

 今日も穏やかな行程は続き、和やかな会話が交わされる。


「ところでユーティって、どうして人間につかまってたの?」

「・・・罠を仕掛けられたのよ」

「ほう、それはどんな罠でしょうか?」


 リサが興味津々に尋ねる。


「そんなこと教える必要はないわ」

「リサが当てて見せましょう。どうせおいしそうな食べ物、特に肉の匂いにつられてふらふらと人間のキャンプに迷い込み、お腹一杯になるほど盗み食いをしたうえ、そのままそこで寝てしまって捕まった、と」

「げ、なんでわかるのよ!」

「当たってるんだ・・・」


 アルフィリースが呆れかえる。またアルフィリースの、妖精に対する幻想的なイメージが壊れていく。


「それはいつもの肉へのがっつきっぷりを見てればそのくらい想像はつきますよ、この食いしん坊妖精め!」

「何よ、この腹黒ピンク!」

「2人とも、ケンカはだめよ」

「「黙ってなさい、このデカ女!」」

「はい・・・(くすん)」


 旅の様子ものんびりしたものである。大草原南部では魔獣・魔物も大して強くはないため、何度か遭遇したものの、大した問題も無く対処できた。まだ南部では他の冒険者もちらほらとその姿を見ることができるため、何度かは出会ったパーティーと食料や情報、戦利品の交換などを行い先に進む。大草原は見晴らしも良く、自然が好きな人物が多いこのパーティーのメンバーは予想と違うこともあって、非常に気分のいい旅を行っていた。ただ1人、ユーティを除いては。


「(おかしいなぁ・・・ワタシが誘導しておいて、毎日2~3回も魔物に襲われるなんてありえない。せいぜい数日に1回くらいのはずなのに、アルフィリースがよっぽど運が悪いのか。いえ、違うわね・・・風の強さも例年より強いし、空も曇天寄りのことが多い。もしかすると、嵐の時期がいつもより早く来るのかもしれない。それなら魔物達が活発に餌を求めて動き回っているから、これだけ遭遇するのも納得できる。このままシーカーの里まで天候がもてばいいんだけど、もし嵐が先に来たら全滅もありうるわよね。そうなったらワタシだけでも逃げて・・・でも人間に受けた恩を妖精であるワタシがないがしろにするのもね・・・はあ~どうしよう)」


 とユーティがアルフィリースの肩に座りながらため息をつく。ユーティは飛び疲れるとアルフィリースの頭や肩、胸の上で小休止をするような習慣がついた。本人いわく「ソファーに最適」だそうだ。最初は色々と文句を言ったアルフィリースだが、最近は諦めた。なんせリサとミランダを足して2で割らないくらい口達者なユーティが相手なのだ。アルフィリースでは口論でかなうべくもなかった。


「ユーティ、どうしたの? 心配事?」

「・・・大したことじゃないわ」

「ウソ、ここ2~3日元気ないじゃない」

「あんたは自分の嫁の貰い手でも心配しておきなさい」

「うっ」


 アルフィリースが露骨に落ち込んだ。アルフィリースが18にしていまだに彼氏の1人も作っていないことを聞いてからは、ユーティは彼女をさんざんこのネタでからかっている。


「さ、冗談もここら辺にしておいて、森を抜ければ大草原の北側よ。ここからは真剣に気合を入れないと危ないからね」

「あ、崖みたいなところに出た」


 一行は再び森を抜けていたのだが、森が切れた所でちょうど崖になっていた。眼下30m程下に再び大草原が見える。


「ずっとなだらかな上り坂だったのよ、気付かなかったでしょ?」

「確かに・・・」

「でもここから降りるの?」

「ええ、そうよ。もう少し行くとなんとか馬一頭ぐらいが降りれる場所があるから、そこから行くわ。ここから中央付近の岩場の北側にかすめるように行くと、一番危険な連中と出会う確率が低いの。他の所からこの大草原北部に入ろうとすると、危険な魔物や魔獣が罠を張って待ってるのよ」

「でも中央の岩場って・・・」

「ええ、この大草原の主『炎獣ファランクス』の住処よ。まあ滅多に会わないから大丈夫でしょう」

「甘い、甘いよ、ユーティ・・・」


 ミランダが首を振っている。


「何よ、他にいい案があるっての?」

「いや、アルフィリースの変態の寄せっぷりを知らないって言ってるのよ。『アルフィが歩けば変態と魔物に当たる』と言われるくらいの確率でこの子は色んな厄介事に遭遇するんだから」

「それ言った人は、ミランダだけなんだけど?」

「リサも同意です」

「私もだ」

「え~と、私も・・・」

「ニアやフェンナまで??」


 アルフィリースがおろおろし始めた。最近はニアやフェンナまで突っ込みが厳しい。ひとえにアルフィリースが優しいゆえにそういった扱いを受けるということもあるのだが、それにしてもやや不憫である。そして当のアルフィリースはまたしても半べそをかいていた。


「(この子達、余裕あるわねえ・・・それともただのお馬鹿なのか)」


 そんなユーティの半ば呆れながらも感心している心の内など、露ほども気づかないアルフィリース。


「カザス? カザスは味方してくれるよね?」

「そうしたいと思ってましたが・・・撤回させていただきましょう」

「なんで!?」

「いや、あれ・・・」


 カザスが指さした方向を見ると、ほんの5m先に大きな目が2つ、こちらをじっと見ている。図らずして、全員の時が止まったように凍りつく。その目の主と見つめ合うこと数秒・・・


「え・・・と。ここって下から30mくらいはあるよね?」

「そうね、目の前に広がる光景を見ればそれくらいはありそうよね」

「なんで目の前にこんな魔物の頭が?」

「それは・・・この魔物が30mくらいはあるってことよね?」

「ギ、ギガノトサウルス・・・」


 ユーティがぼそりと呟く。ギガノトサウルスはこの大草原でも最も強力な魔獣に分類され、前足を上げて二足歩行をする巨大爬虫類である。馬を一飲みにするほどの口の大きさであり、外皮は並の剣など通しはしない。書籍などではその存在が語られるが、半ば妄想上の魔獣とされていた。ギガノトサウルスの姿を見て生きて帰った者がほとんどいないためである。カザスが嘆息をつく。


「これがギガノトサウルス・・・生きてこれを見た学者は僕が初めてかもしれませんね」

「いや、生きて帰れるかどうかが問題よ」

「ど、どこから出たのよ」

「多分、崖の下で身を伏せていたんだろうな」

「それより・・・逃げませんか?」

「ゆ、ゆっくりとね・・・」


 アルフィリース達はゆっくりと馬を進めるが、それを横目で見ながらついてくるギガノトサウルス。アルフィリース達が止まると同じく止まる。


「ど、どうしよう・・・」

「アルフィのせいですね」

「また私?」

「このルートは安全なはずなのに、いきなりこんなバケモノクラスの魔獣と出くわすなんて・・・言っておくけど、こいつはそんじょそこらの魔王よりかなり強いわよ?」

「そんな・・・」

「一回森の中に入ってやりすごしたらどうだ?」

「こいつのブレスから逃げられたらね。こいつのヒートブレスは鉄の鎧も溶かすわよ? 射程もかなり広いわ。逃げ出そうとした瞬間、高い確率でブレスを浴びせられるわね」

「じゃあどうしろと・・・」

「じきに下に降りる道があるけど、これは難しいかも・・・」


 そんな緊張感にさいなまされる一行とはうらはらに、ギガノトサウルスはしきりにあくびをしている。どうやら寝起きらしい。いまだに目が覚めていないのか、まぶたもどことなくうろんげだ。


「寝起きか・・・それならこれをくらわせてやる」


 ミランダが大あくびをするギガノトサウルスに向けて何か袋を投げつけた。それが鼻先にぶつかると粉が舞い散り、思わずギガノトサウルスはくしゃみをするが、それを合図に姿がゆっくりと下に消えていく。ニアが下をおそるおそる覗きこむと、地面で横になって寝ているギガノトサウルスが見えた。


「ミランダ、今のは眠り薬?」

「ああ、手持ちの半分くらい使ったけどね。効いてよかった」

「役に立つじゃない、シスター。馬鹿力だけじゃなかったのね?」

「当然だろ、ユーティ。今のうちに下に降りよう」


 そうして下に降りる一行。下ではギガノトサウルスが大いびきをかいて寝ている。


「ここから大草原北部なのね・・・」

「まだ道程は半分も来てないわよ。ここは北側の一番西に近い所だから、北東にあるシーカーの里までは馬で駆けて最低2週間はかかるわ。何事もなかったとしてもね」

「遠いわね・・・」

「途中で食料を確保したりすることを考えると、20日は見た方がいいのかも。そうなると天候が心配よ。上を見なさい」


 ユーティに促され、空を見る。空には雲が多いが、まあ晴れといって差し支えない。


「雲が多いでしょ? 普通夏の大草原は連日雲ひとつない快晴なのよ。雲が増え始めると嵐の季節が近い証拠。もし嵐の季節が来たら何をおいても森に入らないと危険際まりないわ」

「いや、嵐くらいだったら別に大丈夫なんじゃ」

「・・・大草原の嵐を知らないわね。このギガノトサウルスが全力で逃げる嵐よ? 人間じゃ助からないわ」

「そ、そんなに?」


 どうやらアルフィリースが想像している嵐とは、大分訳が違うようだ。ユーティがその事を伝えるように話を続ける。


「しかも嵐の季節は一カ月くらい続く。その時期だけは大草原から生命が消え去るわ。その後、冬に備えて動物は喰いだめの時期に入るから、気性が荒くなってさらに危険。逆に冬は比較的安全なんだけどね。不定期に降り注ぐ人の頭サイズの雹をかわしながら歩けるのなら。だけど」

「なるほど、それで夏が来る前に皆大草原に入りたがるのか・・・なんとなくわかるな」

「春は冬眠する連中が起きるから大変とか、そういう感じか?」

「それだけじゃなくてね、春は・・・」

「え~と、皆さん??」


 フェンナが会話に割ってはいる。ユーティが話の腰を折られてやや不機嫌そうにするが、フェンナが何かを訴えたがっているので聞いてみた。


「何よ、フェンナ?」

「いえ、あの・・・逃げなくていいのかな? と」

「え?」



続く


本日18:00投稿です

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