大草原の妖精と巨獣達、その2~水の妖精~
「これが・・・妖精?」
「ニンフ・・・ではなく、れっきとしたフェアリーですね。森の奥ではよく見かけますが」
「珍しい。本の上では知っていましたが、これは何とも美しい生き物ですね」
カザスの感想もさもあらん。目の前にいるフェアリーは青く長いウェーブのかかった髪を腰まで伸ばしており、目はくりっとしていて大きく、とても愛嬌のある顔だった。整ってはいるが、まだ可愛らしいと言った方が良いかもしれない。また4枚の羽根の邪魔にならないように、銀と白を基調にした布地を首の後ろから体に巻き付け、体の横で固定させている。
魔物や飛竜なども十分におとぎ話のような存在だが、フェアリーはそこに存在するだけで周囲を幻想に包むようだった。アルフィリースは自分がおとぎ話に迷い込んだような錯覚を覚えまじまじとフェアリーを見たが、その妖精がジト目でこっちを見つめていることに気がついた。
「な、何・・・」
「それはこっちのセリフよ、デカ女!」
「デカ・・・」
「ワタシのこと、じっくりねっとり絡みつくような視線で見つめちゃって、いやらしい。こっち見んな! ブッ飛ばすわよ!?」
そう言って鳥籠をガツンと蹴り飛ばすフェアリー。アルフィリースが抱いた幻想的なイメージが、ガラガラと音を立てて崩れていく。その横で道具屋の主人が盛大に溜め息をついた。
「まあこういう奴なわけだ。格安で仕入れたはいいが、これを売りつけた奴も辟易してたんだろうな。俺もこいつがいるとうるさくって仕事にならん。夜中も所構わず騒ぎ立てるし、もらってくれるとありがたいんだが」
「・・・こっちも御免こうむりますね」
リサが仕草で「却下」と示す。だがその様子を見て、さらにフェアリーは騒ぎ立てる。
「ちょっとそこのピンク髪のドチビ! なに人のことをいらない子扱いしているのよ!」
「実際いりません。この暴れん坊フェアリーが旅の役に立つとは思えません」
「ぬわんですってぇ!? あんたみたいな淫乱ピンクより、この可憐でキュートでセクシーなワタシの方が100倍役に立つってぇの!」
なぜかセクシーポーズでウィンクするフェアリー。その言動にカチンときたのか、リサが舌戦態勢に入る。
「リサのどこが淫乱ですか!? きちんと理解できるように30字以内で的確に述べなさい!」
「昔からピンクはエッチな子だとフェアリーの伝説にある!」
「ぴったり30字で切り返すとは・・・やりますね。それはどんな伝説ですか!?」
「言ってもいいけど完全にR-18よ? やってもいいの? 語ってもイイの?? ほらほらぁ!」
「くっ、全部伏字にせざるをえないとは・・・18禁を可にしておけば!」
「でしょう? だから納得しなさい!」
無茶苦茶な理論だが、勢いでリサがやり込められた。ある意味凄いことだが、リサも負けじと切り返す。
「ですがリサが役にたたないというのはどう言うことです? あなたみたいなちみっこいのより、センサーである私の方が大分役に立つと思うのですが!」
「ふん、ちみっこいとは言ってくれるわね! 言っておくけど私はフェアリーの中では最もセクシーな女として引く手数多なのよ!? 見なさい、この抜群のスタイルを!」
またしてもセクシーポーズをとるフェアリー。確かに身長こそ30cmくらいだが、バランスはかなり良い。人間大にしたら相当なプロポーションとなるだろう。リサが思わず言葉に詰まる。
「むむ」
「わかったかしら、このぺちゃぱい」
「ぺちゃ・・・」
「あーら御免あそばせ、図星だったかしら。ホホホ!」
「そんなことはありません! 貧乳はいまやブランド力です!」
「ふん、大きなお友達がハアハア言いながら寄ってくるだけよ。まあそこにいるだらしない『うしちち』よりしとやかなのは、認めてもいいけどね!」
フェアリーがアルフィリースの方を、ビッと指さした。アルフィリースは自分が槍玉に挙げられたと気がついて、呆然としている。
「うしちち・・・」
「あら、ごめんなさい? 『ちちうし』の間違いでしたわ」
「言い直さなくてもいいわよ!」
「リサもそれに関しては同意しますが」
「同意しないで! うわーん」
べそをかき始めたアルフィリースを、よしよしとなだめるミランダ。その間にもフェアリーの口はさらに回転を上げていく。
「貧乳がステータスとか胸が無い子の言い訳よ! それともアナタの思い人はその胸がいいと断言したのかしら?」
「そ、それは・・・」
「あら、確認してないのかしら? もしアナタの思い人が巨乳好きだったら、そこのちちうしに寝取られるわよ? NTRよ、NTR! もうどろっどろの昼ドラよぉ!」
「あ、あああ・・・」
最後の方はよく意味がわからなかったが、リサが目に見えて落ち込み始めた。まさかリサが言い負かされるとは、恐るべしフェアリー。リサとミランダを足して2で割らなかったらこういう性格になるのかもしれない。
ともあれ勝ち誇ったように高笑いをするフェアリー。しばらくしてよろよろとリサが立ちあがると、仕込み刀を抜きながらアルフィリースに向かってきた。
「ちょ、ちょっとリサ。何する気!?」
「・・・大したことではありません。ちょっとそのうしちちを、リサにもわけていただこうかと」
「む、無理無理無理!」
「・・・大丈夫です、出来る限り痛くないようにしますから」
リサがアルフィリースにじりじりとにじり寄って来る。
「いやー、やめてー!」
「アルフィ、観念しなさい!」
「俺の店を壊すなぁ!」
リサがアルフィリースを店内所狭しと追い回し始めた。おろおろする道具屋と他の仲間達。そしてしばらくして全員が落ち着くと、フェアリーの方もとりあえず満足したのか、真面目な話を始める。
「で、本気で大草原に行きたいの?」
「ええ、このフェンナを送り届けないと」
「ふ~ん、シーカーか。なら北側に行くのね」
「そうみたいね」
「確かにそれじゃ並の『風読み』程度じゃ無理ね。中には北側に入って来る風読みや商人もいるけど、一般の冒険者が知り合えるような相手じゃないでしょう・・・仕方がないから、案内してあげてもいいわよ」
「本当!?」
アルフィリースが喜びの声を上げると、面倒くさそうにフェアリーがうなずく。結局このフェアリーの存在に道具屋はうんざりしていたので、タダ同然の値段を支払うだけで済んだ。
***
そして鳥籠から解放されて周辺を飛び回るフェアリー。
「んんん~! やっぱりシャバはいいわね~♪」
「シャバって・・・」
「でもどうして私達に協力を?」
「そりゃあの鳥籠も飽き飽きしてたしね、いい加減出たかったのよ。それであの店主に嫌がらせしてたわけだし」
「そうじゃなくて、なんで今逃げないのかってことよ」
「え?」
アルフィリースの鋭い指摘に思わずびっくりするフェアリー。
「(この子・・・もっとぼやっとしているかと思ったけど、案外鋭いわね。もっともな指摘だけど、南の魔物はともかくとして、北側の魔物は私達フェアリーでもおかまいなく襲ってくるからね。囮は多いほうがいいのよ・・・なんて言うわけにもいかないし、適当にごまかすか。あまり人間の里をうろうろするのも得策じゃないしね。またいつ捕まって見世物小屋に送られるとも限らないわけだし)」
などとフェアリーが腹黒いことを考えている間にも、アルフィリースはじっとフェアリーの方を見ていた。フェアリーが思わずのけぞるようにその視線を受ける。
「まあ・・・シーカーとはそれなりに交流があるからね、恩返しよ。ワタシはシーカーの里からなら安全に自分の故郷に帰れるし、物のついでよ、ついで。それにフェアリーは恩知らずではないわ」
「ふーん、まあそういうことにしといてあげる。でも私達をだましてたら、スープのダシにしちゃうからね」
アルフィリースがにっこりとほほ笑むと、なぜかフェアリーには悪寒が走った。結構本気でダシにしそうな笑顔だったのである。
「それで、貴女の名前は?」
「ワタシはユーティ。水の精霊ウンディネの眷族にして、水を司るフェアリーよ。よろしくお願いするわ」
「私はアルフィリース、名字ははわけあって名乗れないわ。それでこっちは――」
順番に紹介をするアルフィリース。その中でリサが再び質問をする。
「それで、ユーティに聞いておきたいことがあるのですが」
「何?」
「センサーが大草原では役に立たないとのことですが、詳しくはどういった理由なのですか?」
「詳しい理由はワタシも分からないわよ。ただ昔から大草原は磁場が歪んでいると言われてて、センサー能力ですらまともに効かなくなるらしいわ。それに効いても無駄、という理由が大きいわね」
「無駄、とは?」
リサが首をかしげながら質問する。
「魔物が強すぎて感知してからでは遅いのよ。ちなみにアナタのセンサー半径は?」
「今なら通常で1kmはいけます。集中すれば2kmは」
「かなりやるわね。でもそれでも無駄よ。北の魔物には2km程度なら100歩以内で走るようなやつらも多いわよ」
「・・・信じられませんね」
「別に信じなくてもいいわよ、そのくらい強力だってこと。見つかったら最後、まず生き延びられないし、認識阻害の魔術もダメ。魔術そのものに反応する魔物がいるから、かえって呼び寄せてしまう。常識が通用しない場所なのよ」
「じゃあ竜で空からいけば・・・」
アルフィリースの提案にも、ユーティは首を横に振る。
「それもダメ。空の魔物も相当強くて、それこそ飛竜程度なら餌にされるわ。だいたい竜だって夜は休むでしょ? それに飛んでいる所を見られたら地上の魔物は永遠に追って来て、休んだところをガブリとやられるのがオチよ」
「ではユーティはどうやって正しい道順を知り、私達を安全に案内するのですか?」
リサの質問も、もっともである。
「私は精霊だからね。草木や風に話を聞けばいいのよ」
「そんなことができるの?」
「正確には徴候を読むのよ。上位のフェアリーは精霊そのものに近くなるから、本当に声を聞くらしいけどね。残念ながらワタシはフェアリーとしてはそこまでではないけど」
「なるほどね」
アルフィリースが素直に感心している。少し得意げなユーティだ。
「で、行くなら早い方がいいわ。シーカーの里まで、馬を使っても最低1ヶ月はかかっちゃう。そのくらいには大草原は嵐の季節になるの。嵐の季節はヤバいわよ。大草原の魔物ですら、大人しく自分の巣穴に帰るものね。だから今は嵐の季節に備えて色んな生き物が外にいるから、冒険者も色々狩り甲斐があって入って来るのでしょう。ただ一つ宣告しておくと、北側ではワタシの案内も完璧じゃない。時には魔物に見つかることがあるのも覚悟しておいてね」
「できれば出会いたくないわね」
「ワタシだってそうよ。でも人間だって北側に住んでる人間がいるくらいだから、まあ何とかなるでしょう」
「そんな土地で暮らす人間もいるのだな」
「どのくらいの数、人間がいるのさ?」
ニアが関心し、ミランダが質問する。
「ええ、少数だけどね。昔から住んでるから、生き延び方を知っているみたい。あ! それで思い出したけど・・・北側でもし安全に生き延びたいなら、『案内人』を見つけることね」
「案内人?」
「詳しくはワタシもしらないけど、なんでも時々北側に紛れこんだ人間を助けているみたいよ。本人も人間だとか。なのに北側のだいたいの魔物よりも強いと聞いたわ。何者なのかしらね」
「人間か・・・」
一行は顔を見合わせる。そんな強力な人間がいるものだろうか。だがユーティは自分の説明をさらに続ける。
「あと絶対やっちゃいけないこと! 『炎獣』にだけは出会ったらダメ。炎獣は北部中央付近の岩場に住んでいるんだけど、大草原で1、2を争う強力な魔物よ。出会ったら確実に終了だわ」
「じゃあそこを避ければいいのね」
「まあそういうこと。じゃあ時間も惜しいことだし、さっそく行きましょうか?」
そして新たな仲間、妖精のユーティに先導されて大草原に向かうアルフィリース達。時期は夏のただなかに入ろうとしていた。
続く
次回投稿は12/17(金)13:00です。