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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第一章~平穏が終わる時~
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大草原の妖精と巨獣達、その1~風読み~

***


「ねえミランダ~、どうしよう~」

「何を甘ったれた声を・・・でもどうしようね、ほんとに」


 廃都ゼアを去ってから報酬を受け取るため、最寄のギルドに来たアルフィリース達。同時に大草原に入るための『風読み』といわれる特殊な人間を雇おうと思ったが、既にほぼ全員が出払っていた。


「すまないね、お嬢さんたち。素材の収穫時期だから、大草原に入る人間達が多いんだよ。めぼしい奴らは既に予約が入ってるね」

「残ってる人はいないの?」

「いるにはいるが・・・粗悪なのか、優秀すぎて報酬が払えないかどっちかだがね。それでも会ってみるかい?」

「うーん、ちょっと考えてみる」

「そうするがいいさ」


 ギルドの窓口係のおばさんに挨拶をし、併設された酒場で情報を集めていた仲間のところに戻るアルフィリースとミランダ。


「どうだった?」

「ダメ、もう手ごろな人はいないみたい」

「困りましたね・・・リサも大草原は初めてです。大草原では不思議な力に阻まれて、センサーも役に立たないとか言いますから。風読みは必須と聞いたのですが」


 ニアは腕組みをし考え込み、リサはお手上げのポーズをする。フェンナは祈るようなポーズで事の成り行きを見守っている。その様子をじっと見ているカザス。


「って、先生よ。なんであんたがここにいるのさ」


 話がうまくいかず虫の居所が悪いのも手伝い、ミランダがカザスに突っかかる。


「いえ、貴方達が面白いのでもう少し様子を見ていたいなと。それに私も大草原には行ってみようと考えてるので」

「来なくっていいよ」

「私がどこに行こうと自由でしょう」


 ミランダがカザスを睨みつけるが、明らかに難癖をつけているのはミランダなので、ぷいと他所を向いてカザスを無視することに決めたようだ。どうもこの2人は相性が悪い。

 ため息をつくアルフィリースに、ニアが話しかける。


「ところでアルフィ、報酬は出たのか?」

「前金だけね」

「やはりそうか・・・」


 ギルドからの報酬は多くが前金と成功報酬の分割形式で払われる。成功報酬のみにすると依頼人が報酬を払わなかったり、前金だけにすると傭兵側が持ち逃げすることがある。依頼人と傭兵側のトラブルを避けるために前金と成功報酬の分割払いにすることが多く、その比率は依頼によって様々である。また前金で装備、準備などを整えたりできるので、多くの依頼がこの形式だった。

 今回の依頼は、前金と成功報酬の割合は1:4だった。つまりアルフィリース達にほとんど金は入って来ていない。相変わらずの貧乏が続いている。


「また給仕メイド依頼バイトやるかな~」

「そんな時間はありませんよ、ミランダ。秋になれば大草原の気候は荒れに荒れ、人間では立ち入ることすら不可能となると聞きました。リサは大草原に立ちいるなら、強引にでも今行くことを提案します」

「とはいってもね。磁石とかもおかしくなるし、方角もよくわからないんじゃ、やみくもに突っ込んでも危険極まりないだけだよ」

「では良い案がありますか、アルフィ」

「う~ん、お金もないしね~」

「お金は私が出しましょう」


 カザスの提案に皆驚く。


「えっと・・・なんで?」

「私は戦力にはならない人間ですからね。その私がついていくと言ったわけですから、何かしら戦闘以外の部分で義務を負わないと、皆さんと対等とは言えないでしょう。幸い金銭的には余裕がありますし、大草原の調査はいずれやる予定でした。この人数で2カ月程度ならなんとでもなると思いますし、このまま皆さんを雇い入れる形でいかがでしょうか?」

「へえ・・・学者先生、ちょっとは見直したよ」

「どうも、ミランダさん」


 ミランダとカザスが互いにやや皮肉を込めて呼び合うも、先ほどよりは雰囲気が軟化していた。


「じゃあこれで金銭面はいいとしても」


 だがしかし大草原への案内人の話は何も進展していない。すると隣のテーブルから男が声をかけてきた。


「お前達、大草原に行きたいのか?」


 目以外の顔に布を巻き、茶色のレンズの眼鏡をした男がそこにいた。表情が読めず、席の横には自分の体格はあろうかという荷物と、杖が置いてある。話に聞く、風読みと呼ばれる職業の一般的な衣装だった。


「風読みかしら?」

「いかにも」

「もしかして手が空いてるの?」


 アルフィリースが一縷の望みを駆けて質問するが、男は首を横に振る。

 

「いや、残念だが私も予約済みだ・・・だがお嬢さんたちが困っているのを見かねてね。どうせ依頼主を待ってる間は退屈だし、暇つぶしがてらに助言でもといったところだよ。老婆心というやつさ」

「それは嬉しいけど、えーと」

「ザザだ」

「ザザさんは何を教えてくれるの?」

「その前に・・・そこのお嬢さんはシーカーか?」

「あ、はい!」


 フェンナが突然呼ばれて跳ね上がる。


「よくその呼び名を知ってますね」

「俺は傭兵として経歴が長い、それだけだ。だがシーカーということは、お前たちは大草原の北側にあるシーカーの集落に行くつもりだな?」

「そうです」

「悪いことは言わん、止めておけ」


 フェンナの返事に、首を横に振るザザ。


「どうしてですか?」

「大草原は北と南では全く別物だ。南はいい。まだ風も読みやすく、魔物も大人しい。風読みさえいれば、命の危険は少なく素材の収集ができるだろう。

 だが北は違う。風は生物を狩るために吹いているかのごとく容赦なく吹きすさび、魔物はこれ以上ないくらい強力だ。討伐以来があれば、おおよそB級以上。それにシーカーの里自体、余所者を受け入れないように隠してある。見つけて彷徨う内に死ぬのがオチだ。命がいくつあっても足らんよ」

「命がいくらあっても足りないとは?」

「・・・俺達風読みでも北に入って3日間生き残れるものは、10人に1人だと言われる。それも風読みとして、C以上のランクでな。ちなみに俺なんぞ若いころに間違えて北に入ってしまったのだが、奇跡的に3週間生き延びることに成功した。全く運だとしかいいようがなかったさ。それでギルドに帰ると突然B級にまで抜擢された。それほどのことなんだよ、北に入って生き残るってのはな」

「そんなに・・・」

「で、貴方はどうやって生き残ったのですか」


 リサが鋭く突っ込む。


「言ったろ、俺は運が良かったって・・・北に住んでいる原住民に拾われたんだよ」

「原住民?」

「ああ、まっとうな人間だったが・・・色々な機能が人間とは違う奴らだった。北の魔物と平然と戦うし、風読みの技術も明らかに俺より上だった。俺の風読みとしての技術は彼らの一部を頂戴したものだ。それだけで風読みとして、上位20人には入る実力だと言われたよ」

「じゃあ彼らを雇えば・・・」

「無理だな。外界との接触は基本持たない奴らだ。俺は例外だよ」

「ではどうしろというのです」

「今年は諦めろってことだ・・・来年でよければ俺がついて行ってやる。もっとも北の手前までだが」


 そう言って席を立つザザ。アルフィリース達は言葉も無くその場で項垂れた。その陰鬱とした様子にザザも悪いことをしたと思ったのか、ギルドを出る直前にピタリと足を止め、アルフィリース達の方を振り返った。


「もし方法があるとしたら・・・妖精フェアリーだな」

「フェアリー?」

「ああ、この辺で稀に見かける妖精は大抵が大草原出身だ。奴らなら北側の風も理解できるだろう。だがこの俺でも見かけるのは10年に1度・・・とにかく警戒心の強い一族だからな。それに人間嫌いだ。可能性は無いに等しい」

「それでも何も希望が無いよりましだわ。ありがとう、ザザさん!」


 素直に礼を言うアルフィリースに少し驚いたのかザザがその動きを止めるが、すぐにくるりと背を向け、手を上げながらその場を後にする。


「道具屋のところに行って俺の名前を出してみな・・・何か良い話が聞けるかもしれん。最近、何か面白い物を大草原帰りの人間から仕入れたと言っていたからな。お前たちに風のご加護を・・・」


 そしてザザが去った後、アルフィリース達は彼の助言に従い道具屋を訪れてみることにした。


***


「はあ~どうしたものかな・・・」


 一人ため息をつく道具屋の主人。彼は自分が仕入れた物の後処理に困っていた。


「安く売るっていうから思わず買ったが、もっと疑うべきだったか。まさかあんなのだなんてな・・・ハァ」

「ごめんくださーい」


 その道具屋を訪れてきたのはアルフィリース達。道具屋は重い気分を振り払いきれないのか、やや気だるそうにのそのそと表に出てきた。


「ああ、いらっしゃい」

「ザザさんの紹介で来たんだけど・・・」

「ザザの? 珍しいな、あの偏屈野郎が誰かを紹介するなんて。ということは大草原関連の商品が欲しいのか?」

「ええ、何か珍しいものを大草原帰りの人から仕入れたと聞いたから」

「そういや奴には話したっけか・・・まあ珍しいと言えば珍しいな。だが本当に見たいか?」

「・・・見たらまずいの?」


 アルフィリースが怪訝そうな顔をする。それほど危険な商品だというのだろうか。


「まずかないが、げんなりするぞ。今の俺みたいにな」

「どうしよう?」

「見てみないと始まらないと、リサは思います。今さら躊躇とかどんくさいですね、デカ女。道具屋さんも、もったいぶらずにさっさと持ってきてください」

「口の悪い嬢ちゃんだな・・・よく似てらあ。ちょっと待ってろ」


 リサに促されて奥に行く主人。


「何に似てるんだろ?」

「さあ? リサみたいな完璧美人が他にいるとは思いませんが」

「よくそこまで言いきれるな・・・」


 ニアの突っ込みをさらりと受け流すリサ。ほどなく奥から騒がしい声が聞こえてくる。


「うわっ! こいつ、大人しくしやがれ!」

「・・・何それ?」


 道具屋が持ってきたのは普通よりも一回り大きな、鳥籠らしきもの。全面を分厚い覆いで囲ってあり中身は見えない。だがガタンガタンと揺れ動き、中からは何やら人の叫び声が聞こえるが--?


「出せー! このツルっパゲー!!」

「はげてねぇ! くそっ、相変わらず口の悪い!」

「えーと・・・それ何?」

「百聞は一見にしかずだ。まあ見るといいさ」


 道具屋が覆いを取ると、中には・・・



続く


次回投稿は、翌日12/16(木)14:00です。

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