表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
894/2685

ドゥームの冒険、その4~大草原の巨大遺跡④~

「!」


 ドゥームはほとんど本能で体を靄に変え、その一撃を無効化した。通路をふさぎかねない巨躯のトカゲが目の前から消えるほどの速度で動くとはドゥームも恐れ入ったが、対応できないわけではない。だが反撃の余裕のある相手かと言われると、甚だ疑問である。

 ドゥームが一瞬本気で戦うかどうかを思案した間に、オオトカゲは口をがばりと開いていた。その中に光る息吹ブレスを見た瞬間、ドゥームの頭からは戦うという選択肢は消えていた。


「オシリア! マンイーター!」


 オオトカゲが銀白色のブレスを吐いた直後、ドゥーム達はその場を離脱していた。ドゥームは体全てを黒の靄へと変化させ、煙幕のようにオオトカゲの視界を遮り、3人で揃って離脱したのだ。オオトカゲが警戒してその場を動かないでいるうちに、ドゥームたちはその場を去っていたのである。

 オオトカゲの後方へと逃げたドゥームたちは苛立つ反面、内心でほっとしていた。


「危なかった。なんだ、あの魔獣は」

「さあ。でもあれほどの魔獣、早々見るものじゃないわ。ひょっとしたらファランクスなんかより、相当上位の魔獣なんじゃない?」

「実際戦っていないからわからないけど、あの息吹はまずい。ドラグレオのそれに似ていたね」

「全てを破壊するとかいう、例の?」

「ああ。食らったら僕たちでもまずいかもしれない」


 ドゥームはライフレスですら傷を受けたというドラグレオの息吹を思い出し、その身を震わせた。


「ともかく、逃げるのに成功したのは事実だ。これから先に行くとしようか」

「まだ探索を続けるの?」

「ああ、まだだよ。まだ具体的な成果は何もつかんじゃいない。確かに危険が伴うけど、それほどまでに上位の魔獣が守護しているなら、誰の手もついていない遺跡である可能性が高い。もしかすると、目的のものがあるかもしれない。

 さいわい、さっきのオオトカゲが出てきた場所がわかった。その先に行くとしよう」

「・・・離脱の準備だけは整えておいた方がよさそうね」


 オシリアは万一に備え、転移の魔法陣を仕掛けておいた。そして彼らは先に進み、ドゥームはぴたりとある場所で足を止めた。


「ここだ。ここからさっきのトカゲは出てきたんだ」

「・・・何もないけど?」


 ここは先ほどドゥーム達も通ったはずの通路。一方通行な何の変哲もないその道は、見晴らしよくすら感じてしまう。不思議そうな表情をするオシリアとマンイーターの傍で、ドゥームだけが笑顔だった。


「何もないからこそ、わからないのさ。この遺跡は立体構造だ」

「? まさか」

「そう、さらに下の階層がある」


 ドゥームは足元の土埃を払うと、悪霊を器用に使い、地面を持ち上げた。するとそこには、確かに下へと続く通路があったのだ。ドゥームは笑顔でマンイーターとオシリアを導くと、その下へとすたすた入っていく。

 彼らが入った下の階層は、今までと様子が違っていた。凹凸のある岩肌はなりを潜め、まるで磨かれた大理石のような光沢のある鉱石が壁面を覆っていた。所々に透明な鉱石をちりばめた壁面をドゥームはしげしげと見ながら、思わずため息を漏らした。


「うーん、これはすごいねぇ。この透明な鉱石には一点の曇りすらない。仮にこれが加工したものだとして、ここまで磨き上げるのは現在の加工技術じゃあ不可能だ。どうしたらこんなことが可能なのか知りたいけど、確実なのはこの加工技術は現代の文明をはるかに凌駕するね」

「と、いうことは?」

「古竜の文明、もしくはそれ以前ってことさ。ひょっとしたら、古竜たちすら力の及ばないことかもしれない。古竜たちがどんなに知恵と力を持とうとも、これほどの規模の遺跡を作り上げられるとは思えないからね。これだけの規模の物を作るには、相当の頭数が必要だ」

「古竜以上・・・どんな存在かしら」

「精霊とか、あるいは神なんて呼ばれる存在かもしれないね。腹立たしいじゃないか、オシリア。もしそんな連中がいる、あるいはいたとして、こうやって地上で踊り狂っている僕らをどこかで見物しているのだとしたら、いつか一泡吹かせてやりたいと思わないか?」

「同感だわ」


 ドゥームとオシリアはそのようなことを話し合いながら、地下の探索を続けていた。幸いにして先ほどのオオトカゲは追いかけてこない。だがどこまで行っても同じような光景に、ドゥームたちもさすがに疲労感を覚えていた。実際に彼らが疲労するわけではないのだが、同じような光景と神経をすり減らす緊張の連続で、さしもの彼らも消耗していった。

 第一、上の階と同じだけの広さがあるのであれば、先ほどのような強力な魔獣との遭遇にも配慮しながらの探索になる。そうなるとあまりに準備が不十分だとドゥームが考え、一時撤退をどこにしようかと考えていた矢先である。

 ドゥームは慎重に周囲の気配を探っていたのだが、その彼が突如として何かにぶつかった。


「・・・?」


 そこは何もないはずの空間。先の壁まで見えていたと思っていたのに、何もないはずの空間に突如として球体の魔物が出現したのだ。



続く

次回投稿は、6/13(金)17:00です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ