ドゥームの冒険、その1~大草原の巨大遺跡①~
「よっこいしょ、っと。ようやくたどり着いたか」
ドゥームが目の前をふさいでいた木を、力づくで押しのけた。その後ろからオシリアとマンイーターが続く。二人は木を押しのけたことで宙に舞った木屑と埃を払いながら、口々に感想を述べていた。
「随分と分厚い樹木だったわね。南の大森林でもあまり見ないほどの樹齢の木だわ」
「固い、味しない、食べにくい」
二人にも疲労の色が濃い。いや、霊体である彼らに疲労などあるわけないのだが、それだけここに来るまで苦労した証拠だった。
彼らが今いるのは、かつてのファランクスの棲家。ユグドラシルが魔法で塞いだ、広大な地下道を持つ彼の棲家の入り口に、ドゥームたちは立っていた。ドゥームは達成感からか目を輝かせているが、オシリアは不満そうに彼の傍に立っていた。
「・・・で、私たちをここに連れてきた理由は聞かせてくれるのでしょうね?」
オシリアの魔術が既にドゥームの喉元に食い込んでいる。納得のいく回答が得られない場合、すぐにでも彼の首はあらぬ方向に向くだろう。
こんな時いつものドゥームなら目が泳いだり、嫌な汗をかくところだが、今回は自信をもってオシリアに答えた。
「僕の仕事はなんだい、オシリア?」
「土地を汚すこと。ついでに自分の下僕を増やすこと。そして遺跡を探すこと・・・今のところ、そんなものかしら」
「そうさ。オーランゼブルから遺跡の探索を命じられた僕は、表向き彼の言うことに従っている。時にその中の一部を掠め取ったり、あるいは空いた時間で余計な遺跡を探索しているのはご愛嬌、といったところだけどね」
「まぁ、真面目なあなたもどうかと思うけど」
オシリアはそのように毒を吐いたが、マンイーターは傍で無言のまま頷いた。ドゥームはがっくりと項垂れながら解説を続ける。
「と、とにかくさ。遺跡を沢山探るうちに見えてきたことも多いわけさ」
「たとえば?」
「遺跡の年代は様々だ。オーランゼブルからは簡単な説明しか受けていないが、遺跡や迷宮の多くは天然にできたものは少なく、誰かの手が加わったものが意外と多い。ゆえにそれらの建築様式を見ればおおよその年代がわかる。オーランゼブルからはその年代を見て、大戦期前後のものを攻略するようにとの命令を受けたけど、その中には明らかに古すぎて年代がわからないもの、そして『あるはずのないもの』が存在することがわかってきた」
「あるはずのないもの?」
オシリアとマンイーターが同時に首をかしげる。ドゥームは調子を戻し、得意げに説明した。
「そう、あるはずのないものだ。大戦期より、いや、そのずっと以前。たとえばハイエルフや古巨人たちの時代よりも古いもの。なのに、そこには文化の跡がある。それはいったい何を意味するのか」
「古竜たちの文化ではなくて?」
「最初はそうかと思っていたんだよ、壁画の一枚を見るまではね」
ドゥームはいつになく真剣に語った。
「抉れていたせいで一部しか見えなかったけど、そこには魔人と古竜が共に描かれていた。それも戦うのではなく、共に何かを崇めているように見えた。いや、そう見えただけで実際は違うのかもしれないけど、僕らが知っている知識というのは、古竜と魔人は天地を分けた戦いをしたということだけだ。もしそれとは別の、同等にしろもっと高次の存在にしろ、そのような者がいたとしたら、今はどうしていない?」
「・・・わからないわ」
「僕は知りたいのさ。それこそが、オーランゼブル攻略の鍵を握る気がする。いや、この先もずっとこの大陸の命を弄ぶためには、オーランゼブルを圧倒できる力が必要だ。わかるかい?」
「それはわかるかも。そういうところには力を入れるのね」
「僕は遊びにも全力で取り組む性質でね。その方が楽しめるだろ?」
ドゥームは自分が全力で楽しむためには、仕掛けを施す段階で全力である必要性を感じていた。だからこそ、罠にかけた時の相手の表情を見て、愉悦に浸れるのだと知っている。
ドゥームは今一度考えを巡らせてみた。この先にあるものは何なのか。もしかすると、自分はもう答えの一端に触れているのかもしれないと、ドゥームはふと思った。脳裏に浮かぶのは、ユグドラシルの顔。
「(あいつ、全ての答えを知っている気がする。それとも奴自身が答えだとでも? ふん、どっちでもいいさ。答えにたどり着くまでの過程も楽しみってね)」
ドゥームは気を取り直すと、改めてぽかりと空いた魔獣の体内のごとき洞窟に足を踏み入れたのである。
続く
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