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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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逍遥たる誓いの剣、その78~ドーラ②、エルリッチ①~

 ドルトムントも、このような視線には慣れていた。自分の正体を知った者は、おおよそ同じような視線をするからだ。もっとも、その類の視線を受けるのは実に数百年ぶりだったかもしれない。

 ドルトムントはひとしきりブランシェをなだめると、彼女にエルリッチの課題を終了させるように言いつけ、エルリッチとライフレスと共にその場を後にした。


「長らくお傍を開けていましたが、いつ例の計画は発動なのですか、王よ」

「詳しい時期は俺も知らされていない。まもなく、とのことだったが。時節はおおよそ予想がつくが、それだけだ」

「ですが、そのための仕掛けはサイレンスが進めていたのでは? 奴は間抜けなことに、人間の小僧に仕留められたと聞きましたが。しかも、アルフィリースの傭兵団に独断でちょっかいをかけたうえで死んだとか。おかげで死んだにもかからわず、報復は行われないと聞きました。全く、そんな間抜けが黒の魔術士にいたとは笑わせてくれる」


 エルリッチが小馬鹿にしたように鼻でせせら笑った。だがライフレスは肯定しなかった。


「・・・間抜けかどうかは、これからわかる。計画に変更がない以上、サイレンスの仕込みは全て終わっているらしい。奴がいようがいまいが計画に支障はなく、そういう意味では、奴は成すべきことを終えていたということだ」

「では我々の役目は?」

「計画が始動しても、外部からのちょっかいが入る可能性がある。我々の役目はそれらの勢力を排除することだ」

「そうなるとオリュンパスや討魔協会とは、ことを構えてよいと?」

「そういうことだろうな。とにかく何が起こるかわからん。そういう意味では不測の事態が最も起こりうる役目だが、準備だけはしておけよ。久々の戦いになりそうだ」


 ライフレスが楽しそうに告げて去って行ったので、残されたエルリッチとドルトムントは頭を垂れて恭順の意を示した後、ライフレスの気配が去ってから顔を見合わせた。


「・・・どう思う?」

「どう、とは?」

「この計画のことだ。なぜ戦争を起こす? いや、戦争そのものは構わん。だが、かの土地にこだわる理由はなんだ? アノーマリーの大規模な工房があるのは知っている。カラミティも随分と長い年月をかけて仕込みを行ったのも知っている。だがそんな面倒なことをしなくとも、我々の戦力なら力押しで十分なはずだ。人間同士で争わせる理由がわからん」

「なるほど。元魔王連合を組織した魔王としては、陰謀の理由に納得できんわけか」

「そうだ」


 エルリッチは素直に認めた。髑髏に表情があろうはずもないが、エルリッチは真剣に悩んでいるように見える。


「計画には明確な目的と理由が必要だ。それがわからねば、我々はただの駒だ。いや、駒であるのは仕方なかろう。オーランゼブルは我々よりはるかに高次の存在だし、現時点で我々は抗う術を持たぬ。私は人間が無残に死んでいくことには賛成だが、一つだけこの計画に不満があるとすれば、我が主がオーランゼブルに操られたままなのは好かぬ」

「・・・お前、気づいていたのか」

「ああ」


 ドルトムントは少し驚いた。エルリッチはもっと暗愚の存在だと思っていた。事実エルリッチが役立つのを見たことはないし、その能力も不明だったからだ。

 彼らは歩きながら、エルリッチは話し続ける。


「私の人生は後悔ばかりだ。私はいつも何か一つのことに没頭するあまり、その他の何かが目に入っていなかった。そもそも魔王になったきっかけもそうだし、魔王の連合を率いた時も、やりたくてやっていたわけではない。それなのに周囲が暴走したせいで、最後は勇者やアルネリア教会に目を付けられる羽目になった。今更ながら、とんだ誤算だった」

「その割には、邪悪な発言や行動が目立ったようだが?」

「そうでもしなければ、魔物たちは私を主と認めなかったろう。魔物は基本人間と敵対する生き物だ。人間に情など見せる主に、誰が従うというのか。これも処世術の一つだ」

「本質は小市民のままか。話だけを聞いていると、随分と情けない話に聞こえてくる」

「そうだ、実際情けない話なのだ。だからこそ、私は名前に実を伴わせるために必死で努力したのだ。そして魔王の中でもそれなり以上に実力をつけたつもりだったが、そこにあの不死身の女、ミランダだ。腕がもげようと足を切り取ろうと前進をやめない女相手に、私は死んだふりをするので精一杯だった。

 何をどうしても死なない相手というのは、まさに恐怖だ。そもそも私は戦いに向いていない。今冷静に考えれば、相手を凍結させるとか、あるいは首を切ったまま放置するとかいろいろと考えようもあるが、当時はそんな余裕などなかった。ただただ、あの女に恐怖したよ」

「ふむ。あえて言わせてもらうが、その臆病者がなぜ今ライフレス様に仕える? 貴様は俺が久方ぶりに出会ってみれば、いつの間にかあの方に仕えていたが、その真意は一度として聞いたことがない。」


 ドルトムントが鋭い視線を向けた。エルリッチは歩みを止めると、しばし間をおいてドルトムントに答えた。



続く

次回投稿は連日です。6/4(水)18:00に投稿します。

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