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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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逍遥たる誓いの剣、その74~反逆の芽①~


「――で、イプスの亡骸を辱めるだけの見返りはあるのだろうね?」

「ワイの情報によると、ブラディマリアとその執事たちは全員が血縁関係にありますねん。血の流れは、少数しか個体のいない魔人にとって何より重要。つまり誰かが死んだことを、ブラディマリアは感じ取ると推測されとります」

「なぜそんなことがわかる?」


 マルドゥークが鋭い視線をブランディオに向けた。ブランディオは意に介さないようにして続ける。


「昔魔王を倒した国が一夜にして滅びたという歴史がありました。おそらくそれがブラディマリアの行ったことかと。まあ土地が持っている歴史をつなぎ合わせて推測しただけですが」

「死んだのがユーウェインかどうかまでわかるのか?」

「さぁ、そこまでは。でもブラディマリアが大きな動きをしていないとなれば、ユーウェインなるものと同時期に誰かが死ぬとは考えにくいかもしれへん。それに基本、ブラディマリアは執事たちを手元から離しません。昔グラハムとミリアザール最高教主に殺されまくった反省からやろなぁ」


 ブランディオがぬけぬけと告げた事実に、マルドゥークが目を丸くしたが、ラペンティは冷静にその言葉を受け止めた。


「ブランディオや。その事実をどこで知った?」

「まぁいろんなところからですわ。英雄王に関する記録をもっとも保管しているのはアルネリアでしょう。何せ、ミリアザールはまだライフレスがグラハムとして活動していた時期を知っているんですから。まあ知る手段なんて、それこそどこにでもあるんですわ。

 もしグラハムが現在と同じような戦力を保有していたとして――まして部下にも英雄ぞろいのグラハム。その英雄たちがいつの間にか史実からは削除されていった事実。そしてグラハムが王位にいながら、当時人間の版図はほとんど広がっていない史実。

 それらを合わせて推測した事実は――グラハムは当時ブラディマリアと、あるいはその眷属と戦っていた」


 ブランディオの言葉にラペンティが大きく息を吐いた。マルドゥークもブランディオも彼女の発言を待った。


「・・・私は時にアンタが怖くなるよ、ブランディオ」

「やっぱりその通りなんや?」

「これは直接最高教主から聞いたことではない。だけど、史実がそう告げているのさ。グラハムは当時、華々しい戦果を表で上げながら、同時に裏で強力な魔王たちと人知れず戦っていた。それこそが彼の本当の戦いであり、そしてあれだけの王国があっという間に衰退し分裂した真の理由であると私は推測している。

 それだけに、今のグラハムの行動が納得いかない。真に高潔であった彼が、何ゆえにこのような行動をとるのか」

「それも推測だけならできますわ。今のグラハム――ライフレスは明らかに人間やない。その体になるために、いくつかの犠牲を払った。たとえば人格とか、記憶とかも考えられますなぁ。あとはオーランゼブルがあれだけの駒に言うことを聞かせるのに、何らかの魔術的制約を施していると考えるのが自然ですやろ。そうなったら、オーランゼブルの魔術の影響とも考えられますわなぁ」

「なるほど、可能性の一つとしては考えられるねぇ」


 ラペンティが素直に頷いた。どうやら彼女の頭脳が回転を上げているようだ。齢70歳を過ぎても衰えを感じさせぬ彼女の明晰な頭脳は、今も彼女に付き従う者たちにとって何より頼りになるしるべである。

 ラペンティは直接の戦闘能力こそ衰えたが、魔術の冴えは変わらないし、今でも単独で魔王を狩ることも造作もない。それこそが彼女が権勢を保てる理由でもあった。

 やがてラペンティは一つの結論を出した。


「・・・黒の魔術士たちの攻略の糸口が見えてきたかもしれないねぇ」

「おお、本当ですか?」

「まだまだ調節しないといけないことも多いけど、少なくとも工房を潰す算段と、彼らにとっての天敵を差し向けることはできそうだね。さしあたって、ヒドゥンとかいう敵は早々に抑えたいね」

「ミナール大司教でも不覚をとったようですが?」


 マルドゥークの言葉に、ラペンティが企み深げな笑みを浮かべた。その表情にブランディオもマルドゥークも、何を意味しているのか気付いた。


「ばあさん、まさか・・・」

「巡礼3番のメイソンを呼び戻すので?」

「いけないかい?」


 ラペンティがさも当然のように提案したので、マルドゥークとブランディオは日ごろ仲が悪いのも忘れて、同じように反論した。


「あの男を呼び戻しても百害あって一利なしです! どうか再考を!」

「せやせや、あれは誰の言うことも聞かへんわ。制御不能でワイらまでかき回されるのがオチや。せやからあいつはあらゆる招集も免除され、一人辺境で魔物を狩ってまわってんねやろ?」

「じゃが馬鹿ではない。取引はできるだろう」


 ラペンティの言葉に二人はそれぞれうつむいたが。


「何か策がおありなのですね?」

「うむ。ゆえにポランイェリを既に向かわせた。話術に長けたあやつなら、無事に殺されずに帰ってくるであろう」

「以前から唯一メイソンと会話できたからなぁ・・・あー、やっとアルネリア内が静かになったと思っとったのに、また一悶着ありそうやなぁ」


 ブランディオはそう言いながら頭を抱えたが、彼の言葉はすぐにでも現実のものとなることは、ラペンティもマルドゥークも予想がついていた。



続く

次回投稿は、5/28(水)18:00です。


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