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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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逍遥たる誓いの剣、その73~揺れる誓い②~

「そっか。アルフィは直に会っているけど、リサは知らないんだね。巡礼の2番手、シスター・ラペンティ。齢70を超えるばあさまだが、不動の巡礼の2番手さ。いまだに現役で、直接戦闘でもかなりの腕前だ。それに搦め手、交渉、なんでもござれの素晴らしい巡礼者だ。それに慈善活動なんてのも得意だね。世に言われる完璧なシスター像を絵に描いたような女性であり、かつその実力、名声共に申し分なし。彼女のお蔭で事前に潰された戦争は数知れず。それに討伐された魔物もね」

「それほど万能の人物がアルネリア教にいるとは。ミランダよりもよほど手本としてふさわしいのでは?」

「ほっとけ!」

「いつの時代にも、寵児というものは存在するものよ。現在の巡礼者、大司教共に優秀だが、先代にもそれらを凌ぐ優秀な連中は多数存在した。特にラペンティの任務への打ち込み方は異常ともとれるほどで、滅私という言葉がよく似合う女じゃった。その美貌ゆえに数多の王侯貴族からの求婚があったにもかからわず、全て断り、巡礼任務に没頭し続けた。

 ワシとしては人間味のなさゆえに不気味じゃったが、優秀がゆえに手放せなくもあった」

「そして増長した、ということですか?」

「増長とは少し違うかもしれん。なにせ助けた人々の顔を見て、心から自らの行いを誇れるような女じゃった。それはこのアルネリアに奴が属した時から、まるで変わっておらんはずじゃ。まさに彼女こそ聖女と呼ばれるにふさわしきほど、高潔な人物よ」


 リサはますますわからなくなった。それほど高潔なら、なぜミリアザールに弓引くのか。可能性があるとするならば――。


「彼女は貴女が魔物であることを知っている?」

「自ら気づきよったわ。だがそんなことは些細なことだと、かつてのラペンティは述べたがな。それでも初めて奴が悩んだのを見たかもしれん。高潔ではあるが、多少潔癖であるのも事実じゃった。ワシの行為そのものには賛同していたが、ワシの正体については受け入れがたい部分もあったとみている。

 その後の行動に変化がなかったため見逃していたが、もしそのことが思ったよりもラペンティの中で尾を引いているのなら――それが反逆のきっかけであった可能性は十分に考えられる」

「だが証拠がないのさ。ラペンティは腹が立つほどに有能だ。あれの尻尾を掴むのは容易ならざることだということが、この一年程度でわかってきた。だからこそイプスなら何かしらボロを出すかと思ったんだけど」


 ミランダは悔しそうに爪を噛んだ。反撃の糸口をつかもうとしたら、その糸ごと切られた。そんな印象を受ける敵の手口だった。

 リサも含めて思案にくれる三人だったが、ふとリサが口を開く。


「他の巡礼はどうなのです? 上位10人のうち、まだ何人か詳細を知らない者もいますが」

「4番はだめだ。あれはラペンティの右腕とでもいうべき子飼いの部下だ。ラペンティの言うことしか聞かないだろうし、信念に準ずる種類の人間だ。懐柔とか、そういった手段が一切通じないだろう」

「3番になるともっと厄介じゃのう。懐柔云々より、明らかにイカれていて制御不能じゃ。ワシにも何ともならん」

「3番・・・誰だっけ?」


 ミランダが首をかしげたので、ミリアザールがはたと思い立った。そういえばミランダが知る由もないかとふと思い返す。


「そうか、知らなんだか。面識がないのも無理はあるまい、ここ数年で台頭してきた男じゃからな。奴の名前は『狂信者』メイソン。聖女アルネリアに傾倒したイカレ男で、本気のワシと互角以上に渡り合あったこともある戦闘狂じゃ」


 ミリアザールの言葉に、思わずミランダとリサが顔を見合わせるのだった。


***


「・・・ってな具合ですわ」

「そうか、大義でありました」

「別に大義ちゃいますわ。面倒ではあったけどなぁ」


 ブランディオがラペンティの執務室の机の上で、退屈そうに置物を手の中で遊ばせながら地下水路の出来事を報告していた。ラペンティが眉を顰めながら、その様子を見守る。


「何か不満があるのかしら?」

「いやぁ、ぶっちゃけイプスは仲間にいらんかったとは思ってます。中心に据えるべき人材だけを考えるなら、ばあさんと、そこにいるむっつり騎士と、ワイとウルスラでこと足りる。後は手足になる有象無象がおったらええ」

「誰がむっつり騎士か」


 ラペンティの傍に控える精悍な騎士が、不満そうに声を荒げた。巡礼の4番手、神殿騎士マルドゥーク。神殿騎士でありながら、巡礼者としてアルネリア外での戦いを選択した彼は、忠実なラペンティの右腕と考えられている。その生真面目なマルドゥークとブランディオは、犬猿の仲としても知られている。彼らはとかく互いのやることに口出しすることが多いと考えられているが、そのほとんどはマルドゥークがブランディオの行動を咎めているというのが実情であった。ブランディオはそれがわかっていて、わざとマルドゥークの前でだらけて見せている、というのもある。

 今回もブランディオが挑発した形に、マルドゥークが反応しているのである。


「訂正してもらおうか」

「せやなぁ。むっつり騎士は訂正しますわ、むっつりマルドゥークさん」

「・・・貴様」

「おお? やるかぁ?」

「やめぬか」


 ラペンティがペンで机を叩き、二人を制した。二人に争われたら執務室が滅茶苦茶になりかねない。二人はおとなしくラペンティの制止を受け入れたが、その目線はいつでも受けて立つといわんばかりに睨み合ったままである。

 ラペンティはらちが明かぬと、話を先に進めた。



続く

次回投稿は、5/26(月)18:00です。

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