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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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逍遥たる誓いの剣、その62~騎士の資格②~


「そうだ――それがどうした?」

「ナゼあんなことを? お前ハ俺たちの敵ではないノカ?」

「俺の役目はジェイクを守ることだった。そうしないとあの愚かなドゥームが殺しにこないとも限らなかったからな。彼の重要性に注目しているのはミリアザールだけではない。彼が生まれた時から――そう、まさに千年に一人の特性持ちには、オーランゼブルや他の存在も目をつけているのだよ。俺は主の情報をもらう代わりに、オーランゼブルの手伝いをしていたのだ。

 だがもう必要あるまい。今のジェイクの力量ならそうやすやすとドゥームごときに殺されることもないだろうし、神殿騎士団での重要性も周囲が認め始めた。彼は既にアルネリアにとって大切な人間となりつつある。何かあれば周囲が必死に守るだろうからな。俺の、アルネリアでの役割は終わりだ」


 そう告げてドーラは暗がりにちらりと目を向けた。その先にはブランディオがいたが、彼が何らかの反応を示すことはなかった。ただ暗がりからじっと、彼はこの邂逅の行く末を見つめていただけである。

 ブランディオに動く気配がないことを確認すると、ドーラは改めてクルーダスに向き直った。


「さて、お前をどうするかだが」


 ドーラの言葉にクルーダスはごくりと唾を飲み込んだ。そしてドーラは二刀をかちりと握りなおした。


「残念だが、ここで死んでもらう必要がある」

「ナに?」

「俺はもうこの都市を脱出する必要がある。だがお前は、このままではジェイクを殺すだろう? 俺がジェイクにしてやれる、友として最後のことだ。もっとも向うは、俺のことをもはや友だとは思っていないだろうが」

「俺ガ――本当にジェイクを殺すと思うのカ?」

「ああ、殺すさ。お前の能力はジェイクに対する嫉妬と共に目覚めている。その能力を仮に今抑えることができたとしても、ジェイクに対する嫉妬は残るだろう。そしてお前はジェイクに嫉妬するたび、その能力を暴走させる。ジェイクへの殺意と共にな。

 もうお前は騎士には戻れない。お前はただの戦士だ。自分の欲望に従ってのみ剣を振るう存在だ。そのような輩がどのような結末を辿るか、俺は腐るほど知っている。騎士とは守るべきものと、自分の信念によって剣を振るうものだ。お前に信念と呼べるものはなく、人生の中で得られもしなかった。残念だ」

「貴様が騎士道を語るナ! 何様のつもりダ!?」

「――お前たち人間が、俺のことをかつて『最初の騎士』と呼んだのだ。俺はそのようなつもりはなかったが、自らの信じるものと、友と、そして主のために剣を振り続けた。今もこれからも、それは決して変わらん」


 ドーラの後ろにある影がぐにゃりと変化すると、ドーラはその中に手を突っ込み、外套をばさりと取り出した。いや、闇を外套の形に変化させたというべきか。ドーラはばさりと外套を羽織ると、大きく息を一つ吐いた。


「抵抗するならお前の全生命力を懸けて抗え。でなければ貴様は戦士ですらない、ただの人殺しだ」

「なんダと!?」


 クルーダスが吠えたが、ドーラが嘘を言っているとは思えなかった。それが証拠に、ドーラの剣力はクルーダスをはるかに凌ぐだろう。対して、クルーダスにはまともな武器さえない。

 クルーダスは考えた。この場であの強力な武器を持つドーラに対抗するにはどうするべきか。クルーダスは力を解放したてで朦朧とする意識をまとめ集中し、一つの答えを高速で導き出した。


「ほう・・・」


 前に踏み出しかけたドーラの足が止まる。クルーダスは、魔術で欠けた剣を補っていた。光の魔術を器用に剣の形に作り上げているのだ。クルーダスにしてみれば、ほとんど無意識の動作だったが、驚くほど滑らかにその魔術は行われた。

 ドーラが素直に称賛を送る。


「見事なものだ。剣に対してよほど思い入れがなければ、いくら土壇場でもそう上手く発動しないだろう。それはお前が将来身に着けるはずだった力だ。惜しいかな。鍛えればお前はよい戦士になったであろうに、騎士であろうとしたばかりに破綻したか」

「だまレぇ!」


 クルーダスは吠え、猛烈に突進した。ドーラがどのような者であるか、どのような実力であるかは既に頭から消えていた。ただ、自分の全てを否定しようとする存在が許せなかった。



続く

次回投稿は、5/5(月)20:00です。


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