逍遥たる誓いの剣、その62~騎士の資格②~
「そうだ――それがどうした?」
「ナゼあんなことを? お前ハ俺たちの敵ではないノカ?」
「俺の役目はジェイクを守ることだった。そうしないとあの愚かなドゥームが殺しにこないとも限らなかったからな。彼の重要性に注目しているのはミリアザールだけではない。彼が生まれた時から――そう、まさに千年に一人の特性持ちには、オーランゼブルや他の存在も目をつけているのだよ。俺は主の情報をもらう代わりに、オーランゼブルの手伝いをしていたのだ。
だがもう必要あるまい。今のジェイクの力量ならそうやすやすとドゥームごときに殺されることもないだろうし、神殿騎士団での重要性も周囲が認め始めた。彼は既にアルネリアにとって大切な人間となりつつある。何かあれば周囲が必死に守るだろうからな。俺の、アルネリアでの役割は終わりだ」
そう告げてドーラは暗がりにちらりと目を向けた。その先にはブランディオがいたが、彼が何らかの反応を示すことはなかった。ただ暗がりからじっと、彼はこの邂逅の行く末を見つめていただけである。
ブランディオに動く気配がないことを確認すると、ドーラは改めてクルーダスに向き直った。
「さて、お前をどうするかだが」
ドーラの言葉にクルーダスはごくりと唾を飲み込んだ。そしてドーラは二刀をかちりと握りなおした。
「残念だが、ここで死んでもらう必要がある」
「ナに?」
「俺はもうこの都市を脱出する必要がある。だがお前は、このままではジェイクを殺すだろう? 俺がジェイクにしてやれる、友として最後のことだ。もっとも向うは、俺のことをもはや友だとは思っていないだろうが」
「俺ガ――本当にジェイクを殺すと思うのカ?」
「ああ、殺すさ。お前の能力はジェイクに対する嫉妬と共に目覚めている。その能力を仮に今抑えることができたとしても、ジェイクに対する嫉妬は残るだろう。そしてお前はジェイクに嫉妬するたび、その能力を暴走させる。ジェイクへの殺意と共にな。
もうお前は騎士には戻れない。お前はただの戦士だ。自分の欲望に従ってのみ剣を振るう存在だ。そのような輩がどのような結末を辿るか、俺は腐るほど知っている。騎士とは守るべきものと、自分の信念によって剣を振るうものだ。お前に信念と呼べるものはなく、人生の中で得られもしなかった。残念だ」
「貴様が騎士道を語るナ! 何様のつもりダ!?」
「――お前たち人間が、俺のことをかつて『最初の騎士』と呼んだのだ。俺はそのようなつもりはなかったが、自らの信じるものと、友と、そして主のために剣を振り続けた。今もこれからも、それは決して変わらん」
ドーラの後ろにある影がぐにゃりと変化すると、ドーラはその中に手を突っ込み、外套をばさりと取り出した。いや、闇を外套の形に変化させたというべきか。ドーラはばさりと外套を羽織ると、大きく息を一つ吐いた。
「抵抗するならお前の全生命力を懸けて抗え。でなければ貴様は戦士ですらない、ただの人殺しだ」
「なんダと!?」
クルーダスが吠えたが、ドーラが嘘を言っているとは思えなかった。それが証拠に、ドーラの剣力はクルーダスをはるかに凌ぐだろう。対して、クルーダスにはまともな武器さえない。
クルーダスは考えた。この場であの強力な武器を持つドーラに対抗するにはどうするべきか。クルーダスは力を解放したてで朦朧とする意識をまとめ集中し、一つの答えを高速で導き出した。
「ほう・・・」
前に踏み出しかけたドーラの足が止まる。クルーダスは、魔術で欠けた剣を補っていた。光の魔術を器用に剣の形に作り上げているのだ。クルーダスにしてみれば、ほとんど無意識の動作だったが、驚くほど滑らかにその魔術は行われた。
ドーラが素直に称賛を送る。
「見事なものだ。剣に対してよほど思い入れがなければ、いくら土壇場でもそう上手く発動しないだろう。それはお前が将来身に着けるはずだった力だ。惜しいかな。鍛えればお前はよい戦士になったであろうに、騎士であろうとしたばかりに破綻したか」
「だまレぇ!」
クルーダスは吠え、猛烈に突進した。ドーラがどのような者であるか、どのような実力であるかは既に頭から消えていた。ただ、自分の全てを否定しようとする存在が許せなかった。
続く
次回投稿は、5/5(月)20:00です。