逍遥たる誓いの剣、その60~クルーダス⑯~
「っ――!」
無造作なクルーダスの上段を受け、ジェイクは選択を誤ったことを知った。クルーダスが振るう剣のあまりの衝撃に、ふんばったジェイクは鼻血を出していた。そして足が整地された地面にめり込んでいる。体全体が悲鳴を上げ、腱のいくつかが裂けたように痛んだ。
剣が折れなかったのは幸いだったが、この膂力で何度も叩きつけられては剣がもたない。ジェイクはクルーダスの攻撃を受け流すことにした。だが――
「(どうやって? 今まで一度も勝ったことのない相手の、本気の剣をどうやって捌くんだ? そんなこと、できたとしてもいつまでももつものではないし、それよりも――)」
それよりも――なんだというのか。ジェイクは一瞬湧き上がった考えを確かめる間もなく、クルーダスの猛攻を目の前に、我に返っていた。
「ジェイクぅううう!」
「うおっ!?」
クルーダスの猛攻。無茶苦茶な態勢から繰り出される攻撃は、そのどれもが必殺。今までのクルーダスのような整然とした攻撃ではないものの、逆にその猛々しさは迫力を持っていた。
ジェイクは何も考えず、ただ必至にその攻撃を受け続けていた。一撃でも受け損なえば、命がないことは明白。ジェイクはただただ、クルーダスの攻撃を受け続けるしかなかった。
そして――
「・・・?」
ジェイクはあることに気が付いた。徐々に、本当に徐々にだが、クルーダスの攻撃が緩んでいる気がする。クルーダスが疲れてきたのか、いや、そんなはずはないとジェイクは考えた。まだ打ち合ってからものの30秒も経ってはいまい。無尽蔵のごとき体力を誇るクルーダスが、これしきで疲れるはずがないのだ。
ジェイクはさらに妙なことに気がついた。今までこんなことを考える余裕はなかったはずだ。だが今は? ジェイクは次のクルーダスの攻撃を考えてみる。
クルーダスは上から自分の右肩にかけて振り下ろす。それを勢いを逸らして地面を叩かせる。ほら、その通りになった。次はそのまま横薙ぎに攻撃が来る。受けたら剣が折れかねないし、態勢が崩される。だから一歩下がって間を作り、剣は下からかち上げる。よし、その通りにできた。次は? 今度は逆袈裟斬り。これは受けないで、先ほどできた間を活かして紙一重でよける――ほら、上手くいった。
ジェイクがクルーダスの猛攻をしのぎ始めていた。金の体毛に覆われた顔色が変わるクルーダス。
「ナゼ、当たらナイ!?」
「!」
クルーダスが思わず叫んだその一瞬、ジェイクはクルーダスの隙を見逃さなかった。話した分だけ、剣の返りが遅れる。これが反撃の絶好の機会だった。
ジェイクは無意識のうちにクルーダスを横から斬りつけようとした。吸い込まれるように振りだした剣。ジェイクは夢中だった。クルーダスがどうなるとか、自分がどうなるとかは考えていない。
「(やられル?)」
危機を感じたクルーダスは、せめて相打ちにすべくさらに剣速を上げた。このままでは相打ちになる。だが互いにそんなことは気にしてもいなかった。ただ目の前の相手を倒すことしか頭になかったのだ。
その絶対的に思われた結末を変えたのは、突如として飛び込んできた一つの影だった。
「ナに!?」
「!?」
突然の衝撃にクルーダスは自分の愛剣がたたき折られる衝撃を感じた。クルーダスの剣を追い越すような速度で放たれた打ち落とし。方向を変えられあらぬ力で地面に叩きつけらたクルーダスの剣は、半ばから折れてしまっていた。
そしてジェイクの剣は見事に止められていた。ジェイクの剣を止めたのは漆黒の剣。そしてジェイクが力を込めてもびくともしない相手は、華奢ともいえる細腕で片手でその剣を支えていた。そしてその腕の持ち主は――
「ドーラ?」
「ジェイク・・・」
クルーダスとジェイクの間に割って入った人物を、ジェイクが見まがうはずがない。だれであろうその人物は、なんとドーラだったのだ。
続く
GWにつき、連続投稿始めます。期間は私が息切れるまで。
次回投稿は5/3(土)21:00です。